広島協奏曲 VOL.1 竜宮城からのお持ち帰り (11)
(11) 御神島-1
城崎温泉を後にした二人。中国自動車道を下る。
三次東インターで松江道に乗り換え、松江方面へ走る。
「どこ、行くん?」
「出雲大社。そこで出雲そば食おう。」
「3段とか5段のそば?。インスタとかで見た事あるわ~。まだ食うたこと無い!」
「丁度えかった。また出雲大社、お参りしてから食おう。」
「うんちくは要りませんから、、、とんでも説っ。」
「ひえっ、先手打たれたっ!、、、まあ、ええわい。ちょっとさびしい、、、」
「でへへへへ、、、ちょこっとなら聞いちゃる。」
「すまんですのう~。気い使うて貰おて、、、」
丁度、お昼頃、出雲大社へ着く。南側の駐車場に車を停める。日本一大きな注連縄で有名な神楽殿から本殿へ行けるが、少し歩き大鳥居から詣でる。
なだらかな下り坂。坂の途中にも摂社が幾つかある。かなり長い距離を歩く。手水舎の場所で手を洗い、口を漱ぐ。
ようやく境内に入る。左手に黒い牛と馬。正面に拝殿。右側へまわり、拝殿の後ろには御本殿がある。そこには宇豆柱のあった場所が示されている。昔、本殿は高さが日本一だったと唄に歌われたそうだ。
そこで、二礼四拍手一礼。
【……隣の人とのご縁があります様に、、、続きます様に、、、】神頼みは、二人共通していた。二人は知る由も無い。
御本殿から右に回り、裏手にある 素鵞社《そがのやしろ》」を詣でる。更に回ると、本殿の西側に、御神体の正面と言われる所に出る。それに詣でる。
駐車場横の出雲蕎麦屋”八雲”で5色(五段)蕎麦を頂く。
出雲大社の東側には歴史資料館がある。健太は寄ってみたかったが幸恵を送り届ける為、今度一人で来ようと思い、一路南へ車を走らせた。
幸恵は、なぜ、健太に惹かれているのだろうかと考えていた。
健太の持っている雰囲気、怒れないと言う性格、年寄りのような趣味。
もしかすると、健太の中の子供の部分が幸恵の母性を刺激するのかとも思った。
20歳の頃の男の思い出がトラウマになり、対極にいる健太を選んだのかとも思った。
あるとすれば、あの時の相性かもと思った。前からでも後ろからでも無理が無い。大きすぎず、小さくもなく、丁度良い。
【別に理由はどうでもええかぁ~、、、良い人は良い人。そんだけにしとこっ。】
「健太さん、うちもお金出さにゃいけんねぇ~。宿代やらガソリン代やら。」
「ううん。要らんです、、、楽しいし、ええ思い出がもう一つ出来たし、昨日は相手してくれちゃったし。」
「そう言う訳にゃ、、、」
「いや、そうさせてください。」健太、譲ろうとしない。
健太がトイレに行ったパーキングエリアで、幸恵は、持っていた銀行の封筒に10万円を入れ、ダッシュボードの中へ忍ばせておいた。
「健太さんへ。ありがとう。気持ちですから受け取って」の文字を書いた。
松江道から尾道道を通り、山陽自動車道に入る。西へ暫く走る。東広島呉道路へと車は走る。
出雲市から呉市まで、日本海から瀬戸内海まで高速道路で繋がっている。
日帰りも可能なドライビングコース。途中途中の道の駅も面白い。
呉市からとびしま海道の安芸灘大橋を通り、幾つかの連絡橋を渡り、三上島(架空)に入る。
すっかり、夕方になっていた。
「ここには初めて来た。三上島、、、幸恵さん、名字が同じ三上じゃけど、なんかあるん?」健太、周りをキョロキョロしながら幸恵に聞く。
「よそ見せんといてっ!、、、うん、集落の三分の一は三上ゆうけえ、元々一族みたいなもんかもしれんねぇ~」
「同じ苗字ばっかりじゃったら、、、やっぱり下の名前で呼び合うん?」
「うん、しんちゃんとか、ようちゃんとか、、、お年寄りでもちゃん付け。、、、後は屋号じゃね。」
「幸恵さんとこは、屋号はあるん?」
「あるよ。富久屋《ふくや》。謂れはようわからんけど、昔っからそうじゃと。」
「昔は何屋じゃったんかね~」
「船大工しょったゆうのは聞いた事ある。江戸時代とか、、、うちのとうちゃん、今、大工。家の方の大工。」
「へえ~、、、大工さんか、、、」
「……三上島ってね~、昔はおんかみしまと書いて、御神島《みかみじま》よったんじゃと。」
「おっ!今度は幸恵さんのうんちく!」
「茶化さんといてぇ~。……港、フェリー乗り場にね、住吉神社があって、島の山頂にはえびす神社があるんよ。
えびす神社は元々、住吉さんの場所に有ったのを山頂へ移したんじゃと、、、大昔に。」
「大昔って、いつ頃?」健太、興味津々。
「奈良時代とか平安時代とか、、、かなり古うて、確かな事は判らんよっちゃった。」
「ふ~ん、、、えびす神社って、もしかしてヒルコ神社って言わん?」
「…どして、知っとるん!?」
「ようある話らしい、、、全国のえびす神社に、、、神戸の西宮神社もそうらしい。」
「山の上のえびす神社の祭神は、日ノ御子《ひのみこ》いゆうんよ。」
「ひのみこは、ひるのみこ、、、太陽の子。……ほんまは天から照らす、天照じゃったかもね~」
「出たっ!トンでも説。でも、もうええ、、、聞き飽きた。」
「すいませんでした、、、」
瀬戸内海、穏やかな海。だと誰もが想像する。
一日2回訪れる干満。島と島が接近し、狭くなっている海峡を瀬戸と言う。
その瀬戸に干満が訪れると、渦を巻き海面の物を海中へと引きずり込む。
刳り舟の様な小さな物はうず潮に飲まれていく。飲まれたら、帰れない。
比較的広い灘も大きく動いている。舞台全体が移動するように。
普段は穏やかな顔をした優しい人。
静かな凪と、大きく動く灘、狭隘《きょうあい》な瀬戸でのうず潮。見た目は優しい女性の様な瀬戸内海。
しかして、ひとたび動くと手の付けられない大いなる存在。
この瀬戸内海を自由に行き来できるようになるのは、鉄が手に入り、のこぎりと言う文明の利器が自由に作る事が出き、大型帆船を作る事の出来る時代になってからである。
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