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女神 (31) 動き始めた未来

  動き始めた未来

「山下君、ありがとう。これで十分だ、、、、後は私が考える。」
土曜日の夕方、ユニコーンソフト開発の総務部。居るのは香織と部長の灰原。
「……はい、、、じゃあこれで失礼します。」
「ああ、待って、、、ここ最近のお礼がしたい。この後、食事でもどう?」
「いえ、お礼だなんて、仕事ですから、、、帰ります。すみません。」
「そうか。、、、、、、、ところで、、、契約の件、来年度どうするか、まだ悩んでてさ、、、今回、正社員の再就職支援をするけど、契約社員はそのまんまって訳にもいかなくてさ、、、」
「えっ、私も、、、対象、、、ですか?」
「うん、全員対象にしないとね、、、誰も納得しないしね、、、」
「……」
【そうよね、、、データを纏めるからと言って安泰だと思っちゃダメだったんだよね、、、】
香織、心の何処かで自分は大丈夫と思っていた事を悔やんだ。
「それでも何人かは残って貰う心算なんだけど、、、決め手がね、、、欲しくてね。それで今回は一番信用できる山下さんに、考課表の纏めをして貰ったんだ。」
「……」
「君には派遣時代から、仕事が正確で間違いが無く安心できてたから、役員に掛け合ったんだよね、社員登用、、、まあ、狂いは無かったから良かったよ。」
「……はい、、、感謝しています。」
「だからさ、、、君の事、絶対に必要な人材だってまた、言える様にさ、俺に任せてくれないかな?」
「……任せるって?、、、どうなさるんですか?」
「私の方腕かたうで だという事をもっとさ、、、アピール出来ればなってさ。もっと君の事、知りたくてね、、、、あ、いや、変な意味じゃ無くってね、、、」
【部長は、正社員に登用して頂いた恩人だし、、、何かと気に掛けてくれてるし、、、、仕事の事も、将来の事も、資格の事も、、、相談に乗って貰えるかも、、、】
雄大との同棲が始まり、経済的にも精神的にも、余裕が出来始めた香織。
【でも、雄大さんとは結婚は出来ないし、、、私に子供は多分、、、無理だし、、、いずれは一人で生きていける様に、資格を取って自立したいし、、、。】
雄大との仲は一時的なものにしようと考えている事が、気持ちを大胆にさせているのかもしれない。
「あ、あの、、さっきのお食事の件、行きます。ご一緒させて下さい。少し、、、相談も乗って頂けると、嬉しいです。」
「そう。うん、相談に乗るよ。出来る事は何でもするからさ。じゃ、行こう。」

宇都宮から帰った雄大。
実の母親と再会できた事で嬉しくなり、気分が高揚し、一人部屋の中でニヤニヤする。
土曜日だが、香織は休日出勤をしている。どうしても纏めないといけない資料があると言っていた。
香織からメッセージが届く。
「仕事、終わりましたが今日、帰りが遅くなります。みんなとお食事に行きます。」
【そうか、、、今週、大変そうだったもんな。かなり重い顔してたし、、、報告もあるって言ってたし、、、
終わったのなら、みんなと楽しく酒でも飲みたいだろうな。そう言えば、誰かと飲み会とか全然しない、した事無いって言ってたっけ、、、俺の話は来週でも良いや。】
「分かった。たまには楽しんできて。」と返した。

部長の灰原と香織。インド料理屋で食事をする。
「相談って何?、、、恋愛?仕事?」
「あ、ハイ。仕事です、、、今の仕事、性に合ってるのでいずれ専門的に、、、資格も取れればなって、、、」
「あ~、、、そうね。山下君は決められた事を忠実に正確にこなす事、得意だしね、、、てっきり、彼氏の事かなって思っちゃったよ。居るんでしょ、彼氏。」
「あ、いいえ、、、いません。」香織、嘘をついた。彼氏がいるといずれ結婚とかで退職するのでは。と思われるのが厭だと急に思ってしまった。
「そうかなあ、、、最近さぁ、綺麗になったし、明るくなったし、、、って思ったからさ。」
「あ、ありがとうございます。正社員にして頂いて、少しは余裕も出たんだと思います。」
「それじゃ、僕のおかげ?、なんか嬉しいなぁ、ますます応援したくなっちゃうなぁ~。」
「はい。よろしくお願いします。」
香織、気分が高揚している。食前に頂いたラッシーとリキュールのお酒のせいだろうか。

お店を出る二人。
灰原が急に香織の手を取った。
「手を繋ぎたいんだ。ゴメン、、、暫くこうしておいて。」灰原が優しく笑っている。
「……はい。」
【今の私があるのも、この人のおかげ、、、そして明日からも、、、】
元々お酒に弱く、男性との付き合い経験も無かった香織だが、この後がどう展開するかの予想くらいは出来た。気持ちが高揚してくるのが自分でも分かった。
「ちょっと、付き合って貰えるかな、、、」しばらく歩いた後、灰原が優しく呟く。
「……はい。」今までの自分では、決して出てこない返事をしてしまった。
シティホテルのロビー。そこのソファーへ座っている所までは覚えていた。

気が付けば、ベッドの上。裸の自分が居る。
【雄大さん、ごめんなさい。貴方との未来は、、、、私は選べない、、、、】

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