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ガーリックシュリンプの洗練

ガーリックシュリンプが喰いたい。
手掴みで乱暴に頬張って、奥歯でバリバリと噛み砕きたい。
べっとりと手についた油を舐め、追っかけ冷えたビールを流し込みたい。

わたしの場合、パワーチャージしたいとき真っ先に思い浮かぶのがニンニクだ。
ある料理人が、ニンニク・バター・醤油の組み合わせは卑怯だと言っていた。
どんな食材だろうが、どんな繊細に味を組み立てた料理だろうが、その組み合わせはすべてを吹き飛ばすパワーがあるという。その3品の中で最も重要なのがニンニクだ。バターと醤油には代用するものがあるがニンニクは唯一無二の食品である。

ニンニクパワーチャージといえば、真っ先に想像するのはニンニクを利かせた餃子や、こってり系のラーメンにどっさりトッピングするくらいしか思い浮かばない。ペペロンチーノではなんだか生ぬるく心持たない。しかしこんなに身近に欲求を満たすものがあったではないか。いまこそガーリックシュリンプの出番だ。
ニンニク味で簡単で手軽なのがエビと組み合わせるガーリックシュリンプだ。簡単で旨いのに、なぜかいまひとつ日本で定着しないところも面白い。何よりもエビとニンニクだけ買ってくればフライパンひとつですぐにできる料理だ。

ガーリックシュリンプはハワイB級グルメなどとジャンル分けされているが、どこの国でもB級と称されるものは押し並べてみんな旨い。特にアメリカ圏では、A級とされているものは意外とたいした事ないし、普通の料理は食えたものじゃない。市民に根付いた屋台料理のようなものにこそ真実があるのですな。

その料理には興味がないと相棒の料理人は言った。

意外なことに相棒の料理人である施さんは、ガーリックシュリンプを食べたことがなかった。もちろん料理自体は知っていたという。
しかしひと目で「あんなエビの料理法はダメだ」と思ったとか。
彼の中には無数のレシピがアーカイヴされており、エビ料理だけでも膨大な数になる。だから「食うまでもない」というのが彼の持論だ。

こういう時のわたしは悪知恵が働く。
「エビとニンニクの相性の良さは施さんも知ってるでしょ? 中華のメニューにあれだけシンプルでダイレクトな料理がある? 既存のメニューとしてガーリックシュリンプを見るんじゃなくて、もっと俯瞰してさ、エビとニンニクだけの素材でどう旨い料理を作るか。それが料理人ってもんでしょ」と言ってやったのだ。
普段ならここで彼はむすっとして、その後口を利かなくなる。料理人は他のどんな職種よりもプライドが高い。だから駄目押しをしてやった。
「施さんが以前、ニラレバ炒めの動画を見て、あんなやり方じゃダメだよ。こうした方がもっと旨いといって作ってくれたじゃん。あれ、うまかったなあ。あれをやって欲しいんだよ。ガーリックシュリンプで」
すると施さんは急にスマホでガーリックシュリンプを検索しはじめ、世にあるレシピやハワイの画像などを夢中で調べ始めた。わたしは心の中でほくそ笑んだ。

技法はスペイン料理、味付けは中華調味料。

実際に施さんのガーリックシュリンプは通常の概念を覆すものだった。
まずにんにくは2人前で一株。一粒そのままを5、6個使う。
本場でも、世にあるほとんどのレシピも、ニンニクはみじん切りかパウダーだ。
青森産だったので粒が大きく半分に切ったものもあったが、ほぼ原型。
これを大量のオリーブオイルを使い、弱火で3分ほど煮るように揚げていく。
「スペインのアヒージョの要領ね」
同時に冷凍のむきエビを茹でる。
旨いエビの茹で方は、沸騰した湯に解凍したエビを入れ、再沸騰したら火を止め、蓋をして3分間蒸らす。これで本当に冷凍かと思うくらいプリプリになる。
これに醤油と豆板醤のタレをつけながら食べるのはわたしの密かな楽しみだ。
ニンニクがほんのりきつね色になると、そこにカニ味噌と、チューブのおろしニンニクと、味の素を混ぜ合わせたものを入れかき混ぜる。そこに茹で上がったエビを入れ、さっと絡めて出来上がりである。

