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NYC地下鉄サインシステムの物質性を再現する書体。Söhne。

Klim Type FoundryがあたらしいAkzidenz-Grotesk(アクツィデンツ・グロテクス)の復刻書体、Söhneをリリースした。整理されない、Akzidenz-Groteskの魅力をつよく意識した新書体だ。デザインしたKris Sowersbyがそのプロセスを記事にしているので抜粋して紹介する(必ずしも翻訳ではない)。記事の最後には衝撃の結末も。

→2010年にニューヨークを訪れ、Unimarkの伝説的なサインシステムを見るために地下鉄駅にむかった。そこでみたものは、理想化され紹介されたマニュアルとは違い、適切に設置されず、汚れたものだった。でも、c、e、sの傾斜したストローク端にみられるグロテスク書体の伝統は、環境にフィットしていると感じた。

→LinotypeのAkzidenz-Groteskをデジタル化しようとしたが、満足がいかなかった。自分が求める物質性がないと感じた。

→Akzidenz-Groteskのレギュラーは1898年に15サイズ(スタイルではない)で発売。数年後に細いウエイトが「Royal-Grotesk」の名前で追加され、後にAkzidenz-Grotesk Lightの名前に変更。1909年にHalbfettとFett(Semi-BoldとBold)が追加。1911年に6スタイル追加。1958年に13に増加。1968年には31スタイルに。アメリカでは1957年に発売、おそらくは発音の難しさから「Standard」の名前で販売された。これがUnimarkによるニューヨーク市交通局グラフィックスタンダードマニュアルに採用される。70年の間に市場の需要に応じてスタイルが追加されており、その中に明確な「正解」はなく、計画されて制作される今日的な「ファミリー」とは異なる。

→オランダのファウンドリーはドイツのファウンドリーから書体を買って、Breede Halfvette Antiekeとして発売。そのドイツのファウンドリーは同じ書体をBreite halbfette Groteskとしておそらく1890年に発売。イタリアのファウンドリーはGrotteschi Neriとして発売。その間、修正が加えられることも。しかしその出自にかかわらず、いずれもAkzidenz-Groteskと共通する要素を持っている。匿名的で、頑強だ。Söhneのデフォルト「a」(採取ストロークが下に向かう)やオルタナティブ「g」(メガネg)はこれらを参照した。

→Akzidenz-Groteskはその使用例でイメージされる。Unimarkによる地下鉄サインMarberによるPenguin Crimeの装丁Muller-BrockmannのポスターWeingartの活版印刷作品。「時代の精神に一致する唯一の書体」。Akzidenz-Groteskの魅力はHalbfettとFett。スイスモダニズムのポスターで使用された時、デザイナーは写真技術で拡大し手で書き直す必要があったが、この作業が厳格なグリッドシステムに物質性を与えた。

→SöhneはHalbfettを中心に拡げるようにデザインされた。

→アナログ書体の「オーセンティックな」デジタル版を作ることは不可能だ。ニューヨークの地下鉄でみたあの印象を捉えようとした。字間狭め、弱いコントラスト、傾斜したストローク端、黒地に白文字。

→コンデンスド、ワイドにもファミリーではないのではと思える書体が複数あり(元記事の図版を参照)、それらの中から適切と思われるデザインを取り出した。最後に等幅も追加し、流行の「スーパーファミリー」とした。

→デザインの終盤を迎えた2017年、再びNYCを訪れた。そこでみたものはほとんどがStandardではなくHelveticaだった。記憶は信頼できない。Akzidenz-Groteskの記憶だと思っていたのに、Helveticaに導かれていた。

→Akzidenz-Groteskは誰がデザインしたのかもわからない匿名さが、控えめでオーセンティックにしている。そしてスイスタイポグラフィで使われたことによって、あらたに位置づけされた。

→ミーディンガー(Miedinger)はすでに60歳だったが、Akzidenz-Groteskをもとに見事に現代化しHelveticaをつくった。Helveticaは企業にふさわしい流麗さだ。60年代のデザイナーはすぐに飛びついたことだろう。

最後にカール・ゲルストナー(Karl Gerstner)からの引用が。

原則を振り返ろう。新書体をデザインするのでなく、(可能であれば)改良し、最良の開発をし、できる限り仕上げ、その基本原則に可能な限り沿うこと。
基本原則に沿うことがなぜそれほど重要か? 文字を障害なく調和的に組合せるためだ。タイポグラファーは自由に組んでよいのではないのか? そうではない。タイポグラファーはそこにある素材を組み合わせるのみなのだ。我々の見解では、あり得る素材はわずかしかない。

ゲルストナー自身もAkzidenz-Groteskの改良版を開発していたが未発売。この引用はGerstnerのにこのプロジェクトに関する書籍、Designing programmes[1964]から

エリック・シュピカーマン(Erik Spiekermann)がTwitterで自身のFF Realと比較している。

書体名Söhne「ゼーネ」はドイツ語で「息子」の複数形。

こんにちは。読んでいただいてありがとうございます。