19.転園〜アウェイ戦の洗礼/純喫茶リリー
新しく通い始めたもみじ保育園は、喫茶リリーから歩いて行けるくらいの距離だった。
だから、ママは突然転園させたんだって、律子は何となく理解した。
お迎えも、ここでは夕方には来てくれるようになった。最初のうちは。
保育園が終わると、律子は直接リリーに戻って、お店が終わるまで過ごしてから帰るのが日常になった。
前のけやき保育園には、赤ちゃんの頃から通っていて、他の誰よりも長い時間を過ごしてきた。
だから律子は、先生とも一番仲が良くて、誰よりも園のことを知っていると自信を持っていたし、威張ってもいた。
だけど、もみじ保育園では全てが違った。
初日から完全にアウェイで、見知らぬ顔ばかり。
律子みたいに威張っている子もいて、なんだか自分からは話しかけづらかった。
ちょっと誰かが声をかけてくれると、律子はつい調子に乗ってまた威張り出して、結局すぐに嫌われたと思う。
先生も前みたいに優しいわけじゃなかった。
お昼寝の時間、律子だけが眠れずにいると、先生が
「こうすれば寝られるでしょ」
と言って、律子の目をガムテープで覆った。
けやき保育園ではいつも野田さんが眠るまで手を握ってくれたのに。
お昼寝が終わってガムテープを剥がされると、まぶたやまつ毛が引っ張られて、ものすごく痛かった。
今思えば、あれって虐待だったのかも。
クラスの子たちは、律子が初めて見ること、聞くことに驚く様子を見て、「そんなことも知らないの?」って馬鹿にしてきた。
律子はものすごく恥ずかしかった。
けやき保育園では誰にも負けないと思っていたのに、新しいこの場所では一番「知らない子」だった。
律子はその時から、「知らないこと」は恥ずかしいんだと思い、何でも知っているフリをするようになった。
誰かが持っているものは自分も手に入れたくなるし、
知らないことがバレないようにいつも背伸びするようになった。
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