その工程を見ていて、なんだか少し物足りなく感じた。むき海老なので殻がない。となるとあの独特のビスク感がなく、食感も物足りないのではないか。
「殻ね、あれ、歯に詰まるからイヤ」
そういう問題ではなくてさ、とブツブツ言いながら一口食べて腰が抜けた。
「旨いじゃん!殻がないからあの独特の香りがないのかと思ったら、、、」
「カニ味噌ね。あれエビの頭を集めて凝縮した醬だから」
つまり濃縮ビスクということか。いやとにかく旨い。エビはプリプリでしっかりとパンチの効いた、まさに思い描いていたガーリックシュリンプ。にんにくはホクホクでカニ味噌の風味が効いてサイコー。これはもう洗練された一品料理だ。
つまりスペイン料理タパスのアヒージョの技法を使い、中華調味料で味付けしたということ。
では、なぜあんなに大量なニンニクにもかかわらず、あえてチューブにんにくを足したのだろうか。
「すりおろしニンニクは香りが通常のよりも出るんだ」
そうですか。つまり香りだけドーピングしたのね。とにかくとんでもなく旨い。
動画で撮影もしたし、レシピもしっかり書き留めた。余ってるエビ味噌はそのまま置いていってくれるというし、こうなればこっちのもんでしょ。
2人前むきエビ(5L)とニンニク一株は、あっという間にふたりの腹に収まった。
途中、追っかけで飲んだビールの旨いったらない。

このガーリックシュリンプにはバゲットと白ワイン。
皿に残ったオイルを捨ててはならない。

数日後、これを自分で再現してみて気がついた。ただのおつまみにしておくのはもったいない。ガーリックシュリンプは屋台でもレストランのプレートにもスチームドライス、つまり白いご飯が付いてくる場合が多い。ご飯と合わせても悪くないか・・・。などとつらつら考えていて閃いた。タパス、アヒージョからの連想だ。ビールもチューハイも旨いが、これは絶対にワインに合う!
これなら絶対バゲットで喰いたい。皿に溜まっているオイルにバゲットを突っ込みビシャビシャにして頬張りたい。そこに冷えた白ワイン!冷えてなかったら氷を入れちゃえばいい。つまりそんなに高いワインである必要はまったくない。
バゲットにオリーブオイル、ガーリックシュリンプに冷えた白ワイン。
ニンニクパワーチャージから、最高の組み合わせを発見した。ぜひ皆さんもやってみるといいですよ。

エビの頭を高温加熱により凝縮させた万能調味料。
アヒージョのように弱火でクツクツと煮るように揚げる。
味付けはエビ味噌と味の素だけ。おろしニンニクは香りづけです。
完璧に茹でたエビは最後にサッと絡めるだけ。
皿に溜まったオイルを見逃すな!これにバゲットを浸して食べる。

【ガーリックシュリンプ】
エビとニンニクの両方が主役。エビはプリプリ、ニンニクはホクホク。
かにみその風味でパンチのある味わいに。エビとニンニクの相性は抜群。
つまみにもおがずにもなるガーリックシュリンプ。これはもう一品料理だ。
殻付きのエビよりもさらに濃厚な甲殻類のビスク風味をエビ味噌で!

〈材料〉2人前
冷凍エビ(5L) 10個
生ニンニク 1株(5~6粒)
鷹の爪 1本
味の素 小さじ 1/2
エビ味噌 小さじ1
ニンニクチューブ 2cm
オリーブオイル 大さじ5

●冷凍エビを解凍し、沸騰した湯に入れ、再沸騰したら火を止める。すかさず蓋をして3分間蒸らす。(これがエビのおいしいボイルの仕方)

●ニンニクの一粒を半分にカット。(火を通りやすくするため)

●エビ味噌に味の素、ニンニクチューブ(すりおろし)を入れかき混ぜ、合わせ調味料を作る。(ニンニクはすりおろしの方が香りが強い)

●フライパンにオリーブオイルを入れ、傾けてニンニクと鷹の爪を煮るように揚げる。この時、火力は弱火で約3分。

●合わせ調味料を入れ、強火にしたらエビを加えて絡める程度に炒める。

※ハワイでは殻付きだが、剥いて食べるのは手間だけだと判断した。さらにこれはエビ味噌でビスク感を補う。また、よくニンニクはみじん切りにしたりパウダーを使ったりするが、それよりもエビの風味を纏ったニンニクの旨さを強調したい。ニンニクの香りを強めるために、すりおろしのチューブを使ってドーピング。

※油で煮るように揚げるアヒージョの調理法を取り入れた。

※味の主体はエビ味噌とニンニクの風味だけで充分。塩胡椒は使いません。


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