日曜日の夕方は、手を繋いで一緒に歩いて下さい。(2)
(2)火曜日と金曜日、そして日曜日
「お母さん、車、買って良い?軽自動車。」
「え、何するの?危ないわよ。特に冴子は、、、運動音痴だから、、、」
「失礼ねぇ~。これでも免許、取れましたっ! 後は慣れるだけですっ!」大学2年生の時、免許は取得済み。実技講習は規定のほぼ2倍、乗った。
「う~ん、、、どうしようかしらねえ~、、、大丈夫かなあ~、、、」
「私が運転して呉服屋さんに行けば、帰りにアイスクリームや、冷凍食品、買えるわよ。」
「あ、そうねぇ~、良いわねぇ~、じゃ、許可します。あまり高いの買わないのよ。」
「は~い。」
【やった~。これで秀君を家まで送ってあげたり出来る。10時の電車、気にしないでもよくなる。もしかすると、、、泊っていけなんて、、、イヤ~ン。】
「ねえ、、、しゅ、しゅ、秀君。私、車買ったんだ。こ、こ、これで送ってあげられるよ。」冴子、ドヤ顔で報告。
「へえ~、、、大丈夫か?運転。」秀、少しビビってる。
「うん、あ、あ、安全運転だから、、、ゆ、ゆ、ゆっくり走るから、、、」
秀の申し入れから、一か月過ぎた頃、冴子は車を購入し、納車が前週の土曜日だった。
火曜日の講義に、いきなり乗ってきた。近くのコインパーキングに置いて来たと言う。
「だ、だ、大丈夫だったよ。ぶ、ぶ、ぶつけなかったよ。」
「あ、あ~、、、」
【冴子の思いに応えてやろうか。命、預けて見るか。】秀、覚悟を決めた。
アカデミーから秀の家まで暫くは2車線道路が続く。冴子の車は左の車線をゆっくりと走る。右の車線を多くの車がすり抜けて行く。
途中から、一車線になる。合流は左の車線が右の車線へ入る形。案の定、合流地点で冴子の車は止まった。後ろの車が途切れるまで待った。
なんとか、秀の家まで走れた。車に付いているナビゲーションのお陰ではあるが。
「あそこのアパートの2階。真ん中だ。あれ、、、電気が点いてる。誰か来てるみたいだ、、、」
「だ、だ、誰かって、彼女さん、ふ、ふ、二人の内、ど、ど、どっちか?」
「ああ、どっちかか、両方か、、、」秀、面倒臭そうな顔になる。
「え、は、は、鉢合わせ?、、、良いの?、、、ど、ど、どっちか帰っちゃうの?」
「帰る時もあれば、二人とも相手をする時もある。それで良いって言ってる。」
「えっ!、、、ふ、ふ、二人の相手、、、3P?」またまた、赤面の冴子。
「あれ、冴子も知ってるんだ。動画、見たりするのか?」
「う、う、う~、、、」冴子、顔が真っ赤のまま、俯く。
「ごめん、冴子には刺激、強すぎたな。今の話。ゴメン。……今日はここで良いよ。」
「うん、帰る。……じゃ、また来週ね。」
「今度は、俺が運転しても良いか?一応、免許あるから。今日は遠慮してたからさ。」
「うん、ご、ご、ごめんなさい。ビ、ビ、ビビらせちゃったかな?」
「いや、スピードは遅かったが、なかなか上手だったぞ。冴子の運転。」
「ありがとう。じゃ、、、お、お、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。気をつけて帰れよ。何かあったら直ぐに電話しろよ。駆けつけるから。」
「うん。」
秀は車を降り、アパートの方へ歩いて行く。アパートの入口で振り返る。手を振ってくれている。
冴子は、車のハンドルを切り、Uターンする。道路の端の縁石にタイヤがあたる。冴子、シフトをバックに入れてハンドルを廻しながら下がる。
再度、ハンドルを回し、Uターン出来た。冴子の車はそのまま、走り去る。秀、見送りながら、【気をつけろよ。】
冴子、なんとか家に帰る事が出来た。今までにない疲労感。母の智子が起きて待っていてくれた。
毎週、秀のアパートまで送る。部屋に電気が付いていない時もあったが、冴子、部屋には上がらなかった。
「お茶でも飲んでいくか?」秀の言葉はうれしいが、もしもの時の準備が、心の準備が出来ていない。下着は新しい物を着てきているけど。
「う、ううん、、、か、か、帰る。」
アカデミーからアパートまでは秀の運転、帰りは冴子が運転して帰るパターンがしばらく続いた頃、冴子から
「そ、そ、掃除とか、洗濯、ど、ど、どうしてんの?じ、自分で?」
「ああ、自分でやってる。と言っても、掃除は月一くらいだな、、、洗濯は一週間分まとめて洗ってる。」
「そ、そ、掃除とか、せ、せ、洗濯、してあげようか?土曜日か、日曜日。」
「土日は俺、バイトだから、、、それにあいつらいつ来るか分かんないし。連絡してこないし、、、」
「そ、そ、そっか。分かった。」冴子、残念。
アカデミーの講義や模擬試験も順調に進む。
4年生の秋。公務員試験開始。
冬。合格発表の日。二人とも合格。
「よっしゃ~!」「や、やった!」「おめでとう。」「お、お、おめでとう」「良かったな。」「よ、よ、良かった。」
「冴子。聞いてくれ。俺、あいつらと別れた。解消した。俺と付き合ってくれ。」
「えっ、、、な、な、なんで別れたの?、、、な、な、なんて言ったの?」
「好きな人が出来た。と言った。」
