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キラキラのガンプラにドキドキ/ 純喫茶リリー#44
律子は、男の子になりたかった。
保育園の頃、先生にそう言ったら、
「大きくなったら、お医者さんにアレつけてもらえば男の子になれるよ」
なんて、簡単に答えられた。
律子はその言葉を信じていた。
大きくなれば、きっとそうなれると思っていたのだ。
毎週、少年漫画をリリーで読みふけっていた影響か、
野球やサッカー、ボクシング――
男の子がやるスポーツがどうしてもやりたかった。
ラジコンや機械いじりも憧れの的で、家で一人の時には、勝手に時計を分解して遊んでいたりした。
だけど、小学生になってからは、その気持ちを口に出すことはなかった。
「女のくせに」
そう言われるのが怖かったからだ。
ある日、同じクラスのたけしくんが学校を休んだ。
たけしくんは律子と同じ登校班。だから先生は、連絡帳を持っていくように律子に頼んだ。
でも律子は登校班ではほとんど喋らないし、たけしくんともこれまで会話らしい会話をしたことがない。たけしくんの家を知っているけど、行くのは気まずくて嫌だった。
「行きたくないな…」と思いながらも、律子はたけしくんの家へ向かった。
ピンポンを押すと、パジャマ姿のたけしくんが出てきた。
ほっと胸をなでおろす。
律子は、「たけしくんのお母さんが出てきたら緊張するから、嫌だなぁ…」と思っていたからだ。
「あ! 連絡帳ありがとう!ねえ、遊んでいく?」
たけしくんに思いがけず誘われ、びっくりした律子だったが、人の家を見れるのがちょっと楽しみで、思わずうなずいた。
たけしくんの部屋に入ると、壁際に並んだ何やらカッコいい人形たちが目に飛び込んできた。
「なにこれっ!」
律子は思わず声を上げ、目を輝かせた。
「これ、ガンプラだよ!」
たけしくんが得意げに答えた。
ガンダムはテレビで見たことがあった。でも、こんなふうに自分で作れるおもちゃがあるなんて、律子は知らなかった。
「かっこいい!欲しい!」
と心の中で叫びながら、それを口にするのはなんとなく悔しくてやめた。
たけしくんは、ニッパーや、学校では見たこともない英語のパッケージがついた接着剤を使いながら、器用にプラモデルを組み立ててみせた。
その手際の良さや、見慣れない道具たちがとてもかっこよく見えた。
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「いいなぁ、私もこんなふうに作ってみたい!」
律子はその光景に釘付けになった。
ガンプラかっこいい!ほしい!ほしい!
いいな、いいなー律子もガンプラ欲しいなぁ。でも高いんだろうなあ。
たけしくんはガンプラの話を次々と教えてくれた。
律子はそのたびに『へぇ!』とか『すごい!』と身を乗り出して相づちを打ち、夢中で聞いた。
そんなふうに話しているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
それまでたけしくんと話したことなんてなかったのに、このときは驚くほど楽しくて、「たけしくんとは気が合うかも」と思えた。
たけしくんのお母さんが帰宅したので、律子はそそくさと逃げるように家に帰った。
翌日、たけしくんはまた熱を出して休んだ。
登校班の集合場所で、たけしくんのお姉ちゃんが律子をちらりと見ながら言った。
「昨日、だれかさんとずっと遊んでたからまた風邪ひいちゃったんだよねー。」
律子のせいで今日も休んだって言われてることはわかった。
気まずかった。
たけしくんのお姉ちゃんは律子のことが嫌いなんだな、そう思った。
登校班はやっぱり嫌い。学校なんて一人で行けるのに。
「次にたけしくんに会ったら、どうすればいいんだろう?」
謝ったほうがいいのかな……それとも、何も言わずに知らないふり?
考えがまとまらないまま、律子は誰とも話さず、俯いて学校まで歩いていった。
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