2023/05/06(土)のゾンビ論文 ノリウッドのホラー映画が低予算でショボいって?
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」(経済学・哲学・情報科学のゾンビ論文避け)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」(-companyの効果を図るため)
このうち、「zombie -firm -philosophical -DDos」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないか、「zombie」の内容も確認する。また、4月まで経済学のゾンビ論文の排除を目的として「-company」を設定していたが、その効果があるのか改めて測定する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」四件
「zombie」六件(差分二件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」二件(-二件)
「zombie -firm -philosophical -DDos」の四件は情報科学、経済学、観光学、化学が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -DDos」
アンデッド労働と生産手段: ゾンビ、フォックスコン、ギグ エコノミー
一件目。
原題:Undead Labor and Instruments of Production: Zombies, Foxconn, and the Gig Economy
掲載:Cultural Critique
著者:Brynnar Swenson
ジャンル:経済学
「ゾンビはしばしば工業生産と大量消費のメタファーとして使用されてきました」「ゾンビの古い解釈である工業労働者またはイデオロギー的にだまされた消費者」と、ある。
本当か、それ。と思わず顔をしかめたくなるような文言で始まるアブストラクト。様々なゾンビ論文に目を通してきた私からすると、何でもかんでもゾンビとの類似性を見出し、自由自在にゾンビメタファーを使いこなすのが研究者だ。
まあ、それはともかく。
Foxconnは中国の企業。鴻海(ホンハイ)と呼んだ方が日本では通りがいいだろう。2016年にSharpを買収した企業である。
gig economyは社名ではなく経済用語。
ゾンビをメタファーとして使う工業生産や大量消費とギグエコノミーとでは大分毛色が異なる。ゆえに、この論文では過去の生産様式と労働形態に注目する。具体的には、中国とアメリカの過去10年間を調査するようだ。アブストラクトの結論部は以下の通り。
「「死んだ」労働」というのが、ゾンビを想起させるのだろうか。死んだ労働とは、端的に言えば原材料を超える価値(剰余価値)を生み出さない労働のこと。マルクス経済学の用語らしい。その対照に生きた労働があり、こちらはもちろん剰余価値を生み出す労働のこと。
ゾンビと関連付けるのは難しそうだ。
明らかに、ジャンルは経済学。
VRを使った3Dゾンビハンティングゲーム
二件目。
原題:3D Zombie Hunting Game using VR
掲載:International Conference on Scientific and Innovative Studies ICSIS 2023
著者:Shaheena Noorを筆頭著者として、六名
ジャンル:情報科学
VR使用時により一層没入できる技術を開発した報告。で、そのゲームでゾンビをハントしよう、と。よって、ジャンルは情報科学。
ゾンビを奴隷や人種差別の非差別者として読み解く向きがある一方、技術の高さを見せるために気軽にハントの対象にする向きがある。ゾンビの人権はどこに。
ノリウッド ゾンビ映画における特殊効果と疑似モンスターの製作
三件目。
原題:Special Effects and the Making of Pseudo-Monsters in Nollywood Zombie Films
掲載:Journal of Humanities and Social Sciences (JHASS), 2023
著者:Floribert Patrick C. Endong
ジャンル:観光学
Nollywoodはナイジェリア版ハリウッド。ちなみに、ほかにもインド版ハリウッドのボリウッドも存在する。
ノリウッドで制作されたゾンビ映画が多数紹介されている。その中には、以前このマガジンでも取り上げた『Ojuju(オジュジュ)』も入っている。以下に例を示す。検索して見つかったものはリンクも付けておいた。公式ではなく、IMDbだが…。
Witches
Daughters of Lucifer
The Cannibals
これらの映画を例に挙げ、ノリウッドにはあまり予算がないから『ジュラシックパーク』や『遊星からの物体X』のようなすごいCG・メイクをすることができず、結果ゾンビ映画に走るという結論を導き出している。結構失礼ではないか。そして、論文にするようなことか?
ジャンルは観光学としておく。特定の文化に注目し、それを紹介しているため。他には文化人類学くらいしか思いつかないから、という理由もある。
緊急の薬物乱用:キシラジン
四件目。
原題:AN EMERGENCE DRUG ABUSE: XYLAZINE
掲載:Euroean Chemical Bulletin
著者:Sandeep Singhを筆頭著者として、八名
ジャンル:化学
Xylazineは家畜の麻酔に使われる化学物質。これを人間に使うと、"zombie-like symptoms"(ゾンビのような症状)が現れるのだそうだ。
内容を伴って使われたzombieの単語はこれっきりで、あとは知らない人間のためにゾンビの説明が長々と続く。その説明の中で参照されている文献も残らずキシラジンに関する報告であるため、キシラジンを摂取した人間=ゾンビは共通見解なのだろう。
ジャンルは化学。医学と迷ったが、迷った場合は掲載誌に従うことにしている。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
コンテンツと世界の間の哲学的方法
原題:Philosophical Methods between Content and the World
掲載:The Burden of Proof upon Metaphysical Methods
著者:Conny Rhode
ジャンル:哲学
タイトルからしてジャンルは哲学。であれば、zombieの単語は「哲学的ゾンビ」として使われていると考えられる。
人工知能は無神論につながるか?トマス教的心の哲学を通して人工知能を探求する
原題:Does Artificial Intelligence Lead to Atheism? Exploring Artificial Intelligence through a Thomistic Philosophy of Mind
掲載:Southern Evangelical Seminaryに提出された博士論文
著者:Kristen Nicole Davis
ジャンル:哲学
タイトルに哲学と入っている。あるいは、トマス教とあるから神学かもしれない。いずれにせよ、こちらも「哲学的ゾンビ」を扱っている。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos -company」
ゾンビ企業には"zombie company"という表記もあることから、そういったゾンビ論文を排除するために設定した検索条件。
この検索条件では「zombie -firm -philosophical -DDos」にヒットした論文のうち、「company」の単語を含むゾンビ論文が排除される。その排除される論文が経済学の論文であれば、目的を果たしていることになる。
排除されたのは、以下の二件。
「アンデッド労働と生産手段: ゾンビ、フォックスコン、ギグ エコノミー」
「ノリウッド ゾンビ映画における特殊効果と疑似モンスターの製作」
前者はフォックスコンがいち企業であるから、「company」という単語が使われたと想像される。後者も、制作会社を紹介する過程で使われたのだろう。
前者は経済学の論文ではあるが、ゾンビ企業に関する論文ではないため、排除する必要がない。後者はノリウッドのゾンビ映画を私に教えてくれた点で有用であるため、むしろ排除すべきではない。
ということで、今回はねらい通りに「-company」は効力を発揮しなかった。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos」の四件は情報科学、経済学、観光学、化学が一件ずつだった。
興味を引いたのは、ゾンビが労働者のメタファーとして使われる点と、やはりナイジェリア版ハリウッドのノリウッドだ。前者についてだが、なんとなくわかる。ゾンビが元々労働に活用されていたことを思えば、わからなくもない。ただ、きちんと定義してほしいが。
後者は有用だが、どうも日本ではどの映画も観ることができない。
しかし、今日はねらいのゾンビ論文なし。