2023/05/20(土)のゾンビ論文 ゾンビアリの菌糸ネットワークをモデリングする
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」(経済学・哲学・情報科学のゾンビ論文避け)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」(-companyの効果を図るため)
このうち、「zombie -firm -philosophical -DDos」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないか、「zombie」の内容も確認する。また、4月まで経済学のゾンビ論文の排除を目的として「-company」を設定していたが、その効果があるのか改めて測定する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」二件
「zombie」三件(差分一件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」一件(排除一件)
「zombie -firm -philosophical -DDos」の二件は生物学、教育学が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -DDos」
インタラクティブな生物学的ネットワークのフェーズフィールド法: ゾンビアリから粘菌まで
一件目。
原題:Phase-Field Modeling of Interactive Biological Networks: From Zombie Ants to Slime Molds
掲載:PennState Universityに提出された博士論文
著者:Farshad Ghanbari
ジャンル:生物学
アリに寄生し、アリをコントロールし、アリが自分の生存に有利な環境にたどり着いたらとり殺す、ゾンビキノコが出てくる論文。しかしそのジャンルは菌類学ではなく生物学とするべきだと感じた。
なぜなら、ゾンビキノコを主題とした研究ではないからだ。この論文が主題としているのは、『フェーズフィールド法』である。Wikipediaを貼っておく。
ただ、Wikipediaの説明を一読しただけでは非専門家には意味がわからない。「拡散界面モデルを用いて、移動する自由界面位置を簡便に定義できる」という説明文がかろうじてわかりそうな雰囲気を醸し出している。
そこで、論文の方からアブストラクトを引用して具体的な応用例を見てみよう。
フェーズフィールド法の応用先は胚発生も含めた生物の成長や対話的応答をするネットワークなどの解析である。私にはまだ意味が分からないが、応用先を確認することで複数のチャンネルを開いておくと、今後の理解につながることがある。
大事なのは「菌類や粘菌など、周囲を餌として捕食する生物は、そのネットワークと環境との間に高度な相互作用が見られます」の一文である。ネットワークというのは菌類たちそのものを指す。環境というのは菌類たちから見た外の世界を指す。
菌類たちはエサを探して菌糸ネットワークを動かしながら行動範囲を広げる。このときの、ネットワークと環境の境界がWikipediaで言うところの「移動する自由界面」にあたる。また、菌糸ネットワークが行動範囲を広げる指標として環境の情報を得ようとする点が、論文のタイトルにもある「インタラクティブ(対話的応答)」にあたる。
フェーズフィールド法自体は菌糸ネットワークの動きを数値でモデル化することによって達成されるため、その研究にゾンビキノコを使ったということだろう。ただ、インタラクティブな部分をどうモデルに落とし込むかは想像がつかない。興味はあるが、ここで終わりとする。
私はアキノキリンソウ、あなたはアスターになる:先住民のオントロジーを使用した西洋の教育方法に革命を起こす事例
二件目。
原題:I'll be goldenrod and you'll be aster: the case for revolutionizing Western methods of teaching using Indigenous ontologies
掲載:STATE UNIVERSITY OF NEW YORKに提出された修士論文
著者:Joanna LoGerfo
ジャンル:教育学
zombieの単語が出てくるのは、以下のアブストラクトの一文のみ。よって、この論文はゾンビに関する論文ではない。
アキノキリンソウはキク科の一種で、アメリカケンタッキー州の州花。アスターも同じくキク科だが、どこかの州花という情報はない。
調べるのに大変な時間がかかるため以下は想像になる。まず、ケンタッキー州はアメリカの歴史上で先住民との軋轢を象徴する州のひとつだった。つまりアキノキリンソウとはアメリカ先住民族を指し、アスターはどこにでもいる花として今やアメリカを支配している白色人種を指しているのではないだろうか。
次に、この論文の著者は西洋の人間第一的な考え方を批判している。たとえば、次の文章だ。
この人間第一主義的な思想をどうにか矯正する必要があると著者は感じ、そこで「先住民のオントロジー」に目を付けたらしい。オントロジーは調べてすぐわかるものではなかったので、この論文の開設はここまでとする。
ジャンルは、以上の議論より教育学。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
ゾンビ企業と拡大監査報告書における開示
原題:Zombie firms and disclosures in the expanded audit report
掲載:Review of Managerial Science
著者:Nora Muñoz-IzquierdoとJosé Manuel Jiménez Mazarío、María-del-Mar Camacho-Miñanoの三名
ジャンル:経済学
"zombie firm"の文字列があるため、こちらの検索条件に引っかかった。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos -company」
ゾンビ企業には"zombie company"という表記もあることから、そういったゾンビ論文を排除するために設定した検索条件。
この検索条件では「zombie -firm -philosophical -DDos」にヒットした論文のうち、「company」の単語を含むゾンビ論文が排除される。その排除される論文が経済学の論文であれば、目的を果たしていることになる。
排除されていたのは以下の一件。
「私はセイタカアワダチソウ、あなたはアスターになる:先住民のオントロジーを使用した西洋の教育方法に革命を起こす事例」
companyの単語に引っ掛かったのは次の文章。目的を果たしているとは言えない。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos」の二件は生物学、教育学が一件ずつだった。
どちらともゾンビとは全く関係ない論文であるにも関わらず、解説をしっかり書いてしまった。特に今回の二件の場合は早々にゾンビと関係ないことがわかったのに、きちんと読んで、書いてしまった。もちろん、内容を正確に解説できたかには自信がない。
ただ、今後はゾンビと関係がないと分かった時点で解説につなげるような読み方をやめるように気を付けたい。興味があって、読むのは別として。
今日はねらいのゾンビ論文なし。