その「ありのまま」があぶない理由
こんにちは。
心理カウンセラー・メンタルコーチのSayaです。
前回の記事に引き続き今日も、家族問題を抱えておられる方にとっての
「ありのまま」や「自分らしさ」についてお伝えしたいと思います。
今日は、ひきこもりのお子さんがいるご家庭を例にとりたいのですが
自分自身の「ありのまま」について疑問に思っておられるかたにもご参考になるかもしれません。
最初に、必ずしもひきこもりが悪いわけではない、ということをおことわりしておきます。これについては文末に触れたいと思います。
ひきこもりが長引いてしまうよくある例として、以下のようなものがあります。
・ひきこもりの支援員さんから「お子さんに寄り添ってあげてください」と言われ、寄り添い続けて約10年。一向に状況が改善する気配がない。
・心理療法で「お子さんのありのままを受け入れてあげてください」と言われた。どうも、私たちがこの子を受け入れてあげていないからこういうことになっているらしい・・・。だから、受け入れなければいけない。この子が働かずに私たちの年金をこれから先もずっとあてにするとしても、それがこの子の「ありのまま」なのだから・・・(本音は疲れきっている)
みなさんはどう思われますか?
それは本当に「ありのまま」なのでしょうか。寄り添わなくてはならないのでしょうか?
ここで、「それは本来のありのままではない」ということをご説明する時に、私がよく使う例え話をご紹介したいと思います。
こちらの記事→「自分を好きになろうとすればするほど、好きになれない時に必要なこと」でも触れた例え話です。
「あなたが、5歳くらいの子どもと手を繋いで、家の近所を歩いているとします。すると、その子どもが派手にこけて、膝をすりむきました。そして、その場に座り込み、痛い痛いと大声で泣き始めました。」
STEP1:
こういった場合に最初にすることは、
子どもの目線までしゃがんで、「びっくりしたね」「痛かったね」「どこケガした?」「どこが痛い?」とコミュニケーションをとろうとすること。
これは正しい寄り添いであり、その子が感じていることや状態(ありのまま)を認めてあげることにあたります。
ここでやってはいけないことは
「なんでそんなところでこけるの?」
「痛くないから今すぐ立て!」
「泣くな!痛がるな!」「今すぐ立って歩け!」と叱咤することです。
5歳の子がこけて痛がることは、自然な反応です。しかも実際痛いから泣いているのに、それを全否定すると、その子のメンタルは完全に砕けてしまいます。
小さいうちは、親の態度に一生懸命適応しようとして泣くのを我慢し、平気そうに振舞うかもしれませんが、いずれその我慢が爆発し、不適応な行動が目立ちはじめます。
また、親のその態度によって、子どもの「心の中の安全基地」が壊されてしまうので、他者のちょっとした批判に過度に傷ついたり、困難を乗り越えられない子(大人)になります。
ここでみなさんは『あれ?やっぱり「寄り添い」や「ありのままを認める」ことが必要なんでしょ?』と思われたかもしれません。
そうなんです。「最初」は必要なんです。
STEP2
次のステップとして、みなさんならどうするでしょうか?
おそらく多くの人は
子どもの言い分(どこがどのように痛いか)を聴いたり、身体の状態を確認した後、「歩かせて問題ない」と判断したら、子どもを諭す段階に入るはずです。
「大丈夫。この傷はね、おうちに帰ってきれいに洗って、ばんそうこうを貼ったら治るよ。ばんそうこう、貼ろう!よし、歩いて帰ろう!」と説明したり、
「痛いのとんでいけ~!」などおまじないを唱えて元気づけるなど。。
あの手この手で諭しにかかりますよね。
ここで、一部のかたは疑問に思うかもしれません。
「歩かせて問題ない」と判断していいかどうかわからないから、困ってるんだよね。と。
確かに、現実は上記の例え話のようにわかりやすくはありません。
実際には「学校でいじめにあった」「よくない指導をされた(パワハラに遭った)」「職場で”なんでもっと普通に仕事できないの?”と言われて傷ついた」など、詳細な状況を把握できなかったり、何が問題の根底にあるのかわからなかったりすることがほとんどです。
そういう時にできることは、基本的に前回の記事で書いたことと同じなのですが、もう一度、今日の記事にあわせて書いていきますね。
①対話
「歩かせて問題ない」のかどうかが全く分からない(見当もつかない)という場合、対話が足りていないことがほとんどです。
「だって、いじめられるから学校に行きたくないって本人が言ってるんですから、それ以外に理由はありません」
→本当でしょうか?本当にそれだけでしょうか。
お子さんが「そのように言う」心の背景を一緒にさぐっていくのが対話です。
実際、根本的な問題は学校ではなくて他にあった、ということも少なくありません・・・。
②自分の「あり方」を整える
「え、親の私がですか?子どもではなくて??」と、思いますよね。
はい、そうなんです。
ひきこもりのお子さんを持つご家庭では、「お子さんに問題がある」と思われていますが、実際には「家族」というシステムに問題があることがほとんどです。
心理学では家族をひとつのシステムとして捉えます。
