2023/02/28(火)のゾンビ論文
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラーム機能を使っている。アラーム設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラームの条件を「zombie」として、十件がヒットした。十件中、情報科学が三件、政治、地球科学、植物学(菌類学)、文化人類学、経済学、法学、医学が一件ずつだった。
When Bookchin faces Bourdieu. French 'weak'municipalism, legitimation crisis and zombie political parties
一件目。タイトルの直訳は「ブッチンがブルデューと対峙するとき。フランスの「弱い」自治体主義、正当化の危機、ゾンビ政党」。掲載誌はUrban Studies。著者はVincent Béalを筆頭著者として4名。
ブルデューはフランスの社会学者のこと。ブッチンorブクチンは、確証はないが社会理論家マレー・ブクチンのこと。二人とも社会学あるいは政治学に精通しているようだし、生きた時代も同じだ。あっていると思う。だが、二人の対峙が何を意味するかはわからない。タイトルや登場人物から察するに、ジャンルは政治学。
ゾンビ企業の次はゾンビ政党と来た。ゾンビ政党は次の一文で使われている。
resilience(再起)というからにはほとんど死んでいた政党が復権したことを指すのだろう。ならば「支持されていなかった政党」とか「泡沫政党」とかほかにも言いようがあると思うが。別の意味があるのだろうか。クオーテーションもついているし。
ちなみに”ゾンビ政党”と検索したら社民党をそう呼ぶサイトがいくつか出てきた。ゾンビ企業が売り上げもなく融資でのみ生き延びる死に体の企業を指すならば、ゾンビ政党は広い支持もないのにお仲間との連帯でのみ生き延びる死に体の政党と言ったところか。日本では、少なくともそうだと言える。
First results of a field campaign focused on overwintering zombie fires
二件目。タイトルの直訳は「ゾンビ火災の越冬に焦点を当てたフィールド キャンペーンの最初の結果」。EGU (European Geosciences Union) General Assembly 2023で報告された。報告者はThomas D. Hessiltを筆頭著者として10名。
Geoscienceは地球科学と訳す。よって、ジャンルも地球科学としておく。
ゾンビ政党の次はゾンビ火災だ。説明をアブストラクトより抜粋する。
消えたように見えた火災が、実は生きていて、春に再び再出現する。それがゾンビ火災だ。
実は生きているのにゾンビとは?ゾンビ企業やゾンビタウンは『すでに死んでいる』というニュアンスを含む言葉だったが、ゾンビ火災は『実は生きている』?それはゾンビではないのでは?
Ophiocordyceps: The Zombie or Brain-manipulating Fungus(!注意!リンク先にはゾンビキノコに寄生されて、苗床にされたアリの死骸の写真があります!)
三件目。タイトルの直訳は「Ophiocordyceps: ゾンビまたは脳を操作する真菌」。植物科学プラットフォームPlantletに掲載された記事のひとつ。著者はFiona Davidson。
Plantletのポリシーを載せておく。植物学の発展に寄与するために作ったプラットフォームだそうだ。すごくいいと思う。Google翻訳でさっと読んでみてほしい。私もゾンビ関連でこういうプラットフォームを作りたいものだ。
zombie fungus(複数形:zombie fungi)あるいはzombie-ant fungusと呼ばれる菌類が存在する。アリに寄生して自分たちの繁殖に有利な環境へコントロールし、その後アリを殺して苗床にする怖いキノコだ。
その怖いキノコの詳しい説明が載っている。キノコは正確には植物ではないが、ジャンルは植物学としておく。(2023/5/22追記:ジャンルは菌類学)
From Asymptomatics to Zombies: Visualization-Based Education of Disease Modeling for Children
四件目。タイトルの直訳は「無症候性からゾンビへ: 可視化による子供向け疾患モデル教育」。掲載誌はProceedings of the 2023 CHI Conference on Human Factors in Computing(Proceedingsは特定の学会に報告された研究成果がまとめて掲載されている論文集のこと。今回は2023 CHI Conference on Human Factors in Computingに報告された研究成果が対象)。著者はGraham McNeillを筆頭著者として5名。
コロナ騒ぎの最中、感染拡大を可視化する教育あるいは啓蒙ツールが広く世に知られた。この論文では、その教育ツールを使って、子供向けの理科教育ワークショップを開き、その効果を報告したようだ。
この内容でタイトルにゾンビと入っている。とすれば、間違いなくゾンビが実際に現れたときにパンデミックがどのように広がるか可視化したものが記載されているに違いない。この論文はゾンビそのものを相手にしたシミュレーション結果と断言できる。大当たりだ。
ジャンルは教育か情報科学が良いだろう。学会名にComputingとあるから情報科学にしておく。
Plants vs. Zombies: Reinforcement learning to a tower defense game
五件目。タイトルの直訳は「Plants vs. Zombies: タワー ディフェンス ゲームの強化学習」。Hanady GEBRANがgithubに公開したレポート。
