けしからんセミナー
ある日、FacebookでシェアされてきたNTT東日本特殊局の登さんによる「シン・テレワークシステム おもしろ開発秘話」を見て、めちゃくちゃ衝撃を受けました。
シン・テレワークシステムとは、コロナ禍において数々の制約でテレワークへの移行が困難な企業に、簡易にリモートデスクトップ環境を規制する実現できるということで注目を集め、今では9万5000を超えるユーザーが利用されているというソリューションです。
個人的にシステムの面白さにも惹かれたのですが、なによりもその開発者である登大遊さんが、どのような思考の果てに20万行以上のコードを書いて「シン・テレワークシステム」を開発するに至ったのかという経緯の方が100倍心惹かれました。
なぜなら、デジタルガバメント云々の議論は、人材なしでは成り立たないにも関わらず、さもそういう人材は降ってわいてくるだろうとばかりに、人材育成の議論が起こらないこと、一方でガバナンスの名のもとに活用環境はギリギリと締め付けられ、メールひとつ送るのも一苦労みたいなけしからん状況があり、そんな中で良い人材なんか育つわけないじゃんという疑問が私の中に澱のように溜まっていたからです。
もうこれは絶対登さんのお話を伺いたい!!!ということで、J-LISの玉置さんと話が盛り上がり、Code for Japan主催で以下のイベントを開くことになりました。
途中で配信トラブルがあり、視聴していた皆様にはご迷惑をおかけしましたが、UDトークのログをもとに字幕を付けなおしましたので、こちらのアーカイブをご覧いただければと思います。
当日も登さんからとても示唆に富むお話をたくさん聞きましたが、私はその時にこのピカソのエピソードを思い出していました。
”ある日、ピカソがマーケットを歩いていると、1人の女性が彼を呼び止めました。
彼女はピカソの大ファンだといい、用意した紙に「絵を書いてくれないか?」と尋ねます。
その言葉に微笑みを浮かべ、ピカソは小さくも美しい絵を描き始めました。
そして・・・「この絵の値段は100万ドルです」と女性に言い、絵を渡しました。
それを聞いて驚いた女性は「この小さな絵を描くのに、あなたは『たった30秒』しかかかっていないではありませんか」と言葉を返します。
その言葉を聞いたピカソは苦笑しながら「お嬢さん、それは違う。30年と30秒だ」と言います。”
登さんも同じように20年の間に培った様々な経験があってこそのシン・テレワークシステムであり、その開発時間は2週間と言われていますが、実際には「20年と2週間」が正しいのでしょう。
登さんは「ガバナンスの本来の意味は、有限な資源と時間、それを最適配分して最も高効率にすることだが、日本の場合、生産性を考えず問題がゼロであることがガバナンスだというふうに間違って解釈している。」と言い、ゼロリスクが生む弊害を以下のように表現しました。
「けしからんおじさんは、ゼロリスクが正しいと思っていてカオスは駄目だと思っている。当然カオスの暴走族みたいなルールの破綻が良くないというのは誰でもわかる。しかし、ゼロリスクをやるとうまくいくと思ったらそれは勘違いで、世の中は必ずある速度で進歩するので、リスクを取らずに進歩しない組織は進歩についていけずに必ず破綻する。」
台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏はシビックテックを進めるにあたって大事なことは「Fast Fair Fun」だと言いましたが、今の日本はこの「Fun」を忘れすぎている気がします。
登さんがいうところの「ゼロリスクとカオスの絶妙な中庸」を作り、そこに大勢の人がわちゃわちゃと集える環境を作ること。
ある意味それは90年代のIT界隈に近いかもしれませんが、関さん率いるCode for Japanや各地のブリゲードが行っている活動やCode for Sabaeで福野さんがIchigo Jamを使って子どもたちとやっている活動もそうしたものに近い気がしています。
これからはそうした自由な環境をどう次世代を担う人材に提供していけるのか、それが日本のITがどう進んでいくかの鍵になるのではないかと感じました。
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