広島協奏曲 VOL.3 もののふの妻 (10) 生い立ち
生い立ち
「クリスタル・ジュン」のセクシー女優としてのキャリアは、12本の動画の1年ちょっとで終わった。
LCC PAA (パイナップルエアー) カウンター業務の日々に戻る。
セクシー女優時代の長い髪をバッサリ切った。
仕事やプライベートで声を掛けてくれる男性もいる。真剣に交際をと言ってくれる人もいた。その気の無い事を伝える。
六本木のナンパクラブへ出向き、声が掛かるのを待つ。一夜限りの関係は、割と簡単に乗る。
伊達さんに時々会う。食事をおごって貰う。お返しに一晩、付き合う。
由里亜に恋愛感情が起きない理由。自分なりに分析し、ある一つの答えを出している。
その答えとは、小学校の時の両親の離婚、きっかけは母親の売春、その理由を聞いた時の父親の言動。
【お母ちゃんはビッチ。お父ちゃんはお人よしで恋愛経験なし。嫌いじゃないし好きじゃけど、尊敬は出来んし、、、、両親が目標です。みたいな事、よ~言わん。】
父親の高城勝利(たかしろ かつとし)は配管工の個人事業主。工務店や建設会社から仕事を請け負い、新築の建築物内の電気通信配管を行う。
勝利は若くして独立し女遊びが趣味、主に風俗通い。
母親は真紀子、若い頃は流川、薬研堀の夜を夜職フルコースのメドレーリレーで泳ぐスイマー。キャバレー、ピンサロ、ぼったくりバー、ホテトル、ソープ、スナックのちょんの間など。
結婚した頃は五日市のスナックの雇われママ。離婚した頃は土日も働くスーパーマーケットのレジ打ちパートタイマー及び熟女デリヘル嬢。
家族は離婚するまで、佐伯区五日市に住んでいた。近くに母親真紀子の両親、祖父母が住んでおり、祖父が寝た切りで、祖母が足腰が弱く毎日数時間、祖父母の介護や実家の事を行っていた。
祖父母が中年後期にさしかかる時に、従弟に当たる人の子を引き取り、養子として育てたのが真紀子。
カラオケスナックの雇われママにどうかと言われ、五日市に帰ってきたのが35歳。そこに来た勝利に、
「あれ、、、、あんた、どしたん?なんでここにおるん?、、、、、、また、遊んで貰えるん?」と言われ、
「もうせんっ!、、、くたびれたわ。」と真紀子は言い返し、真面目にカラオケスナックの運営に勤しんだ。
勝利が10代の頃から通っていた”流川学校”。その色んな教室にいた教師?の真紀子。違う科目で何度も会い、顔なじみになっていた。
スナックでの常連も2年もすれば男女の関係になり、その内に由里亜が出来たと分かった。
「一緒になろうや。」勝利からの求婚に、「え~、、、、うちは、1人の方が気が楽なんじゃが、、、仕方ないねぇ、、、」と受諾。
本当は両親の世話をする為に、カラオケスナックを辞める算段をしていた矢先の妊娠に、真紀子は悩んだ。
【お腹の子始末しょうか、、、へでも可哀そうなし、、、うち、女としての最後のチャンスじゃ思うし、、、子供と両親、どっちもゆうちゃあよぉ~せんかも知れん、、、、あ~、、、、、、どうにかなるか。いや、どうにかするんよ。】
そうして、勝利30歳と真紀子38歳が入籍し、由里亜が誕生。真紀子は子育てと同時進行で、90歳の祖父の介護と、88歳の祖母の通院介助をこなして行った。
由里亜が小学校へ上がる頃、祖父母が相次いで他界。二人は市営住宅に入居していて、相続する様な財産も無く、郊外の墓地へ区画と墓石を購入し、埋葬した。
勝利は、個人事業主の配管工。仕事が無ければ収入は無い。仕事があれば収入があり、入金があれば風俗へと通う日常だった。
真紀子と結婚しても、たまに広島の風俗へと通う。真紀子も知らんふりで容認している。
仕事をよく回してくれる工務店の業績が順調な時は良かったが、由里亜が小学校へ上がる頃、工務店の経営が苦しくなった。
『支払い、ちょっと待って。先に向うを済ませとかにゃ次が無ぁけぇ~。』としょっちゅう言われ、『ええですよ。わしはどうにかなるけぇ~』を繰り返す。