Plants vs. Zombiesというゲームを効率のよいプレイ法をコンピューターに学習させたた報告らしい。強化学習という手法らしいが、私は機械学習もAIもディープラーニングも違いを知らないので、その言葉の意味するところがわからない。とりあえず、ジャンルは情報科学でいいだろう。
そういえば、2016年にも同じような報告があった。こちらはマインクラフトの主人公?が効率よくゾンビを倒すための学習方法を調査した報告だった。もちろん、私はこちらの内容も大して理解していない。
Analysis of Various Distributed Denial of Service Networks Attacks Detection and Prevention Techniques: An Overview
六件目。タイトルの直訳は「さまざまな分散型サービス拒否ネットワーク攻撃の分析 検出および防止技術: 概要」。掲載誌はInternational Journal for Multidisciplinary Research。著者はMangesh Jaideorao ParateとVaishali Dinesh Khairnar。
いわゆるゾンビボットを使ったサイバー攻撃について、検出と防止技術を見つけたらしい。アブストラクトも読んでおらず、タイトルしか見ていないが、そういうことで間違いない。だからジャンルは情報科学。
読めないものを読んでも仕方がないのだ。許してほしい。
"Grounseed" and the Music of Ryu Umemoto (supplement I: 34)
七件目。タイトルの直訳は「グランシードと梅本竜の音楽」。Humanities Commonsにアップロードされた報告書? 著者はCamille Akmut。
グランシードというR18のゲームがあり、梅本竜はその楽曲のいくつかを作曲している人。グランシードはどうやらファンタジーゲームのようだ。きっとゾンビが出てくるのだろう。
掲載サイトがHumanitiesだから、ジャンルは文化人類学。(正確には人文学だが)
THE IMPACT OF COVID-19 AND BANK CAPITAL RATIO ON LOAN CHANGES OF ASEAN-5'S BANKING INDuSTRY
八件目。タイトルの直訳は「COVID-19 と銀行の自己資本比率が ASEAN-5 の銀行業界の融資の変化に与える影響」。掲載誌はBanks and Bank Systems。著者はMichael Abraham HukomとArief Wibisono Lubis。
zombieは"zombie lending"か"zombie campany"のどちらかの文字列で出てくる。ゾンビ企業に関する論文は多く見てきたが、今回はゾンビ企業を生み出す銀行に関する論文らしい。満を持しての黒幕の登場に、高鳴る胸の鼓動を抑えることができない。コロナに限定されていなければ読んで知識を得たいところだったのだが。
ジャンルはもちろん経済学。
The walking dead: how the logic of Plessy v. Ferguson is preserved in equal protection law in the 21st Century
九件目。タイトルの直訳は「ウォーキング・デッド: プレッシー対ファーガソンの論理が 21 世紀の平等保護法にどのように保存されているか」。掲載誌はInternational Journal of Qualitative Studies in Education。著者はDK WrightとR Muñizに、S Keffer。
ウォーキング・デッドは言わずと知れたアメリカのゾンビドラマだ。ウォーキング・デッドの舞台で法や倫理がどのように働くか、あるいは働いていたかを調査する論文をよく見る。今回はプレッシー対ファーガソン裁判をベースに調べたということになる。
プレッシー対ファーガソン裁判とは、8分の1だけ黒人の血が入っているプレッシーは法律上は非白人とみなされるために鉄道車両を移動しなければならないところ、移動を拒否して逮捕された事件を扱ったもの。そういう事件があったことは知っていたが、そういう名前がついていたのは知らなかった。
さて、この論文を読み解くにはアメリカの黒人迫害の歴史を知らなければならない。迫害の歴史というのh、黒人が具体的に、民間的にも法律的にもどういう扱いを受けてきたのか知るということだ。そしてそれは非常に難しく、時間がかかる。そもそも私はウォーキング・デッドも最後まで見ていない。内容には立ち入らない。
ジャンルは法学で間違いない。
Emerging and newer diseases in India: A perspective
十件目。タイトルの直訳は「インドにおける新興および新規疾患: 展望」。掲載誌はCurrent Medicine Research and Practice。著者はAtul KakarとKarun Saathveeg Samに、Sumanyu Kakar。
ゾンビウイルス!という文字列が目に入ってどきりとしたが、どうやら何万年も眠っていたことをゾンビにたとえただけらしい。ウイルスそのものにゾンビと名付けるのは控えた方が良いと思うのだが。
上記の例は新しい疾患が(我々からすれば)新種のウイルスによってもたらされることを示しており、そういう事例を以て最近のインドの感染症を論じるようだ。ということで、ジャンルは医学。
まとめ
十件中、情報科学が三件、政治、地球科学、植物学(菌類学)、文化人類学、経済学、法学、医学が一件ずつだった。
四件目の情報科学の論文は私がほしいゾンビ論文そのものであった。うれしい。きちんと読んで、別途レビューしたいと思う。論文中の図に目を通した感じ、単純なSZRモデルのような人間とゾンビをフラスコに入れて反応を観察するシミュレーションではなく、いくつか環境を設定してシミュレーションを実施しているようだ。その結果を比較して、「コロナにかからないようにするためにはどれが効率的だったかな?」などと子供たちに問いかけるのだろう。
今回はヒットあり。良き日であった。