2023/09/21(木)のゾンビ論文 認知症もHIVもゾンビと呼ばれるんですって
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)
「zombie -firm -consciousness」(取りこぼし確認その2)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」/「-consciousness」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」/「-botnet」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、検索条件4と5では、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。
今回、それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -botnett -xylazine -biolegend -gender」二件
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」二件
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」二件
「zombie -firm -philosophical」二件(差分ゼロ件)
「zombie -firm -consciousness」二件(条件4との差分ゼロ件)
検索条件1-3は科学コミュニケーション学、心理学が一件ずつだった。
検索条件1「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」
ゾンビのいる世界を救うには? — 若者を巻き込むための科学的アプローチ
一件目。
原題:How to save the world with zombies? — A scientainment approach to engage young people
掲載:Journal of Science Communication
著者:Petra Bättig-Freyを筆頭著者として、四名
ジャンル:科学コミュニケーション学
ゾンビがいる世界を仮定したレクリエーション活動記録、という印象。タイトルで科学的アプローチを謳っており、活動の主目的が持続可能性にあるようだ。
論文中では活動は"zombie mission"(ゾンビミッション)と呼ばれており、アプリと庭園を組み合わせたミッションを学生に提供し、学生はミッションを通して楽しく科学的事実に触れることができたようだ。
ジャンルは科学コミュニケーション学。
きれいな言葉はきれいな心から
二件目。
原題:Temiz Zihin, Temiz Dil
掲載:Türk Psikiyatri Dergisi
著者:Yavuz AYHAN
ジャンル:心理学
トルコ語で書かれた論文。比較的なじみある英語に翻訳すると、次のようになる。
原題:Clean Words Come Out of Clean Minds
掲載:Turkish Journal of Psychiatry
著者:Yavuz AYHAN
英語版はこちらのリンクにある。
zombieの単語が出てくるのは次の文章。タイトルの通り悪口の心理を扱っており、そのたとえとしてSNSで見られる病人への悪口を取り上げている。
認知症やアルツハイマー病の患者をゾンビと呼ぶ例があることは、今までも何回か論文を通して紹介してきた。
認知症は感染しない。ゆえに認知症患者がゾンビと呼ばれる所以は人間らしさの喪失、つまりうめき声をあげながらのたのたと歩くゾンビの姿に認知症患者の姿を重ね合わせていると考えられる。悪意の有無にかかわらず、短絡的な思考に起因することは想像に難くない。
しかし、HIV感染者がゾンビと呼ばれるのは悪意がある。HIV感染者にはゾンビと呼ばれるような要素はない。ただ、肉体的接触によって感染することのみが要素だ。ただ、通常の感染症患者をゾンビとは呼ばない。海外では呼ぶのかもしれないが。
であれば、HIV患者をゾンビと呼ぶのは穢れが原因だろう。「穢れ」が「感染する」と認識されたとき、ゾンビと呼ぶ条件がそろうのだ。
ジャンルは心理学。
検索条件1-3の差分(差分なし)
「DDoS/botnet」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。
今回は差分がなかった。
検索条件4と5「zombie -firm -philosophical / consciousness」(差分なし)
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。
また、哲学的ゾンビのみを排除するには「-philosphical」(哲学的な)と「-cousciousness」(意識)のどちらが良いかを探るために、検索条件の4と5を比較する。
前者は哲学的ゾンビが英語でphilosophical zombieとつづることから、後者は哲学的ゾンビが人間の意識の有無に注目した概念であることから、それぞれ排除可能と想定している。
今回は、検索条件4も5も、検索条件1-3と差分がなかった。
まとめ
検索条件1-3は科学コミュニケーション学、心理学が一件ずつだった。
心理学の論文は私に新しい知見を与えてくれた。ゾンビと呼ばれる病人は認知症患者、アルツハイマー病患者、そしてHIV患者である。おそらくもっといるだろう。
何かがゾンビの称号をもらったとき、そこにネガティブな意味が込められていることは分かっていた。しかし、「死んだら生き返る」「生きてはいるが死んだも同然である」ことが前提になっていると思っていた。今回の論文を通して、それは無生物をゾンビと呼ぶ場合に限られ、ゾンビという呼称が人間に向かった場合、そこには「穢れ」と呼ぶべき嫌悪感が込められていると見るべきだということに気が付いた。
その観点で、何がゾンビと呼ばれるかを探してみるのも面白いかもしれない。
今回はねらいの論文がなかった。