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初めての友達が消えた /純喫茶リリー#34

律子にとって初めての友達、それがゆりこちゃんだった。
律子はゆりこちゃんが大好きで、いつも楽しい話をしては笑わせていた。
ゆりこちゃんはいつも律子のバカな話でたくさん笑ってくれた。

「りっちゃんは面白いねー」

その一言が、律子にとって何よりも嬉しかった。
でも、その日、ゆりこちゃんは何となく元気がなかった。

「どうしたの?なんか元気ないね」

律子が聞くと、ゆりこちゃんは少し考えて、とても言いづらそうに言った。

「うーん、あのね……私、転校するんだって。」

「え?……転校?」

転校って何だ?
律子には「転校」がどんな意味かすぐには分からなかったが、
保育園を変わった時のことを思い出した。

「え? 別の学校にいっちゃうの?」

律子は不安そうに聞いた。
ゆりこちゃんは小さくうなずいて

「お父さんの仕事で、遠くに引っ越すんだって」

と言った。

「えーーーーーそうなんだ。やだな。」

それ以上何を話したかは覚えていない。
律子は家に帰ってから、大声でわんわん泣いた。

せっかく仲良くなったのに、こんなに大好きになったのに。
ゆりこちゃんがいなくなるなんて信じられなかった。

夜、ママが帰宅した時、
律子は「ゆりこちゃんが転校しちゃうんだって!」と泣きながら訴えた。

ママは
「まぁ、世の中、出会いがあれば別れがあるの。」
と、言った。

なんだよそれ、知らないよ。
律子の唯一の仲良しだよ。
ゆりこちゃんがいなくなったら律子はどうすればいいんだよ。
他にゆりこちゃんみたいな子はいないんだよ。

律子は多分、ゆりこちゃんに依存していた。

学校も学童もつまらなくて、いつも家で1人だった。
そんな時、にこにこやさしく声をかけてくれて、
こんな律子と仲良くしてくれて、一緒にいると楽しくてうれしくて。

「なんで引っ越しちゃうんだよ、なんで転校するんだよ。」

行って欲しくなくて、ずっと心の中で怒ってた。
そうだ、律子のお父さんみたいに、「タンシンフニン」すればいいのに。
律子はゆりこちゃんのお父さんを恨んだ。

クラスで開かれたゆりこちゃんのお別れ会。
律子は他の子に泣いてるところを見られたくなくて、必死で涙をぐっとこらえた。

ゆりこちゃんは、この学校で律子以外にも友達はいるし、こんなにも寂しいのは、きっと律子だけなんだろうなとも思ったりして、余計に寂しくなった。

でも、それでも最初に転校を打ち明けてくれたのは律子だったし、
あの時の、ゆりこちゃんの悲しそうな顔が忘れられなかった。
きっとゆりこちゃんだって律子とお別れするのは悲しいはずだ。

ゆりこちゃんは、1年生の2学期が終わると転校してしまった。
仲良くなってあっという間にいなくなってしまったのだ。
絶望しかなかった。

引っ越してしばらくして、ゆりこちゃんから年賀状が届いた。
それは律子にとって、人生で初めてもらった年賀状だった。
そこには「さみしいけど、新しい学校でがんばるね」と書いてあった。
律子は、ゆりこちゃんからのメッセージが嬉しかった。
でも同時に、すぐに新しい友達ができるであろう、ゆりこちゃんに嫉妬もした。
ゆりこちゃんは良い子だから、新しい学校でもきっと人気者になっているんだろうな、と考えると胸がチクチクした。

その後も数年はそののやりとりが続いた。
でも、いつの間にかそれも途絶えた。
律子はそれでも時々ゆりこちゃんのことを思い出した。
そして、もしまた会えたら前のように仲良くなれるかな、と夢見た。
でも大人になるにつれ、それが叶わないことだと悟るようになった。

「世の中、出会いがあれば別れがある」

そんな「世の中」なんて知りたくなかった。
友達って、喧嘩さえしなければずっと一緒だと思っていたのに。
仲良しでも、親の都合で離れ離れになることってあるんだ。
それがこんなに悲しいなんて。
こんなの本当に嫌だ。二度とごめんだ。

律子にとって、ゆりこちゃんは天使だった。
初めての友達であり、初めての失恋だった。



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まさだりりい
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