26. 初めての友達と放課後の自由の味/純喫茶リリー
「清楚」という言葉をほしいままにしているゆりこちゃんが
ある日の休み時間に、穏やかな笑顔で律子に話しかけてくれた。
とても可愛くて、長い髪が綺麗で優しい女の子。
律子には天使に見えた。
妬み嫉みでいっぱいの律子。
ふりふりしたスカートを履いている子は「ぶりっこ」だと思って心の中で毛嫌いしていたのに、ゆりこちゃんにはそんな感情は少しも湧かず、好感しか得られなかった。
ぶりっこではなく、生まれながらにしての清楚。
非の打ち所がない清楚な女の子。
ガサツでいつも男の子みたいな格好をしている律子とは似ても似つかない。
同じ魚類だけど、
「同じ水槽では飼わないでね、餌も環境も違うよ」
と注意されそうなレベルだ。
ゆりこちゃんには、律子の人生で出会った最大の「清楚大賞」をあげたいと思う。要らないと言われてもかまわん!
でも、なぜかゆりこちゃんは律子によく話しかけてくれて、律子の話を楽しそうに聞いてくれて、「りっちゃんおもしろい」と、たくさん笑ってくれて、いつの間にか仲良くなっていた。
毎日学校で休み時間におしゃべりをした。
やさしくて楽しいゆりこちゃんのことが大好きになった。
まるで、世界がぱあっと明るくなるみたいだった。
だから余計に学校が終わって学童に行くのが嫌だった。
だってこのまま、ゆりこちゃんとずっと遊んでる方が楽しいから。
振り返ると、ゆりこちゃんは律子にとって初めての友達だった。
れいすけにいちゃんは上に住むおにいちゃんで大好きだったけど、友達ではなかった。
保育園の子とは保育園以外でいっしょに遊んだことなんてなかった。
あの1回だけおよばれした誕生日会だけだ。
学校が終わってからもずっと一緒にいたい友達。
律子はゆりこちゃんに夢中になった。
とはいえ、ゆりこちゃんはもともとここで生まれ育ち、園から一緒の他の友達もいるため、律子は少しやきもちを焼くこともあった。
でも、その気持ちを表に出すことは、ゆりこちゃんの他の友達に負けてしまうようで悔しいと思っていた。
だから、なんでもない平気なふりをしていた。
でも次第に、ゆりこちゃんのおかげでクラスの他の子とも一緒にゴム跳びをしたり、鉄棒で遊んだりする機会が増え、だんだんと打ち解けていった。
学校に行けば、ゆりこちゃんに会えるということがうれしくて、いつのまにか律子は、登校することが楽しくなっていった。
しかし、学童と登校班は相変わらず律子にとって「つまらない場所」だった。
登校班では無言の行列の中でひたすら歩くだけ。
学童のメンバーにも律子は相変わらず人見知りをしていたし、なぜか敵対心があった。
学童ではみんな学校の話で盛り上がり、学校にも友達がいる様子がうらやましかったのだ。
学校にも仲の良い友達がいなかった律子はそれが羨ましくて悔しかった。
「ずるい」とどこかで感じていたのだ。
でも、ゆりこちゃんのおかげで、学校でも友達と遊ぶようになり、律子は次第に
「学童なんかよりずっと学校の方がずっと楽しいじゃん!あんたたち、こんなところが楽しいの?」
と、学童の子たちに対する優越感さえ抱くようになった。
いつのころからか律子は、放課後もゆりこちゃんやクラスの友達とそのままいっしょに遊んでいたくて、学童に行くのをサボるようになった。
もちろん、ママには内緒だ。
律子は、学童というものは、放課後に家でひとりでいるのがつまらないから行かされているものだと思っていた。
つまり、ひとりでも家でお留守番が平気な子は、行かなくてもいいものだと思っていた。
律子は学童に行くくらいなら、家でひとりでテレビを見ている方が何倍も気楽だった。
そういえば、学童をサボると、夜、家に学童から電話がかかってきていた。
でも、ママにも学童の先生にも怒られることはなかったので、このまま行かなくてもいいんだと思っていた。
ただ、わざわざ電話がかかってくることは少し後ろめたい気持ちにもなった。
こうして律子は、ゆりこちゃんと遊べない日だけ学童に行くことにした。
学校での楽しさに浮かれて学童をサボる律子は、少しずつ「友達ができた喜び」と「サボる快適さ」を同時に楽しむようになった。
そんな日々が続いたのだった。