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中国SaaSとはなにか?ECとモバイルがもたらす特異な進化形

昨今、中国のSaaS市場も活況を見せている。しかしその情報はあまり日本には入ってこない。そこで今回は中国SaaSの現状とその特徴について主に中国のベンチャーキャピタル「青桐資本」の資料をもとにまとめてみた。

中国のIT事情、SaaSに感心のある方には興味深い内容になっていると思うので、是非ともご一読いただきたい。

目次
1. 中国SaaSの現状
2. Horizontal SaaSの現状
3. Vertical SaaSの現状
4. まとめ

1. 中国SaaSの現状

まずは現状認識から始めよう。2018年の中国SaaS市場規模は約3,652億円(243.5億元※1)、年次成長率は47.9%、このペースのまま成長すると2021年には約1兆円(654.2億元)に達すると予想されている。

この大きさと成長可能性を議論するために米国と比較してみよう。同資料によると2018年の米国SaaS市場規模は約5.5兆円(551億ドル※2)。これより中国SaaS市場規模は未だ、米国市場のわずか6%程度しかないことがわかる※3

※1) 1人民元=15円で計算(以降のレートも同様)
※2) 1ドル=100円で計算(以降のレートも同様)
※3) 2018年時点での米国SaaS市場規模は12.4兆円と計算する調査もあるため、5.5兆円は少なく見積もった調査結果の一つと考えるべきだろう

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中国SaaS市場規模、年次成長率(2013年~2021年※2019年以降は予測値)

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中国、米国のSaaS市場規模比較(2014年~2018年)

ここで読者の方はある事実に気づくだろう。

「あれ?中国のSaaS市場規模、意外と小さくない?」と。

大手IT企業の時価総額、ユニコーンの数、ベンチャー投資額でもはや米国と遜色ない中国が、SaaS市場規模においては米国の6%程度というのはどう考えても小さい。

実はこれは中国でも長らく議論を呼んでいる点であり、多くの識者が考察を行っている。ざっくりした考察は以下となる。

- 中国ではソフトウェアにお金を払う習慣が希薄なため、個人に近い中小企業にも、お金を払って業務ソフト(SaaS)を使うという習慣が広がらない
- エンタープライズに販売してもチャーンレートが異常に高く急激な成長が見込めない。(本来はチャーンレートがなぜ高いかの議論が必要だが、その考察にはもう少し時間が必要なので本記事では割愛する)

詳細は以下の記事等に詳しいのでご興味あればご参考いただきたい。

穿越 SaaS 20年
中国SaaS的机遇、战术与野心
SaaS已“死”,下一个

ただそのような背景がありつつも、2017年を底に年次成長率が上昇するなど、中国SaaS市場規模は成長の兆しを見せている。2019年も7月までに既に158件の投資が行われた。

これをラウンド別に見ていくと次のようになる。Series A:26件、Series B:26件、Series C:19件、Series D:4件、戦略投資:20件。以上から現状中国ではSaaSへの投資はミドル〜レイターステージに集中していることがわかる。これはtoCの成長速度や市場規模が桁違いの中国では、成長に時間がかかるSaaS(toB)のシード段階に投資することが、資本効率の観点から見合わないことが原因ではと私は考えている。ただこの点は市場の成熟に合わせて変わっていくだろう。

続いて投資案件を種類別に見ていくと、業界横断型のHorizontal SaaSが75件、業界特化型のVertical SaaSが83件となっている。

実はここを掘り下げていくと、中国SaaSの他国とは異なる特徴的な進化の過程が浮かび上がってくる。次節以降その詳細を見てみよう。

2. Horizontal SaaS概況

2019年に行われたたHorizantal SaaSへの投資は75件。このうち最多はHRの20件であり、その後データ解析の11件、財務/税務の9件と続く。

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中国Horizontal SaaS投資件数(2019年 1~7月)

続いて市場規模を見ていこう。2018年のHorizona SaaS全体の市場規模は2,103億円(140.2億元)、年次成長率は42.1%となっている。また分野別の市場規模はCRMが最大で約20%、続いてカスタマーサポートの15%、コミュニケーションの11%と続く。

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中国Horizontal SaaS市場規模(2018年)

各分野でどのような傾向が見て取れるのか。今回はCRM、HR,財務/税務の3つの市場について見ていく。

・CRM

中国のCRM SaaS市場には4タイプの企業が存在する。

タイプ1:オンプレ時代からの古参IT企業が提供するSaaS
タイプ2:IT巨人(アリババ、テンセント)が提供するSaaS
タイプ3:スタートアップが提供する古典的なCRM SaaS
タイプ4:モバイルEC事業者向けのCRM SaaS

この中で特に注目を集めているのがタイプ4、通称SCRM(Socialized CRM)と呼ばれる分野だ。これは中国の小売がモバイルECを軸に急成長したことによって、中国で独自に発達している分野である。ECやSNS上での最終消費者の行動から購買傾向を分析し、彼らが好む製品を提供するのが主な役割となる。

このように中国では、世界最先端のモバイル環境とEC環境によって、米国含む諸外国とは異なるSaaSの展開が起こっている。

SCRMの代表的な企業としては六度人和致趣百川が挙げられる。
(ちなみに両社ともドメインをscrm.comやscrmtech.comとしていることから、自分たちこそがSCRMの中心だという本気が伺える。これはSalesforceのティッカーシンボルがCRMであることと似ている)。

