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なぜか晴れない、お父さんとの日曜日 /純喫茶リリー#30
律子が小学校に上がってからも、東京で単身赴任中のお父さんは、月に1度ほどしか家に帰ってこなかった。
帰ってくると、律子に勉強をさせたり、たまに公園に連れて行ったりした。
そして必ず学校の成績を聞き、「俺の娘だから、お前が勉強できるのは当然だ」と、自慢げに言いながら、期待の目を向けていた。
律子は成績を褒められるのはうれしかったが、お父さんに勉強を教えてもらうのはうんざりだった。
ある日、お父さんは「東京のお土産だ」と言って、ローラースケートを買って帰ってきた。近所の誰も持っていなかった憧れのローラースケートに、律子は大興奮!
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すぐに公園へ連れて行ってもらい、初めてその小さなタイヤ付きの器具を靴に取り付けた。
でも、立つのがやっとで、膝がプルプル震えて歩くことすらできない。
律子はまさに、生まれたての子鹿のようだった。
お父さんは雪国育ちでアイススケートが得意だったらしく、
「教えてやる」と張り切って律子にコツを伝授。
律子は飲み込みが早く、すぐにスイスイと滑れるようになった。
お父さんは「俺の教え方がうまいからだ」と得意げに言った。
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そして、お父さんのスケート魂に火がついた。
「ちょっと貸してみろ」と言って、律子のローラースケートを奪うように履き、自分が滑ってみせると言い出した。
最初はスイーッと滑り出し、まるで本当にカッコいいところを見せられるかのようだった。
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しかし、数秒後――派手にひっくり返った。
律子は慌てて駆け寄った。
お父さんは苦笑いしながら、
「ここが坂になってるからだな。立つ場所が悪かっただけだ」とさっそく言い訳。それが妙にカッコ悪く見えたのを、律子は今でもよく覚えている。
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律子は心の中でお父さんに少し同情したが、いつもカッコをつけているお父さんに、何と声をかけていいかわからず困ってしまった。
下手なことを言って怒られたらどうしようと思うと、何も言葉が出てこなかった。
立ち上がったお父さんは、何も言わずにローラースケートを脱ぎ、
「帰るぞ」と一言だけ律子に告げ、1人で公園を後にした。
残された律子は、もう少しだけと、1人で練習してから家に帰った。
帰宅後、お父さんは「腰が痛い」とぼやいていた。
どうやらその転倒で腰を痛めたらしかった。
それ以来、「腰痛」が父の持病となり、何年も「あの時のせいで腰が痛い」とぼやくようになった。
律子はそのたびに後ろめたい気持ちになった。
それからは、日曜日に帰ってきても、お父さんがローラースケートを履くことは二度となかった。
律子と公園に行くことも。
それでも律子は一人で練習を続け、公園でちょっとしたヒーローになるほどローラースケートが得意になった。
しかし、お父さんがそのことを知ることはなかった。
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