突然の新しい家と新しい名前/純喫茶リリー#24
律子は小学校に上がるタイミングで、れいすけにいちゃんのいるアパートから引っ越すことになった。
新しい家はリリーから車で30分くらいのところにあるオンボロ一軒家だ。
玄関のドアはガタガタ音がするし、風が吹くと家全体がミシミシ揺れる。
でも居間にはお父さんの立派なオーディオセットが鎮座していた。
そして、律子にとって初めての「自分の部屋」ができた。
部屋には、ピンクの絨毯に学習机が用意されていた。
学習机にはミミララの可愛い椅子がついていた。
それが律子が一番気に入ったものだ。
「あのミミララの小物入れをここに飾りたいな」と思ったが、
ずっと手にはいらない、あの小物入れのことを思い出すと少し悔しかった。
引っ越しの翌日は、小学校の入学式だった。
何もかもが新しい。学校へ行く道すらも初めての景色だ。
新しい学校、新しい制服、そして新しい名前。
思えば、この日、急に律子の苗字が変わったのだ。
家を出る前に、突然ママが言った。
「今日からあんたは『おうろ律子』じゃなくて『ごうだ律子』だからね」。
驚きながらも律子は、保育園で「オーロラ姫かよ」とからかわれたことがとても嫌だったので、これで かわれなくなるだろうと、ちょっとうれしく思ったくらいだった。それにしても苗字が変わるなんてこと、あるんだ。
なんで急に変わるんだろう?
ママはいつも突然なのだ。
「今日から新しい保育園」、「今日から新しい家」、そして「今日から新しい苗字」。
突然の変化に律子はいつも振り回された。
田舎の小学校で迎えた入学式。
教室に入ると、それぞれの机に名前が書かれていた。
「ごうだりつこ」と書かれた席に座ったが、周りの子たちはすでに保育園や幼稚園で友達だったらしく、楽しそうに話している。
律子は誰1人知らない子ばかり。
律子は机に向かいながら、周りの賑やかな声を聞いていた。
話しかけようか、どうしようかと迷いながらも、声をかけることはできなかった。
そして、律子に話しかけてくれる子は誰もいなかった。
先生が、1人ずつ名前を呼んだ。
「ごうだりつこさん」と呼ばれ律子はドキッとした。
「ごうだ」が自分のことだと一瞬、理解できず、遅れて立ち上がる。
すると、周りから「“ゴーダ”だって、変な名前」とひそひそする声が聞こえた。
「ごうだ」も変なのか。と律子はがっかりして座った。
あれ?もしかして「オーロラひめ」ってからかわれる方がマシだった?
式が終わり、廊下に出ると、
先生が「ゴーダさん、ちょっと手伝ってくれない?」と声をかけてきた。
律子はまた少し遅れて「あ、はい」と焦りながら手伝ったが、初日から名前に馴染めてない自分が少し滑稽だった。
新しい名前に少しずつ慣れていく日々が始まった。