その他の有力プレイヤーとしては销售易红圈营销纷享销客などがある。

・HR

HR SaaSはHorizontal SaaS内で最も成長著しい分野の一つだ。2017年の中国のHR市場は5.15兆円(3436億元)であり、2022年には倍以上の12.6兆円(8427億元)になると予想されている。

このHR市場の成長に呼応する形で多くのスタートアップが立ち上がってる。代表的な企業としては北森(Beisen)Moka钉钉(Dingding)が挙げられる。

機能としては現状、採用管理、人事評価、エンゲージメント調査などのサービスが多い。

・財務/税務

財務/税務SaaSも急拡大を見せる市場の一つだ。この業界の特徴は中小企業のシステム化に沿う形で市場が伸びていることだろう。

これまでは金蝶軟件用友という古参のIT企業がシェアを占めていたが、クラウドの普及で中小企業向けの市場が出来上がると新規参入するスタートアップが増えてきた。これは日本でfreeeやMFクラウドが業界に浸透していった経緯と似ている。

財務/税務SaaSの代表的な企業としては云账房(YunZhangFang)、大账房(DaZhangFang)易快报(EKuaibao)などがある

以上が中国Horizontal SaaSの概況だ。

3. Vertical SaaS概況

次にVertical SaaSを見ていこう。2019年に行われたたVertical SaaSへの投資は83件。このうち最多はECの21件、続いて金融の11件、医療の9件となっている。

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中国Vertical SaaS投資件数(2019年 1~7月)

また市場規模は1549.5億円(103.3億元)、年間成長率は56.6%となっている。業界別の市場規模はECが26%でダントツ首位、続いて医療、物流、飲食となっている。このあたりはなんとも中国らしい。

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中国Vertical SaaS市場規模(2018年)

各分野でどのような傾向が見て取れるのか。今回はEC、飲食の2つの市場について見ていく。

- EC

中国のEC市場の伸びはとどまることを知らない。2018年に阿里巴巴、京东、拼多多、微店の主要ECに出店している企業数は1,196万社を超える。また2020年のEC向けSaaSの市場規模は3628.5億円(241.9亿元)になると見込まれている。

EC向けSaaSの機能は商品管理、在庫管理、原価管理、決済、顧客管理など多岐にわたる。また昨今、拼多多などのソーシャルEコマースの発展によって、WechatなどのSNS上に店を出店するための機能を有するSaaSも多数出現してきた。この辺もモバイル、ECを中心としてITが発達してきた中国独自の成長と言えるだろう。

代表的な企業としては有赞(youzan.com)微盟(Weimob)商派(Shopex)などが挙げられる

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中国EC向けSaaS企業一覧

- 飲食

中国の飲食業は2019年上半期だけでも32兆円(21,279億元)の規模を誇る巨大産業だ。この飲食業向けのSaaS市場も美团,饿了吗などの出前サービスの隆盛も相まって急拡大を見せている。

代表的な企業としては客如云(Keruyun)屏芯科技(Passion Tech)二维火(2D fire)などが挙げられる

彼らが提供する主な機能は決済管理(モバイル決済、QRコード決済)、メンバーシップ管理、テイクアウト管理、データ解析などだ。

一方、飲食向けSaaSの課題として、競争激化による高いCAC、それに見合わない低いLTVがある。LTVの低さは中国の飲食店の高い倒産率に起因する(年間70%以上)。

これらの課題に対峙するために、チャーンを防ぐ飲食向けSaaSには最適なターゲットセグメントの特定、リテンション率を上げる他社とは差別化されたプロダクト開発などが求められるだろう。

以上が中国Vertical SaaSの概況だ。

まとめ

今回は中国のSaaSの概況についてご説明した。

中国のSaaSは世界最先端のモバイル環境とEC環境よって独自の成長を見せている。私達外資企業が参入する際には、その市場の特異性を十分に認識して戦略を立てる必要があるだろう。

私たちZenportは貿易、サプライチェーンという点を対象領域としているので、ECとは切っても切り離せない。中国市場に参入する際は、新機能付加、プラットフォームとのアライアンスなど考えるべき点が多くなりそうだ。この辺については今後もっと解像度を高めていきたい。

また改めてになるが、本記事は青桐資本のレポートに基づく記事を参考にして執筆した。本記事ではカバーできなかった点も多々あるので、興味がある方はこちらもご覧頂きたい。

最後に、本記事が皆さんの中国展開に役に立てば幸いだ。

Twitterフォローのお願い

私は今後も世界のSaaS市場を追い、その傾向と考察を主にTwitterにて発信していく予定です。もしご興味あれば是非ともフォローお願いします!

https://twitter.com/toshi_kaseda

参考資料

青桐资本观察:潮起潮落,看SaaS如何理性突围?
穿越 SaaS 20年
中国SaaS的机遇、战术与野心
2019年中国企业级SaaS行业研究报告
- SaaS已“死”,下一个
中国RPA 5人
Total size of the public cloud software as a service (SaaS) market from 2008 to 2020


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