海のピ【ショートショート】
私が彼女と出会ったのは、水族館だった。
優雅に泳ぐ彼女に一目惚れだった。
白く美しい肌に、つぶらでキュートな瞳。
声も高くて可愛らしい。
その鳴き声から「ピ」ちゃんと呼ばれていた。
彼女に会うために毎週水族館へ通った。
今日は手を振ってくれた。
今日は目があった…と私は幸せな気分になっていた。
ところがある日。
いつものように水族館へ行くと、ピちゃんの姿がない。妙な胸騒ぎがして、スタッフの人にどうしたのか聞いてみた。
「実は昨日から行方不明なんです」
私はなぜか走り出していた。
水族館の近くにある海岸へ。
岩壁に囲まれた入り江に着くと、そこには白く輝く彼女がいた。
「ピーーーッ」
私に気がつくと、高い声で呼ぶ。
浅瀬の真ん中からじっと見つめていた。
私は彼女の元へ走った。服や靴が濡れても構わない。バシャバシャと音を立てて、無我夢中で水を分け走っていった。
そして、彼女を抱きしめた。
冷たくひんやりとした肌が心地よい。
そうか…私はずっとこの瞬間を待ち望んでいたのだ。
「ありがとう」
彼女はそっと囁くと、私から離れて海の向こうへと泳いでいった。
さようなら、ありがとう。
きっとまた会える。そう信じて。
*おしまい*
#毎週ショートショートnote
今週のお題でした( ´ ▽ ` )ノ
【余談】
今回は500文字くらい書いてしまいました。
不思議な感覚になる話が書きたかったんですが、どうだったでしょう?( ;´Д`)
あんまり文字を削りすぎると、ぶっとびすぎるかなー?と…なかなか難しかったです。