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初コロナ、受難の夏2023 (短編小説)

実家の片付けが一段落して、両親の介護の問題もひととおり安心できるようにダンドリが落ち着いたところで初めてコロナに感染してしまった。
まあ、あり得ることだと鯖彦は受け入れた。
ずっと気を張って過ごしたここ数ヶ月だった。
免疫力が落ちていたのかもしれない。
世の中はもうコロナは終わったような雰囲気が日に日にマシマシで、往来のマスクの人は減って行き、外国からの観光客は増えている。
だがマスコミは大々的に報道しないが、ネット情報によると感染者は増加傾向で逼迫している病院もあるという。
そりゃそうだろうな。俺が感染するくらいなのだから。
39度を超える熱に苦しみながら鯖彦は2日間自室で寝込んだ。
この時点では病院へも行っていないし検査もしていない。
5日ほどして症状(幸い高熱だけだった)がほぼ治まった時点で、抗原検査をしたら陽性だった。
その次の日からは、政府のマニュアルを見ると、外出の制限は以前ほど厳しくないので、どうしてもやらないといけない用事があると外出もしたし、来客も迎えた。
症状はふつうの風邪よりは軽いように感じたが、高熱のあとだからか、やはり全身にちょっと力が入らない日が続いた。
そしておかしかったのが、よく言われる味覚異常。一般には味やニオイがしなくなると聞いていたが、鯖彦の場合は少し違った。塩素とかカルキとか、なにかの成分のせいで、普段なら若干苦い水道水。それがシャワーを浴びながらお湯を口に含むとなんとも言えない甘みがして、軽い愉悦を感じるほどだった。これだったらこれがずっと続けばいいのに、と鯖彦は思った。
だがそれも2週間ほどたつと急に治まり、元のカルキ臭のする水道水に戻った。残念。
自分は回復したが、世の中はまだコロナ増加傾向が続いているようで、友人との食事会も延期することにした。会社で感染者が増えているとのことだった。
やっぱり涼しくなったらだねえ、とLINEでやりとりした。この友人とはコロナが流行ってから一度も会ってない。

さて風邪症状は治まったし元の生活がだんだん戻ってきたぞ、と思った矢先に今度はひさしぶりの腰痛に襲われた。
やっぱり基本だいぶ弱っているな。
そういえば声もまだまともに出ない。高い声が出ない。サビが歌えないわ。
ライブの予定が入ってなくてよかった。
鼻歌を歌いながら徐々に慣らして行こう。

腰は痛くてもいろいろと用事で出かけなくてはいけないのがつらい。
腰痛は人に感染しない(あたりまえだ)ので制限はない。
へっぴり腰で表を歩き、電車に乗る。
今年の夏はいろいろと受難だが、加えて連日猛暑が続いている。
地球温暖化ならぬ、「沸騰化」とも言われている。大げさかどうかはそのうち分かるだろう。
しかし、なーんかいろいろ考えてもしょうがない気がする。頭が沸騰化だ。
ぼーっとした頭のままで、一日一日が過ぎていく。
好きな音楽を聴く気もしない。

コロナの頃の、甘露のような愉悦の水道水が恋しいが、もう二度とかかりたくはない。
黙して日々を凌ぐのみ。
みなは息災だろうか。

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