モデルナ製COVID-19ワクチン接種による副反応としての夢

 2021/10/6 15:10 モデルナ製COVID-19ワクチンを接種(2回目)
 これはその晩にみた夢の記録である。

 紫のライト、黒いテント

 ぼくはマンションの一室らしい、それほど広くない部屋にいる。紫色のライトが空間全体を照らしている。 部屋の白い壁が、ライトに照らされて紫に染まる。安っぽいバーやナイトクラブのような怪しげな雰囲気。

 部屋にはぼくを含めて6名ほどの人がいて、かなり手狭な感じだ。それぞれソファや椅子に腰かけたり、床に寝そべったりして、思い思いに過ごしている。だいたい、酒を飲んだり、煙草を吸ったりしている。

 ぼくはベッドルームに移動しようと思う。扉を開ける。その部屋も紫のライトに照らされている。
 ベッドに、1人の男が寝そべっている。ロシア系の、細身ながらも筋肉質な黒人の男。ぼくがベッドに腰かけると、彼は「すごく暑いな」と英語らしき言葉でいう。
「エアコンをつけていいよ」とぼくも英語でいう。
 男はつけ方が分からない、といったようにおどけた表情をしてみせる。
 ぼくは溜息をついて、ベッドのヘッドボードに置いてあるリモコンに手を伸ばし、スイッチをつける。無理に身体を伸ばしたので、ちょうど、男の隣に寝そべるようなかたちになる。男はニヤリとすると、ぼくを後ろから抱きしめて、ふざけた感じでぼくの腹のあたりをくすぐりだす。そして、「愛してるよ」と英語でいう。

 とても面倒だった。気安くぼくに触れないでほしい。ぼくは彼の「愛してるよ」に対して、抑揚なく「ぼくも同じだ」と答える。ただ、この時間を終わらせたい一心で。ぼくは男の手を乱暴に払いのける。抵抗はない。

 力ない撤退に驚いて、男の顔を見る。先ほどのおどけた感じとは打って変わって、絶望的な哀しみと怒りが浮かんでいる。ぼくははっとして、自分の言葉を振り返り、後悔する。男はふざけて「愛してるよ」などといったのではない。本気だった。ぼくはその本気の言葉に対して、ただ面倒ごとを回避するために、大した考えもなく「ぼくも同じだ」などと答えてしまった。ぼくが彼を愛していないことなど、すでに分かり切っているのに。なんという不誠実な言葉。

 男の隣に寝そべりながら、苦々しい沈黙が広がり、深まっていくのを感じた。どうすることもできなかった。謝ることすらも。

 突然、リビングルームで女の声がする。
「黒いテントが壊れてる!」女は叫ぶ。
 ぼくはベッドから起き上がって、男を残してリビングへ行く。内心「助かった」と思う。男の顔は見なかった。いや、見ることができなかった。

 リビングルームには、骨が折れてひしゃげた形になった黒いテントがある。周りに部屋の人々が集まってどうするべきか口論になっていた。みな、あわてていた。それはそうだ。黒いテントの中に入らないと、紫のライトを遮ることなど、できないのだから。

 夜の中央線

 中央線は、夜の駅に停車していた。ぼくは、ちょうど自分が降りる駅だと気づく。隣に、職場の同僚のYさんが座っている。ぼくはYさんに自分が降りることを伝えて、立ち上がる。

「今日は本当にありがとね」とYさんは礼を述べ、財布から1万円札を取り出してぼくに渡そうとする。ぼくは驚いて、「いやいや、そんなもの受け取れませんよ」と断る。そんな問答を何度か繰り返すうちに、ぼくは、そろそろドアが閉まってしまうと思い、無理やりに会話を打ち切って車外に出る。ドアは開いたままだ。どうやら中央線はこの駅で緊急停車しているらしかった。ホーム上で騒然とする人の群れ。ぼくはその群れをかき分けて、改札へと向かうことにする。

