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さよならのあとさきに 立秋 (1)
「お前、、、賢一か? 変わったな~、一瞬誰か分かんなかったよ。」
「えっ、松波君?、あの小太りの根暗で、内気な松波君?、、、すっご~い、身体鍛えてるの?、、、脱いだら凄いの?」
松波賢一、28歳。高校の同窓会があるというので、帰省し出席した。
10年前のままの自分では、おそらくこの同窓会には出ていなかっただろう。
イジメなのかイジリだったのか、みんなのストレス発散の道具としておもちゃにされ、笑いものにされ、それでもヘラヘラ笑っていた自分だったら、帰って来る事も無かっただろう。
「お、お前賢一か?、、、何だよぉ~勝手にかっこよくなっちまって~。」
後ろからいきなり、ヘッドロックをされた。賢一ムカっっと来た。右手で首にまわしてきていた誰かの腕を持ち上げ、左手でそいつの背中を思い切り押す。
ヘッドロックをかけてきた男が数メートり先の床に突っ伏す。ゆっくりを顔をあげ、賢一の方を見上げる。
「……な、なんだよ~、ちょっとした挨拶じゃねえか、、、、」
見ると、高校時代に何かとイタズラを仕掛けてきた、金田良介だった。
「あ、ゴメン金田君。いきなりだったからつい条件反射で、、、」賢一、一応謝る。
「わりぃわりぃ、昔のままみたいな気になってたわ、、、、」良介は苦笑いを浮かべ立ち上がり、他のグループへと行った。
健一の周りに居た人も、遠くの方に居るクラスメイトの名前を口にしながら立ち去ってゆく。
健一、一人佇む。そこへ同じようにクラス内で揶揄われていたAとBがやってきた。
面影はその当時のまま、引き攣った笑みを浮かべ猫背の痩せた男達。
「す、凄いね松波君。鍛えたの?羨ましいな、頑張ったんだね。」
「いや、鍛えてないよ。アルバイトが肉体労働だっただけ。強いて言えば、俺の事を認めてくれて優しく厳しくしてくれたおかげかな。ハハハ。」
「良い仕事、良い上司に恵まれたんだね。」
AとBの無理した笑顔がキモイ。あの頃のままの自分だったら、同じような顔をしていたかもしれない。賢一はそう思った。
「松波君、久しぶり。良い男になったね。」
その声に振り替える賢一。そこには上倉春香が立っていた。
「上倉さん、、、お久しぶりです。相変わらず、、、、」賢一、少し愛想笑いを添える。
「相変わらず、何?、、、男好きのする顔だってか?、、ぐフフフフ。」春香は拳を口に当て、笑いを堪える様に背中を丸める。
「いや、、綺麗だから。昔も今も。」
「おや、話し方も随分成長したのね。あの頃は何にも喋ってくれなかったのにね。」
「あ、、、いや、、、あの頃は周りに圧倒されてて、何も言えず、、、また何か言えば、良介たちに揶揄われてたから。」
「そうだよね~、、、松波君、賢一君は何されてもヘラヘラしてたから、みんな面白がってさ。」
「そうですよね。あの頃もうちょっとやり返してれば、、、」
「えっ、やり返そうと思ってたの?、、、そりゃそうか、そうよね、、、普通そう思うよね。」
「春香さんは、いつもイライラしてましたよね。俺に対しても。」
「そうだったかしら、、、そうかもね。でもさ、それって賢一君が悪かったのよ。」
「タブレットの似顔絵ですか?」
「そう。クラスの何人か書いてたじゃない、デフォルメしたアニメキャラで。その中で私はSMの女王様みたいにさ、ボンテージ着て鞭持って笑ってるの。
あの絵が出回ってから私の評判、落っこちたんだからね。面白くないわよ。」
「すみませんでした。でも、みんな春香さんの事、制服の中身はボンテージのSM女王だって言ってたから、、、そっちが先ですよ。」
「良いの。順番なんか、、、どっちにせよあんたの絵が原因で、他の学校の男子からも付き纏われちゃって、迷惑したんだから。」
「申し訳ありませんでした。この通り。」賢一、話を終わらせようと頭を下げ、謝る。
「じゃあさぁ、お詫びの印にこの後ちょっと付き合ってよ。」
「この後ですか?、、、分かりました。」
春香は「じゃあ、後で。」と言い残し、賢一の傍を離れた。女子グループへは行かず、男子グループもしくは、男女のグループの中を、二言三言何やら話ながら、回遊している
【春香、今は嫌われている認識はあるのか、、、、その頃の他の女子は自分の彼氏を寝取った春香を、何事も無かった様にみんな持ち上げてたっけ、、、みんな、次の標的にされない様に演技してたって事か。】賢一、ふとそう思った。
健一の高校時代。 男子からはイタズラの標的にされた。
袋に入れていた体操服が濡らされたり、女子の体操服と入れ替わっていたり。
弁当の中身が捨てられて、代わりにカエルの卵とオタマジャクシと蛙が入っていて、「お、今日はカエルの親子丼か?」と笑いのネタにされたり、
体操服を着ていた時、後ろからジャージのズボンと下着を一緒にずらされたり、
椅子の上に画鋲がびっしりセロテープで貼り付けられていたり、しかも針が上向きで。
ズボンを脱がされ、下半身が露わになった所へエアーサロンパスを吹きかけられたり、、、、
毎日何かしらの悪戯があった。今ならイジメだとして告発する事もできるが、その当時は仲間はずれが怖くて、へらへら笑い受け入れていた。
いや、受け入れざるを得なかったんだ。そうしないと次に何をされるか気が気じゃなかった。
学校へ行かない選択肢もあったが、行かなければ家庭内で父親に殴られる。
街中の繁華街とかで、サボって遊べば他校の生徒からの恐喝に会う。
一番、落ち着くのが学校のクラスだっただけ。多少の悪戯を我慢さえすれば、、、みんな声をかけてくれる。構ってくれる。話をしてくれる。
そうやって卒業を待ったんだ。