2024/12月第一週のゾンビ論文 人は…ゾンビを前にすると生存本能が向上する
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」「-Chalmers」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
「-AI」:人工知能を扱う情報科学系の論文
「-Minecraft」:人工知能のアルゴリズムをためすために、Minecraftを使う論文
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2や条件3で確かめる。
今回、12/1-12/8の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -Minecraft」八件(条件1との重複を含めれば10件)
検索条件1は、心理学、情報科学が一件ずつだった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
生存状況と心理的マーカーが記憶に与える影響
一件目。
アラート日付:12月8日
原題:The Influence of Survival Context and Psychological Markers on Recall
掲載:NÖROPSİKİYATRİ ARŞİVİ
著者:Filiz Sayar
ジャンル:心理学
被験者に4種のシナリオ(のゲーム?)をプレイさせ、シナリオの進行具合に応じて心理的尺度を測る実験。論文には単に「シナリオ」とだけ書かれているが、たぶんゲームであっているだろう。TRPG的な。どんなゲームなのか、興味がある。
シナリオには、闘争、逃走、生存、快適の四種があるらしい。そのうち、逃走シナリオにゾンビが出てくる。ゾンビのシナリオを経験した被験者は、闘争シナリオの被験者よりも生存に対する意欲?が高かったらしく、論文では次のように分析している。
内容が不明な単語が多く、うまく訳せなかった。というか、ほとんど直訳のままだ。ただ、想像もかなり混じるが、シナリオ内で何かイベントが起きた時に被験者に単語カードを選ばせることで心理状態を測り、ゾンビのシナリオの方が闘争のシナリオ(攻撃者と捕食者が出てくる?)よりも多くの単語カードが選ばれた、ということらしい。それがなぜ「記憶」という言葉で表現されるのかはわからないが。
ジャンルは心理学。掲載誌の『NÖROPSİKİYATRİ ARŞİVİ』が『神経精神医学アーカイブ』と言う意味らしいが、精神医学も心理学も、まあ、同じようなものだろう。きっと。
最適資源を用いた動的一貫性 k-中心クラスタリング
二件目。
アラート日付:12月8日
原題:Dynamic Consistent k-Center Clustering with Optimal Recourse
掲載:arXiv
著者:Sebastian Forster と Antonis Skarlatos
ジャンル:情報科学
久しぶりにアブストラクトを読んでも何もわからない論文に出くわした。最近は私も情報系の知識も増えてきたので、結構わかるようになってきたと自信がついてきたところだったのだが…。
ただ、タイトルの「クラスタリング」というのは、ビッグデータ分析の際にデータを種類分けするときに使う手法だ。分析対象のデータから何かしらの特徴料を抽出して、座標上にばらまく。すると似通ったデータは座標の中で集まり、クラスタ(=凝集体)を作る。そこからどうするかまでは知らない。
で、たとえば下の2つの記事では、それぞれk-meansやk-centerといった言葉が出てくる。この辺を読み解ければ、本論文も理解できそうだ。読み解ければ。
zombieの単語は"zombie cluster"(ゾンビクラスタ)や"zombie center"(ゾンビセンター)という文字列で出てくる。ゾンビクラスタは過去に記事の中でも扱ったことがある。その時はテキストクラスタのゾンビだったが。
この引用文を読む限り、"Cross-lingual Text Clustering in a Large System"では既存のクラスタとは無関係な文書で作られるクラスタをゾンビクラスタと定義しているように見える。一方、今回の論文のゾンビクラスタは以下のように定義されている。
クラスタ間で点のやりとりがあり、クラスタがあるにも関わらず中心点が消えた場合にゾンビクラスタになるらしい。ただ、消える理由がわからない。あと、定義が全く違う点もわからない。好き勝手ゾンビの名を使うのはやめてほしい。
ジャンルは情報科学。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系を使った論文は排除されるように設定してある。
治癒毒
アラート日付:12月1日
原題:Healing Poisons
掲載:From the Maluku to Molecules
著者:Oliver Kayser
ジャンル:医学
「-drug」および「-network」で排除。毒が薬の発見に不可欠であったという歴史を振り返り、様々な毒を効用とともに紹介している。一応、ハイチで使われていたゾンビパウダーの原料は、ふぐ毒であるテトロドトキシンであったと広く理解されている。ゆえに検索に引っ掛かったのだろう。
「ゾンビ化」と一般性真菌病原体がシロアリの微生物叢に与える影響
アラート日付:12月3日
原題:Consequences of “zombie-making” and generalist fungal pathogens on carpenter ant microbiota
掲載:Current Research in Insect Science
著者:Sophia Vermeulen と Anna M Forsman、 Charissa de Bekkerの三名
ジャンル:菌類学
「-network」および「-drug」で排除。真菌属に寄生されてゾンビ化したゾンビアリに関する論文。ゾンビアリでよく見る論文は、真菌がアリの体をどう侵しているのかや、寄生されたアリの行動観察辺りが大半だが、どうもこの論文は違うらしい。
映画における意識の変性状態
アラート日付:12月3日
原題:Altered States of Consciousness in the Movies
掲載:このタイトルの本がある
著者:John C. Stephens
ジャンル:超心理学?
