突然奪われた日常 - 後編(2/4)
1/4から仕事始めな私(夫)は、ほぼ強制的に起こされ続けてまったく眠れたいなが、この壮絶なお正月のお詫びに体調の優れない妻を残して、3が日最終日に映画館を予約して、子供達を映画に連れ出すことにした。
正直なところ本音では、妻は連れて行きたくないし、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。少し話はそれるが、毎日の息抜きはコインランドリーにひとり、もしくは娘を連れて出掛けるときだけだった。話を戻して、映画館に出掛ける直前、娘が妻に映画館に行ってくると告げてしまった。当然仲間外れにされたと思った妻は寝室から大きな声で「何で私を誘わないの!家族じゃないの!私も出掛ける。遊びに行ってくる!」と身支度をし始めた。私と子供は逃げるように出掛け映画館へ行ったが当然私は楽しめるはずもなく憂鬱でしかたがなかった。
映画を観てると妻からLINEが入ったが館内で携帯は使えないので観覧終了後チェックすると、「旦那へ」と書き始められた内容は反省の念だった。自分は正常だけど心配ならカウンセリングも受けるといった内容だ。私は冷静に話せる状態ならキチンと話をしましょうと返した。が、まったく噛み合わない返事がきて、憂鬱は増すばかりだった。ただ、その日は寝室でほぼ眠らずに大人しくスマホで遊んでいたようだ。どれだけ静かでもトイレにいく足音だけでビクビクし、目が覚めてしまうような精神状態に私はなっていた。
翌朝仕事へ行くため、早めに朝食準備をしようと眠気が増すなか、6時に起きると妻が待っていたかのようにリビングにおりてきた。テーブルを挟んで座るよう指示されると、思いもよらないカミングアウトをし始めた。
「実は借金がある。消費者金融やカードローン、ショッピングローンなど」と。「それはあなたが食費を渡さないからだ、外構ローンを支払わせたからだ」と。状況がいまいち掴めず、詳しく整理しながら聞くと、パチンコやショッピングなどお金が足りずに借りていたら返済も大きくなって自転車操業になってるとの事実を妻から聞く事になった。マイホームを建てた頃、無理のない返済計画を立てて9割私が負担し、一部を妻に負ってもらった経緯がある。5年前にも同様のことがあり、銀行に相談して一本化してもらい事なきを得たが、そこでできた借入枠をさらに借りて借金を繰り返した事になる。
信用の上になりたつ夫婦には大きな亀裂ができ、離婚の話をしたかったが、今の精神状態では更生させることも難しいと思い、自分にも非があると考えた私はその借金を肩代わりすることにして、ひとまず仕事へ出掛けた。仕事中も妻は自我がやばいと、幻聴、幻覚のようなことをLINEで送ってきておりまったく集中できず、仕事の合間をみて在宅ワークに切り替えて帰宅する事にした。
1/6妻に子供達のために、そして妻自身も療養するために実家へ行くよう提案した。妻は聞く耳を持ち、回復できる可能性があるかなと淡い期待を持った。実家は母の一人暮らしで片付いていないらしく、まずは片付けるところからだね、と話し「わかった、とりあえず片付けに行くわ」と妻も快諾した。しかし、一度も片付けに行くことはなく、「は?何で?面倒だもん」とまるで聞く耳を持たない状態になっていた。
日に日に悪化し、行動的なのに肝心なことは何も動かない妻に危機感を感じ、1/8早朝に離婚届を役所に取りに行った。その足で、肩代わりする借金のお金を準備して、戻り次第、妻とテーブル越しに向き合い、離婚を告げた。「今のあなたは、正常な判断ができていない。これ以上悪化すると、躁病は極限となって散財する可能性もあるし、財産を守らないと子供を守れない。だから離婚してほしい」と。寛解ないし回復期に入り、悔い改めることができたなら、子供達のために再度同居することも考えられるとも伝えて。妻は震えながらも自分の異常を認めてわかったと、理解しているように思えた。その後2人で金融機関を完済して回った。はじめて消費者金融にも行った。何でこうなったんだろうと、後悔や複雑な気持ちになった。ひと通り完済し終え帰宅し、妻にあなたは借金のプレッシャーからノイローゼになったのではないか、と伝えた。原因は取り除いたから、きっと回復できると。それもまた勘違いだった。