見出し画像

この世界は、生きづらく、あたたかい「すばらしき世界」

35年前に小説になった実話だという。

私生児として生まれ、戸籍もなく。幼い頃に母に捨てられ乳児院で育ち、14歳で暴力団に入り、10犯6入(10件の犯罪を犯し、6回刑務所に入る)、人生の大半、通算28年間を獄中で過ごす。

そんな男が13年ぶりに社会に出て、今度こそはと過去から足を洗い社会復帰しようと悪戦苦闘する様を描いた作品。

人はみな、大人になるにつれ、怒りや悲しみの感情を圧し殺したり、時には見てみないふりしたり、都合の悪いことはスルーする「処世術」を身につける。

でも彼は子供のように喜怒哀楽を押さえられず、道で恐喝にあってる人がいれば躊躇わず助けに入り、騒音がうるさい隣人には正論で注意に向かう。

主演の役所広司が素晴らしく、真っ直ぐに生きているのにいつの間にか社会からはみ出していく不器用な男を、哀愁の中に滑稽さを交えて好演。

社会は冷たく、彼の前に立ちはだかる。それでもまっすぐな思いに胸打たれ、一人二人と応援してくれる隣人が現れる。やっとの思いで仕事に就いた彼を友人たちが祝うささやかな宴には涙が止まらなかった。

25年前、西新宿のオフィスで働いていた時。浮浪者があちこちに寝そべる地下街を歩きながら同僚が呟いた。「なんで、みんな黙って通りすぎるの?俺の田舎ならどうしたんですかと助け起こすよ」。見慣れてしまいなんの違和感もなく通りすぎた自分を恥じた。

だけど、あれから私は変わってない。むしろ都合の悪い真実から眼を背け、感情に波風たてないことに長けてきた。

でも、だいぶ大人になった今、見てみないふりではなく、もう少し上手に何かができるんじゃないか。そんなことを思った。

「この世界は、生きづらく、あたたかい」このキャッチコピーが胸に刺さる名作。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?