「そ、そ、それって、、、私?」
「そうだ。冴子だ。」
「でも、わ、わ、私、、、まだ、し、し、知らないし、、、秀の事、まだ、な、な、何もしてあげられないし、、、」
「俺に任せてくれ。急がないし、大切にする。」
冴子の恋が実った。秀とのお付き合いが始まった。
初めて秀のアパートの部屋に入る。掃除、洗濯、夕食作り。
今日は秀の所に泊まる。母には友達とカラオケへ行くと言って来た。
夜。シャワーを浴びる。ベッドへ行く。秀の隣へ座る。
「秀、や、や、優しくしてね、、、」
「冴子、大丈夫だ。」
良く分からない内に、初めてが終わった。下腹部が痛い。出血もあった。下着を穿く。トイレで生理ナプキンをつける。
ベッドのシーツを、慌てて剥がす。洗濯機へ放り込む。
ここで初めて、涙が溢れて来た。秀はベッドから降り、テーブルの前に座っている。秀の隣へ座る。秀へ身を預ける。
秀が優しく肩を抱く。涙が止まらない。何の涙なんだろう?嬉しさだとは思うけど。
秀と再会して一年と半年。閉じ込めていた心が解放された。多分、その反動の涙。
それから毎週、金曜日の夜に秀のアパートへ。、土曜日も泊り、日曜日に帰る。
母には、正直に言った。高校の同級生の山根秀(しゅう)くんとお付き合いを始めたと伝えた、
「良かったわね。冴子。お嫁に行っても良いからね。お父さんは婿養子だったけど、もう田んぼや畑は無いから。この家だけだから。」
と言ってくれている。「もう、結婚なんて早すぎるから、、、」と言っては見るものの、夢に描く冴子。
秀との夜も少しづつ、冴子も積極的になってきた。
秀の物へのキス。一緒のお風呂。冴子が上になる。立ったままいたしてみる。
冴子もイクようになった。目の前がホワイトアウトした事もある。幸せだった。
クリスマスも一緒。大みそかは冴子の家に来た。母は大喜び。気にいってくれたみたいだ。
もうすぐ卒業と言う時、秀の携帯電話がなった。冴子が泊りに来ていた夜。真夜中。
『秀、ゴメンね。こんな夜遅く。ちゃんとお別れ言いたくて、、、秀、さよなら。、、、本当に好きだったのよね、私。』
「ん、香澄?、、、今どこだ、、、さよならって、今更。……まさかお前っ!」秀が慌て始めた。
『秀は気持ちの弱い所があるから、応援のつもりで背中を押すことばっかり、言ってたのよね、私。』
「今、お前の部屋か?、、、何だ?その音?、、、水の音? 風呂の音?、、、何をする気だ!」
『最初の初期設定、、、キャラづくり、失敗しちゃった、、、もっと、わがまま言いたかったな、、、秀の胸で泣きたかったな、、、 さよなら、、、秀。』
「おい!、香澄!、、、早まるなっ!。」
「ど、どうしたの?香澄さんてOLの人?、、、早まるなって、、、大変な事?」冴子も秀の慌てぶりを見て、心配する。
「香澄、死ぬ気だ、、、風呂に水、入れてる音がしてた。電話の声もエコーがかってた様な、、、」
「直ぐ行ったげてっ!、私の車、使って良いからっ!。私は電車で帰るから!」
「……すまない。冴子。行ってくる。車借りる。」
秀は、飛び出して行った。
香澄さんは手首を切り、風呂場で気を失いかけていた所を秀が駆け付け、救急車で運ばれたそうだ。
2日程して、秀が車を返しに来てくれた。
「どうだった?香澄さん。」冴子が秀に聞く。声が沈んでいる。
「うん、入院してる。4,5日で退院できる。」秀の声も沈んでいる。
「退院したら、、、、傍に居てあげて、、、」下を向いたまま、冴子。
「……すまん、、、放っておくわけにはいかない、、、」秀も下を向く。
「……当たり前です、、、私の事は良いから、責任を取ってあげて下さい、、、」冴子の声が、涙声に変わり始めた。
「冴子、、、すまん。本当にすまん。」下を向いたまま。
「良いんです、、、秀には感謝です、、、講義も試験も、秀がいたから、、、それに、、、」冴子の目から涙がこぼれ始めた。
「……」秀も、下を向いたまま、涙が出始めていた。
「……秀、一つ教えて、、、私のどこが好きだった?、、、」冴子、無理した笑顔を作る。
「普通で居られた。俺だって、泣きたい時がある、、、お前となら、素直に泣けると思えたんだ、、、怪我した時に会いたかった、、、」
「そう、、、一緒に泣きたかったね、、、泣けなかったね、、、今、泣けてるね、、、良い思い出になったよ、私。」
「俺もだ、、、ありがとう、、、じゃ、俺、行く。」
「送って行こうか?」作り笑顔の冴子。涙が頬を伝う。
「いや、電車で行く。あいつの所へ、、、」
「そう、、、じゃ、、、さよなら、、、」
「じゃ、、、ありがとう。」秀が踵を返し、歩いて行く。
冴子は秀が見えなくなるまで、見送った。途中から、溢れ出る涙で見えなくなった。でも、見送った。
家の中に入り、母の傍に行く。母が何とも言えない顔で、大きく頷く。
母の胸で泣いた。声をあげて泣いた。何年振りだろう。母が優しく背中を撫でてくれた。
そう言えば、冴子の喋り方が普通になっていた。女友達といる時と一緒。
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