広島協奏曲 VOL.3 もののふの妻 (12) 退職
退職
「覚えてないでしょうね、、、俺の事なんか、、、、汁男優の1人なんて、、、俺、覚えてますよ。3回くらい、御一緒しましたから。」
「……」【汁男優?、、、まさか、、、どうしよう、、、、】
「誰にも言いませんよ。安心して下さい。俺、シリーズもの取りたくて、何度も出演してくれる方、探してたんですよ。
○○さんにも声、掛けたんですけど、断られちゃって、、、何度かSEXして、携帯で撮ってて、分かってるって思ったんですけどね、、、、嫌だって、、、」
「……○○さんの携帯動画、、、、どうしたんですか?」
「今、詰合せで編集中です。あ、大丈夫ですよ。モザイク掛けるんで、、、顔バレはしないようにします。ハハハ。ご安心を。」
「……」【こいつの言う通りにしたら、際限無く続くかも知れん、、、】
「どうですかねぇ、、、ってか、貴方の動画、もう上がってますよ、セレクトで。俺じゃないすけど、上げたの、、、、
出演してくれたら、シリーズものに協力してくれたら、、、削除要請してあげますよ。」
「お断りします。」 【関わっちゃイケん、、、】
「良いんですか?今の職場、バレたらクビですよねぇ、、、解雇。良いんですか?知られちゃっても、、、イヤでしょう、、、元セクシー女優っての会社やみなさんに知られるのって、、、俺なら嫌だなあ、、、」
「脅迫ですか?今ので、貴方も犯罪者になりますよ。」
「なりませんよ、、、だって、俺が言ったって証拠が残んなきゃ良いんでしょ。」顔が笑ってる。こう言ったやり取りは何度も経験済みなのかもしれないと由里亜は思った。
「私に対する脅迫です。」【やれるもんならやってみいやっ!】と心で叫ぶ。
「う~ん、、、そう言うのってどう思ったかじゃなくって、どんな実害が有ったかで決まるんだよね、、、まださあ、実害、、、出てないじゃん。
それよりさあ、、、稼ごうよ。一緒に。新しい事、するんじゃなく今までやってた事だからさ、、、どう?」
「お断りします。」 【こりゃ、、、ダメじゃ。】
「……ふ~、、、そうかぁ~、、、でも、考え直す時間もあげるからさ、考えといて、、、今日の所は、俺の奢りって事で。」
「いえ、払います。」由里亜、財布から1万円札を出し机の上に置くと、席を立ち、店を後にする。
由里亜、店を出て駅へと歩く道すがら、エロ動画サイトをいくつか見た。名前で検索すると、、、出てくる。上られている動画の削除を要請する為に、以前の事務所へ電話をした。
マネージャーは快く引き受けてくれた。……が、上げた張本人がマネージャー、いや事務所かもしれないとも思った。
【一度削除しても、また上がる。誰かが購入してたら、またどこかで上げる。これがデジタル・タトゥーゆうもんなんかねえ、、、一度上がったら二度と消せない。
そんな事もあるかも知れん、って覚悟しとったんじゃないんね。セクシー女優ゆうんは、そう言うリスクも背負うもんじゃ無いんね、、、
企画ばっかし出とった女優さん、この前のテレビのバラエティーに出とったわ。ぜんぜん売れんかった。ゆうて、、、あそこまで開き直れりゃ、清々しいか、、、、
うちは、どうしょうかぁ~、、、涙で居座るか、笑いを取って開き直るか、、、、静かに去るか、、、
しょうがないわ。自分でまいた種じゃ。刈り取らにゃイケん。】
今まで通り、カウンター業務を続ける由里亜。
金藤は、いつもの所に立っている。時々、こちらを見て笑っている。いや、左の口角を上げている。
仕事終わりの従業員通用口で待っている時もあった。声を掛けられるも、「失礼します。」と残し、早々に立ち去る。
自宅近くの駅で、見かけるようになる。声は掛けてこない。携帯を片手に持っている。撮影してる様だ。
後を付けられない様に、コンビニやドラッグストアに寄り、人影に隠れ店を出る。
マンション近くの曲がり角で、見かける。
警察への通報はしないと思ってる。通報すれば、仕事を失うと考えてるに違いない。
今の仕事を手放したくは無い。
でも、そうする為にあいつの要求など、受け入れたくは無い。
恐怖が募る。後悔も募る。諦めも湧いてくる。
【AV、やるんじゃなかったねぇ、、、覚悟決めとったのに、どんだけ後悔すんねんって言う話じゃな。笑うわ、えっと笑うわ、涙がちょちょ切れるくらい笑うちゃるわ。】
しばらく経ったある日、上司から話があると呼ばれた。バックヤードの会議室へと向かう。
人事部長と上司が座っている。
「高城君、、、告発と言うか、申し入れがあってね、、、確かめたいんだけど、君、、、、アダルトビデオに出てる?」
「……ハイ、出てました。」素直に認めた。嘘をついてもすぐにバレると思った。
「う~ん、、、お客様からの信用信頼が一番だから、、、」
「分かりました。……お世話になりました。」
退職する事になった。気分的には、随分と楽になった。当日の業務をこなした後、○○さんにだけ、今日で退職する事を伝えた。
「そう、、、お疲れ様。」とだけ、返された。
【はあ~、、、あんたもグルだったか、、、知っとったか、、、あいつと繋がってるって事は、、、そう言う事か。】
吹っきれた。
【さあ、これからどうしょう、、、、、広島、帰ろうか、もうちょっと、こっちに居ろうか、、、なんかあるかねぇ、、、、】
広島へ帰っても、居場所が無いように思えた。
生まれてから、両親が離婚するまで住んだ家は賃貸住宅。今、父親はアパートで独り暮らし。
祖父母の家は、もう跡型も無い。砂防ダム建築の為に、立退いた。
多少の補償金は出た。仮設住宅を出た祖母は、しばらく父と一緒に居たが、認知症が出始めた為、施設に入所。保証金はそれにあらかた、持っていかれたらしい。
祖父の遺体はまだ、見つかっていない。
派遣社員として、働き始める。
電話オペレーター、イベント受付、パーティー会場のフロアー係、ホテル内のラウンジのホール係、、、、
接客業としての会話術や振舞い、多少は役に立った。
しかし、派遣社員としての収入では今住んでいるマンションの家賃は払いきれない。
勢い、マッチングアプリでパパ活を再開する。継続出来そうな相手を選ぶ。3,4名と並走する。
【うち、何しょうるんじゃろう、、、何がしたいんじゃろう、、、資格とか、一生の仕事とか、、、、思いつかん。】
だらだらと数年過ぎた。
広島から上京し、10年。
垢ぬけたつもり、、、見た目もハイクラスに辛うじて入れるかな?になっている。│眼力《めぢから》 重視のメイク。髪の毛の艶、VIOゾーンの脱毛、お手入れ。メンテナンスが半端ない。
もちろん、すっぴんの時は、イモ姉ちゃん感が漂う。疲れた。疲れ切った。化粧する手が止まったまま、動かなくなった。
【帰ろうか、、、なんかあるよね、、、、受付とか、ホール係とか、、、何でもええよ。出来る事あるんなら、、、、】
広島へ帰った。
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