 改札への下りのエスカレーターに向かっていると、エスカレーターの脇の車両の前に、たくさんの書類が散乱しているのに気づく。大学の講義でつかうレジュメのような書類がホーム上に散らばり、それを駅員たちが拾い集めている。緊急停車の原因はこれか、とぼくは納得する。

 その様子を横目で見ながら、下りのエスカレーターに乗ると、前の女子大学生らしき3人組の話し声が聞こえてくる。彼女たちは例の車両を指さし、「あれ、竹村じゃね?」という。ぼくもそちらを見ると、車両の中にはレジュメといっしょに血とも吐しゃ物ともつかない液体が散らばり、その中に男が一人立ちつくしている。彼は、どこか宙を見つめ、陶然とした表情を浮かべている。彼が竹村なのだろうか。おそらくそうだろう。エスカレーターが下るにつれて、竹村の姿は見えなくなっていった。

 階下には改札口があったが、そこも人でごったがえしている。改札を出るまで、時間がかかりそうだと思う。後ろから肩を叩かれる。振り返ると、先ほど別れたYさんがいる。

「電車ぜんぜん動かないからさ、ここでちょっと選挙運動していくことにしたよ」そういうYさんの手には、スーツ姿でほほ笑むYさんの写真が印刷された選挙用のチラシの束が握られている。何万枚も複製される、誠実そうな笑顔。Yさんは人が詰まって行列になっている改札口付近で、チラシを配り始める。だれひとり受け取らない。

 制帽を目深にかぶった、警官らしき男が、Yさんのチラシを1枚、掠めるように受け取っていく。警官はYさんから少し離れた場所まで移動し、チラシを品定めするようにひとしきり眺め、鼻で笑う。Yさんの怒りに火がつく。彼は警官のもとへまっすぐ歩いていくと、チラシの束を力任せに地面へ投げつけ、警官にむかって「てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ!」と喚く。手をだしてしまったようだ。ぼくは面倒に巻き込まれたくない。人込みにまぎれて改札を抜け、外に出る。駅の中とうって変わって、外は暗く不気味なほど静かだった。そして、ものすごく寒い。一歩踏み出すと、地面には雪がつもっていた。寒いはずである。

 王子の牛仏

 ぼくは王子駅で下車して、知らない改札口を出る。すぐ住宅街となっている。さすがは王子。集合住宅などはなく、塀で区切られた庭付きの和風家屋が立ち並んでいる。ぼくは住宅の間の塀で囲まれた小路を歩いていく。

 ぼくの数十メートル前には、喪服を着た、やせた中年の女性が歩いている。後ろ姿から、品の良さが伝わってくる。彼女が黒い日傘をさしているのを見て、とても暑いことに気づく。真夏のような天気だ。

 後ろを振り返ると、ぼくの数十メートル後ろにも人が歩いている。薄いピンク色のワンピースを着た二十歳くらいの女性だ。

 ぼくは再び前を向いて歩きだす。喪服の女性の後についていけばいいことを、なんとなく理解していた。小路のつきあたりを女性が右に曲がったので、ぼくも右に曲がる。また、小路が続いている。路に面した家の塀から、立派な松の木が顔をのぞかせているあたりで、喪服の女性は立ち止まる。ぼくはついに追いついて、同じ場所で立ち止まる。
 あたりに漂う線香の香り、それにつられて周囲を見回すと、ぼくたちの前に、立派な寺院のような建物があることに気づく。これがかの有名な「王子の牛仏」である。

 ぼくたちが立ち止まっていると、後からワンピースの女性がぼくたちを追いこして牛仏の方へ歩いていった。彼女は寺院の賽銭箱の前で立ち止まると、ヘッドホンを装着し、何か音楽を流し始めた。その音楽はぼくの頭の中にも響いてきた。そう、牛仏といえばこの曲である。数年前に発表されたTOKIOのヒット曲だ。牛仏についての歌詞が印象的な曲だった。実際の牛仏を見ながら聴くTOKIOはまた格別なものがある、と思っていると、すべてがどうでもよくなってきた。そして、その音楽のグルーヴにのって、ぼくは徐々に現実へと引き戻されていったのだった。

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