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14. Vシネ化 /純喫茶リリー

ロールスロイスに乗ってるのに、おしゃれとは言い難い牧野のおじさん。
髪型はいつも伸びたパンチパーマ。
そういえば、伸びてないパンチパーマの時を見たことがない。
確実にそのパターンもあるはずなのに、不思議だ。
そして、いつも白いスラックスにテロテロのシャツ。
おじさんがどこであんなシャツを買っているのか、律子には想像もつかなかった。

律子は牧野のおじさんを見る度に、母親がいつも見ていたサスペンスドラマのチョイ役を思い出していた。
だいたい2時間ドラマの前半で死んでしまうパターンだ。

牧野のおじさんを見るたびに、律子は母親がよく観ていたサスペンスドラマの、いかにも怪しいチョイ役を思い出した。
ドラマの前半で、ほぼ間違いなく殺されるキャラクターだ。
子供の律子でさえ、無邪気に絡んではいけない人だと感じた。

おじさんが友達を連れてリリーに来るとき、奥のゲーム卓に座り、インベーダーゲームをしながら雑談する。
しかし、テーブルの上ではなぜか札束が行き交っていた。
律子はそこで初めて「帯のついた札束」というものを見た。
後にVシネマでよく見るようになるが、あれが「舎弟」というものだったと気づいたのは大人になってからだ。

不思議なことに、札束を持っている牧野のおじさんの家はボロボロだった。おばさんの服もいつも色褪せていて、同じ形の服を色違いで2パターンしか見たことがない。玄関を開けるとすぐに居間があり、その広さは6畳もない。そして2階にはさらに狭い部屋が二つだけ。
その小さな家に、おじいさん、おばあさん、牧野のおじさんとおばさん、ゆりちゃんが住んでいる。
そして、もうすぐ赤ちゃんも生まれるという。あの家よりも、ロールスロイスの方が絶対に高いに違いない。律子はその奇妙さにいつも頭を悩ませていた。

おじさんも怖いし、あの家が苦手だ。

それでも、律子のママは楽しそうに牧野のおじさんとリリーで冗談を言い合っていた。怖くなかったのだろうか。律子には理解できなかった。

小学2年生の頃、近所に大きなショッピングセンターができるというニュースが地元の新聞の一面に載った。
律子は新聞を手に取り、「知的な小学生」を演じようと決めた。
山田のババに、「新聞見た?大きなデパートができるんだって。楽しみだね」と話しかけた。
しかしババは、ゲームの席に座っている牧野のおじさんを指差し、「あのおじさんに聞いてみな、あの人はこの辺の土地のことに詳しいから」と言ってきた。

律子は内心、「何を言ってるんだ、このババは!あんな怖い人にそんなことを聞けるわけがないだろう」と思った。
しかし、ババは「怖くないよ、聞いてみな」とさらに追い打ちをかけてきた。
律子は苦笑いするしかなかった。
どう考えても、牧野のおじさんにそんなことを聞いたら、顔が引き攣ってしまうに違いない。
お願いだから、もうやめてくれ、ババ!と心の中で叫んだ。

結局、律子は何も聞かず、リリーに気まずい空気が漂った。
あの後、その空気がどう収まったのかは覚えていないが、後になって思い返すと、ババはわざと律子に意地悪をしたのかもしれない。
新聞の記事を話題にして、知的なフリをしていた律子を見て、ちょっとイタズラ心が芽生えたのかもしれない。
大人たちには、その「あざとい」態度がバレバレだったのだろう。
律子は心の中で、「やっぱり、牧野のおじさんよりも山田のババが一番怖い」と思うのだった。

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