日々の生活に困り始める。「あんた、要るもんは要るゆうて貰おて来てやっ!ええ格好せんと、、、あと、よその仕事もすりゃ、ええが。」と勝利へ迫るも、本人は「助けちゃらにゃ、、、今までえっと、世話してくれとってじゃけぇ、、、、」と取り合わない。
真紀子は昔のつてを頼り、広島市内の人妻デリヘルへと週一、二回程度行く事にした。
勝利も黙認。収入の無い自分、結婚後も止めなかった風俗通いが、何も言えない重しになった。
ある日、勝利が作業していた現場に発注元の大手建設会社の部長が来た。以前からの顔見知り。
「高城さん、いつも御苦労さん。ところで、あんたの奥さん、スナック○○のママじゃった人よねぇ、、、」顔がニヤついている。
「あ、部長さん。いつもありがとうございます。ええ、そうですけど、、、、、何か。」今更、何を、、、と思った。
「この前、熟女クラブで呼んだら、、、、来てくれちゃったんよ、、、、向うも覚えてくれとって、挨拶したんじゃが、、、、、ええんか?ああ言う事させといてからに、、、、」完全に人を見下したような顔と声だった。
「……す、すんません、、、作業、続けます。」無視した。情けなさと憤りとごちゃ混ぜになった心のまま、作業を続けた。
工務店を都合よく使う建設会社に腹が立つ。一番言う事を聞きそうな自分に無理を頼む工務店に腹が立つ。自分の情けなさに腹が立つ。
その怒りをぶつける矛先が家庭に向かった。真紀子へ向かった。
言い合いが始まる。頼まれたら断れない勝利の押しの弱さを真紀子が罵る。頭を下げてでも、他所の違う仕事でも探せと罵る。
セックスワークしか出来ないと勝利が罵る。水商売の過去を、生まれつきだ、そう言う頭だと罵る。
手を上げる。泣く由里亜の前で殴り合う。二人で泣く。そして二人は、、、、答えを探した。
「別れようや、、、、わしら相手の悪いところばぁ~探しょうるわ、、、悪い訳じゃなあのに、、、こういう風にしか出来んかったのに、、、、、由里亜はわしの爺さん、婆さんに預けよう、、、、」
「あんたには感謝しょうるよ、ホンマよ、、、父ちゃん、母ちゃん、、、看取る事出来たし、、、、、由里亜もうちの様なもんが母親じゃ変な目で見られるけぇ、、、、その方がええわ。」
離婚し、真紀子は昔の友人を頼り九州へ行った。勝利は本業が無い時は、道路工事の会社へとアルバイトを始めた。
父親と母親は、由里亜が出来たので結婚した。
元々父親は恋愛には奥手で、性処理の為だけに女性に興味を持っていた。
母親は夜職、水商売を続ける為のスキルしかなかった。
今は使ってはいけない言葉で言えば、、、、かたわもん同士。
そんな二人の子供がまともに育つ訳は無い。異性に興味が湧く、人を好きになると言う事は、性行為に直結する自分。違和感も嫌悪感も疑問も持たなかった。
特定の人を思うと眠れなくなる。胸が苦しくなると言う経験もなく、告白されれば身体を求め合った。告白したら自ら求めた。
モラルの崩壊?、、、モラルって何? したくても出来なかった人たちの負け惜しみ?、、、とも考えた。
中学高校と、似たような考えの人は一定数いたし、自然と友達や仲間になった。情報を共有し、怖い事や危ない事は避ける事が出来た。
なんとなく過ごす中で、カッコいいと思える人たちが居た。
消防士、警察官、自衛隊員という、ベストスリー。
制服を着用している時の凛々しい顔。目的がはっきりしているきびきびした行動。普段の明るい、優しい笑顔。リラックスしている時の子供の様な雰囲気。
自分にはそれらが何一つ無い。憧れとも言える、尊敬の念。
高校生の時の広島繁華街。ナンパして貰ったり、お小遣いの交渉を持ちかけたり、その中で職業を聞く。
ベストスリーに出合えれば、積極的に振舞う。短期間でも継続を持ちかける。ただ、長続きしない。
嫌いじゃないけど、依存できない、したくない。相手が真剣だと言えば言うほど、嘘臭く感じる自分がいた。
【ビッチな母親、恋愛出来んスケベな父親。そぎゃ~な二人の子供じゃけぇ、、、うち。】
自分の生い立ちを悔やむ程、私は立派な人間じゃない。