システムは、それを構成するものが相互に影響を与え合いながら機能しているのですが、「ここが壊れている」と思っていた場所には根本的な欠陥はなく、別の場所であることも多いのです。
もしそうである(根本的な問題はお子さんだけではない)のにも関わらず、「この子に問題がある」と思い込んでいる状態は、
子どもに十字架を背負わせたうえで、十字架を背負った子を親が背負っているような状態になっていることがあります。
十字架を背負わせられたお子さんも可哀そうですし、親御さんも辛いです。
このような時は「まず自分(親)から」始める(変わる!)のが、遠回りなようで近道。心理療法にはあうもの、あわないものが人それぞれあり、一回でうまくいくとは限りませんが、状況を打開するために試行錯誤してみられることをお勧めします。
ここまでで、STEP1と2の説明をさせていただいたのですが、
STEP2をしなかった場合にどうなるのか、をご説明したいと思います。
つまり、STEP1の寄り添いを延々とやり続けた場合です。
子どもの目線までしゃがんで、「びっくりしたね」「痛かったね」「どこケガした?」「どこが痛い?」とコミュニケーションをとっても、泣き止まない子もいるでしょう。
「やだ!歩けない!」と言うかもしれません。
そんなとき、「わかった、抱っこして帰ってあげる」と、抱き上げて家まで運ぶひともいるかもしれませんね。
ここまでは、よくあること・・・。
でも、この関係性を維持してしまうと・・・
子「私はケガしたんだから、アイス買ってきてよ!」
親「わかった、買ってきてあげるよ」
子「歩けないんだから、歩かないからね!」
親「そうですか・・・(何か変だと思うが、寄り添わなければ・・・)」
子「歩けないから、学校に行かない(働かない)からね!」
親「そうですか・・・(もうどうしたらよいかわからない)」
といった具合に、お子さんの「決してありのままではない(モンスターになった状態)」姿を受け入れて、その傾向をエスカレートさせてしまうシステムが出来上がっていきます。
もちろん、このシステムには、寄り添いだけではなく、お子さんの言い分を全否定してケンカになったり、無理やり自立させようとして極端な行動に出たり(お子さんの言い分を聞かずに施設に入れるなど)、の争いごとやお互いの信頼関係を損ねる出来事もはさみながら膨張していくこともあります。
これは、お子さんの「言うがまま」の方向に車を運転し、
おどろおどろしい山の樹海にたどり着くようなもの・・・
お子さんが大人になっている場合、もちろんお子さん自身にも責任はありますが、
そこにたどり着いたのは、親御さんの協力があったからです。
この協力にも、責任はあります。
とはいえ、
大学院や専門機関で徹底的に訓練されたプロが行う心理療法でも、
クライアントの「甘えたい、慰めてほしい、支えてほしい」状態が良性の(対応すべき)ものなのか、悪性の(それはだめですよ、と諭すべきものなのか)ものなのか、最初は見分けがつかないことも珍しくありません。
だからこそ、セラピストやカウンセラーが自分自身をしっかりとセルフコントロールしながら、
「人間関係」というシステムが適切に機能するように、クライアントを観察しながら試行錯誤して対応を変えていきます。
うまくいかない場合はクライアントを責めるのではなく、あくまで「自分自身」を省みます。
「この方は、もう自分の足で立って歩けるはずだし、そうしなければならない」と感じたタイミングで、寄り添いではなくトレーニングの段階に入っていくのです。
「もう自分の足で立って歩けるはず」と判断するポイント・・・
それは、「甘えたい、慰めてほしい、支えてほしい」という気持ちにこたえることで、未来が今よりも少しでもよくなる展望が持てるか??という点です。ただしここでも、対話は欠かせません。丁寧な説明と、相手をしっかり観察すること、これがいつでもベースにあります。
以上が、STEP1の寄り添う段階、STEP2の諭す段階のご説明でした。
少し難しかったかもしれませんが、いかがでしたでしょうか。
最後に、文頭で触れた「必ずしもひきこもりが悪いわけではない」についてです。
ひきこもりと精神疾患がセットになっておらず、他者のリソース(親の生活や資産など)を侵害していない場合は、ひきこもりが悪いとは言えないと思いますので、補足しておきます。
精神疾患は大きく二つに分けられると言われています。
一つ目は精神的な負荷が、身体に現れている(睡眠障害や食欲不振などの)場合。これを心身症といいます。
二つ目は、精神的な病気が、生活面に支障を及ぼしている場合。具体的には自傷他害の恐れがあったり、働けない、食事を作れない、他者と一切コミュニケーションがとれないなどです。
このどれにも該当しなけれど、単に「家から出ないだけ」という方もおられます。オンラインのスクールで学んでいたり、お仕事がオンラインで完結する場合などです。
要するに、生活面と精神面で自立しており、自分の力で心身の健康を保つことができるなら、ひきこもりが問題となることはあまりないのではと思います。
本日の記事はここまでとなります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
また次回にて!^^