「-gender」および「-drug」、「-philosophical」で排除。映画における変性意識状態を調査した論文。変性意識状態の例に「夢、催眠、霊的憑依、洗脳」とあったので超心理学としたが、何か誤解しているかもしれない。『恐怖城』や『私はゾンビと歩いた!』のゾンビが催眠や霊的憑依に該当したか。
国際機関の構成のダイナミクス
アラート日付:12月5日
原題:The dynamics of international organizations' composition
掲載:このタイトルの本がある
著者:Felicity Vabulas
ジャンル:国際政治学
「-network」で排除。たぶん、ゾンビ組織が出てくるのだろう。
ゾンビの生態:世界文化と怪物
アラート日付:12月6日
原題:Ecology of the zombie: World culture and the monstrous
掲載:Journal of Postcolonial Writing
著者:Jude Nwabuokei
ジャンル:政治学?
「-network」および「-philosophical」で排除。論文の中身を閲覧できないが、掲載誌のポストコロニアルという単語とタイトルから想像するに、白人がハイチを植民地にして搾取した挙句、ゾンビまでも自分たちの文化として窃取したとかそういった話が出てくるのだろう。
重複した欠陥と完全な省略がある場合の合意
アラート日付:12月6日
原題:Consensus in the Presence of Overlapping Faults and Total Omission
掲載:Theory of Cryptography
著者:Julian Loss と Kecheng Shi、 Gilad Stern
ジャンル:情報科学
「-network」で排除。ビザンチン合意という情報科学の難問に関する論文。内容を閲覧できないが、ゾンビPCが紛れたらビザンチン合意ができないとかなんとか言っているのだろう。
機械学習アルゴリズムを使用した NFT クリプトパンク生成 (DCGAN)
アラート日付:12月6日
原題:NFT Cryptopunk Generation Using Machine Learning Algorithm (DCGAN)
掲載:ELEKTRONIKA IR ELEKTROTECHNIKA
著者:Pooja Singhalを筆頭著者として、六名
ジャンル:情報科学
「-network」で排除。機械学習したAIにNFTクリプトパンクなるものを生成させる論文。NFTクリプトパンクはわからないが、ゾンビの画像を学習させたり生成させたりしている。
ゾンビ研究結果: SAT/ACT のコーチング
アラート日付:12月8日
原題:Zombie Research Results: Coaching for the SAT/ACT
掲載:CHANCE
著者:Howard Wainer と Shelby Haberman、 Daniel Robinson
ジャンル:教育学
「-network」で排除。"zombie research"(ゾンビ研究)なる概念が提唱されている。取り下げられたのに引用され続ける論文を指す、zombie paper(ゾンビ文献)と似たようなものか。
最後に
検索条件1は、心理学、情報科学が一件ずつだった。
これまでのゾンビ論文アラートチェックでは見つからなかったトリッキーなゾンビが多かったように思う。心理学の試験に出てくるゾンビに始まり、ゾンビクラスタ、ゾンビ組織、植民地ゾンビ、ビザンチン合意に現れるゾンビ、そして最後にゾンビ研究。とはいえ、ゾンビ研究以外はたまに見るので、まったく知らないというわけでもない。
何を言いたいかと言うと、珍しいだけで特に学ぶことはなかった、ということだ。
今回はねらいの論文がなかった。