死んだ後、生きる事を選ばれた命 (14)
頼りになる人
仙台市内のビジネスホテルに二人、チェックインした。
「ねえ、美也子さんの事さあ、、、『俺を産んで棄てた人』ってゆう言い方、止めない?」
瑞葉が話したい事とは、その事だった。
「気になるのか、瑞葉は。」
「うん、ずっと聞いてて同情したってゆうのもあるかもしんないけど、同じ様な境遇とかそんなんだったら、私も同じようにするかもって思うの。」
「……うん、、、」
「本当なら、好きになった人と一緒に暮らしてお兄さんを育てたかったと思うの。一緒に暮らせないなら、一人で育てて行きたいって思うの、、、それでも無理なら死んだ事にして、内緒で産んで、ちゃんと育ててくれそうなところへ預けたってゆうのも、その時に一番いい方法だったんだよ。それを選んだんだと思うの、私。」
「施設へ預けるのが一番いい方法とでも、、、」
「そうかもしれない。だって、、、シングルマザーで育てるのって結局、収入次第で出来るかできないか決まっちゃうみたいなの。お父さんが居ても収入が低ければ、させてあげられない事が沢山出てくるし、、、」
「瑞葉の所もそうだったのか?」
「うん、漁師なんてサラリーマン並みに収入がある人なんて一握りだもん。古くなった家とか殆どタダで住まわしてくれる所が無いと難しいわよ。休みなしで働いてもカツカツで、、、海が時化て漁に出れなかったら、収入なんて無いんだし。」
「そうか、、、」
「美也子さん、、、お兄さん産んでからどんな暮らししてたか知ってる?」
「若林さんてゆう刑事さんからは、川崎や船橋の飲食店勤務をしていたって聞いた。それって多分、、、風俗の事だと思う。」
「風俗?、、、お金、必要だったんだ、美也子さん。」
「昨日のお寺、吉田さんに暫くしてから少しずつ返し始めて、最近返し終わって、それからはお布施が送られて来たって言ってたろ。
それにさ、俺が居た施設に毎年、匿名でお金が送られてきていたんだ。空の菓子箱に入ってさ。現金書留とか振込だとどこの誰が送ったのが分かるから、、、
施設長は、『多分、駿のお母さんだと思う。有難く受け取るよ。』って話してたし。俺が卒業するまで、施設が閉鎖されるまで続いてた。
施設が無くなるのは市の広報とかホームページに載ったらしいから、それからは来なかったらしい。」
「誰かと住んでたり、結婚されてたとかは無かったの?」
「無かったらしい、、、てかそれほど詳しく聞いていないし、調べようとも思ってなかったし。」
「調べてみようよ、私も手伝うし、知りたいし、、、」
「そうだな、、、東京に帰ってから相談してみるよ、姉さんに。」
「えっ、姉さんいるの?」
「バイト先の姉さん、アラフォーのキャバ嬢。仲良くして貰ってるんだ。何かと頼りになるってゆうか、、、」
「へえ~、そうなんだ。そうか、そういう関係か、、、」
「あっ、、、瑞葉は春になったら東京へ出るんだっけか。そんな事言ってなかったっけ。」
「うん、スポーツインストラクターの専門学校へ行きたいんだ、、、その入学金とか授業料の件で父親と会うの。」
「その父親が当てにならなかったら、姉さんに頼っても良いんじゃないか?」
「ん?お兄さんに頼っちゃダメなの?、、父親が無理ならお兄さんにって思ってたよ、私。」
「そ、そうなんだ、、、そうか、春になったらおれも働くから多少なら、、、」
「頼りに出来る人が傍にいるとか、沢山居るとかって安心できるね。」
「……そうかもな。」
頼りにされる。そんな感覚はあまり味わったことが無かった俺は今、妙にこそばゆい思いがしている。
姉さんも俺が何か聞く度に、こそばゆくなってるのだろうか、、、
こんな感情も、少しなら有りかもと思えた。
翌朝、俺と瑞葉は西川口へと向かった。
目指すは、今はもう廃業している武藤産婦人科の元看護師、君島梅子さんのところ。
江藤美也子は妊娠中にも関わらず、東京まで出て職場を変え、死亡届まで提出し、極秘に出産した上に施設へ預けた。
なぜそうしたのか、誰の為にそうしたのか、本当にそうするしか無かったのか。
それが江藤美也子でなかったとしたら、別な方法をそれぞれが選択していたとは思う。
妊娠が分かった時点で、相手に認知させ養育費を貰いながら育てる。
この世に生まれる事は望まず、相手からも拒絶されたとしたら中絶、堕胎手術をするかもしれない。、、
どれが正解で、何が間違いなんて言えるんだろうか。
俺には分らない。答えなんて出せそうにない。
俺を産み棄てた江藤美也子は、、、どこを目標にしたんだろうか。
仙台から東京方面へ向かう車中、俺はそれを知ってみたい、知っておきたいと思うようになっていた。
助手席に座る瑞葉は江藤美也子へは、同情の思いを寄せている様だ。仕方なかったんだとも言っていた。
君島さんとゆう人に会えば、何か分かるかもしれない。
西川口駅前から、南へ少し進んだ住宅街に君島さんの一軒屋があった。
門扉のベルボタンを押す。暫くして母屋の玄関が開いた。
「どちら様?」80歳くらいの高齢者女性が覗き、俺たちの方を見ている。。
「川島と言います。江藤美也子さんの事について、聞きたい事があります。」
ハッとした表情を見せた高齢者女性、君島さんはフ~ッと一息つき、
「どうぞおあがりください。」玄関の戸を開けたまま、その奥へと入って行った。
「貴方が駿君ね。江藤美也子さんの子供さんの、、、」
応接間に通された俺と瑞葉の前にお茶を出しながら君島さんは、何か嬉しそうな顔をしていた。