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22. どうしても手に入れたいあのプレゼント /純喫茶リリー
こずえちゃんのお誕生日会に行った日から、律子は毎日のようにスーパーのファンシーショップに通った。
あの「ミミララ」の小物入れを見に行くためだ。
あれは600円もする。
律子にはとても手が出せない金額だった。
「なんで、こずえちゃんには600円もする可愛いものをあげたのに、私には買ってくれないの?」そう思うたびに、ママに対してムカムカしてきた。
ママに欲しいものをねだるたびに、
「こんなしょうもないもの、コーヒーを何杯売らなかんと思ってるの!」それがコーヒー何杯分の値段かをよく言って馬鹿にして返してくた。
律子はあれが悔しくてたまらなかった。
スーパーでいくら眺めていても、もちろん手に入らない。
律子はある日、思わずキョロキョロと辺りを見回しながら考えた。
「これ、持って帰ってもバレないんじゃないか…?」。
盗ってしまおうか。
でもバレたらどうなるだろう。
ミミララの前で立ち尽くし、律子は自分の心と葛藤していた。
結局、その日は諦めてリリーに戻った。
店の裏に置かれている、ジジにもらった一輪車を見て、ふと思った。
「あんな大きい一輪車だってジジは堂々と持ってきたじゃないか。
捕まってないし…」そう思うと、ますますミミララの小物入れを手に入れたくなった。
次の日も、またその次の日も律子はミミララを見に行き、手を出そうとしては怖くなって帰ってきた。
でも、そのたびに「どうしたらバレずに盗れるか」を考えるようになっていた。
小物入れはさすがに目立つ。もっと小さいものなら。
そうだ、隣にある小さなミミララの消しゴムなら…。
律子はその消しゴムに狙いを定めた。
周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、消しゴムをポケットにサッと入れ、走り出した。
心臓がバクバクしていた。
スーパーを出て、リリーまで一気に走った。
みどりちゃんの家で初めてタバコを吸った日を思い出した。
そうだ、あの時もこんな感じだった。
律子は足が速かった。
「ただいまー!」
律子は何もなかったかのように、リリーに入っていった。
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