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広島協奏曲 VOL.4 振り子 (8) 投稿 8 アウトドアでブロポーズ

 投稿 8 アウトドアでブロポーズ

 日帰り車中キャンプを、月一ペースで一年近く続けていました。
 県内の瀬戸内島しょ部、岡山倉敷方面、鳥取、島根、山口萩の山陰などの道の駅が目的地。
 近くの神社やお寺、滝や湖などを訪ねる、ほぼ行き当たりばったりの旅。
 朝早く出て、夜遅くなっても、叱る人も心配する人もいない自宅へ帰ります。
 寂しくないとはどうしても言えない。
 「ま、タイミングが合えばその内、一緒に行きましょう。」と言ってくれた翼君とは、ホームセンターでしか話した事はない。
 誘っちゃえば、、、食事とか、、、と、心の中で自分と会話はするけど、、、、
 【翼君って、もしかして奥さんいる?、、、結婚してなくても彼女くらいの一人や二人は、、、、そんなんでこんな私が誘ったら、嫌われるかもしれん。】
 改まって聞いたことはありません。今どき中学生の方がハッキリ聞くじゃろうと思います。拗らせアラサー女子は悲惨じゃなぁ~といつも思います。

 ある夜遅くなった帰りに、夕食に弁当でも買おうと寄ったコンビニで翼君と遭遇しました。
 がっつりと行こうか、あっさりお蕎麦にしようか思案している背中に向けて、
 「今お帰りですか?」と聞き覚えのある声。翼君でした。
 「え、あ、こんばんわ、、、あ、はい。遅くなったんでコンビニで済まそうかなって。」
 「そうすよね、、、簡単便利だし、、、あ、そうだ。ココス行きません?包み焼ハンバーグ。」
 「はっ?、えらい具体的な、、、ハンバーグ食べたい気分?」
 「ええ、まあ、、、そんなとこっす。」
 「そうじぁねぇ、、、行こうかな、、、」
 と言う事で、突然のデートとなりました。
 コンビニの前に停めていた翼君の車は大きなワンボックスカー、ハイエースでした。
 それぞれの車でファミレスへ行きます。

 「あのハイエースで釣りとかキャンプ、行きょってん。」
 「はい、あれしか無いんで。釣りするけぇ生臭い生臭い。自分でもよう分かります。掃除せんとイケんのんですけど。、ハハハハハ。」
 「そうだ。釣り教えてくれるって前、言うてくりょったでしょう。あれ、いつ?」
 「休みが合う時って思ようるんですけど、青木さんが休みとかはわしらが忙しゅうて、、、」
 「うち、有給取ろうか、主任さんの休みに合わせて、、、、いや、あの主任さんの事言うんじゃのうて、早う釣り教えて貰うたら、もっと楽しいかなって、、、誤解せんといてね。」
 「ああ、、青木さん、それええ考えじゃ。じゃあ来週の水曜日、有給取って貰えます?火曜日の晩から浜田へ釣り行こうか思よったんですわ。」
 「あ、うん、、取るようにする。……取れんかったら連絡するし、何時にどこでとか聞くのに困るけえ、、、、LINE交換しとく?」
 「そうしましょう。そうしましょう。……これです。」翼君は携帯の画面にQRを出し、私へ差し出しました。

 こうして、一気に話は進んでいきます。
 その前にココスでLINE交換した夜の事、帰宅した時に初トークを送りました。
 ”無事帰りました。今日はどうもです。来週楽しみにしてます”
 なかなか既読になりません。仕方なくお風呂に入った後見たら、返事が着ていました。
 ”どうもっす。じゃ、来週。またれんらくするっす”
 今夜からキャッチボールが始まると期待していたのですが、、、
 約束の日までに、翼君から来たLINEは、2通。
 ”有給、大丈夫でした?”
 ”明日、夜の9時に役場駐車場で”
 【夜の9時、、、役場、、、世を忍ぶ不倫かよ。翼君、仕事終わりか、、、そうよね~】

 「おまたせ~、こっちへ乗って下さい。行きましょう。」
 暗くなった役場の駐車場の出入り口にほど近い場所で待っていた私の車の横に、ハイエースが止まり運転席から降りて来た翼君が、私の車の横に来ました。
 ハイエースの中は、、、魚臭くお世辞にも整理整頓できているとは言えない状態でした。
 「生臭いすか?」
 「いえ、大丈夫。慣れるじゃろうし、、、」【臭いわ、、、慣れるかどうかわからん。マスクず~っとしとこっと。】
 コンビニでサンドイッチやブリトー、肉まんを購入し、ハイエースは日本海の温泉津へと向かいました。
 夕食は、走りながらの車の中でと言う事だそうです。
 深夜1時頃、目的地に到着し朝の5時まで仮眠と言われ、助手席で横になりました。

 ウトウトしていた頃を起こされて周りを見ると、まだ夜は明けていません。
 翼君は、私の分まで一通りの仕掛けを準備してくれていました。いつの間に、、、うちが寝とる間か、、、
 明け方の海に向かって、翼君の釣り方を見よう見まねで釣竿を振り、リールを巻きます。
 1時間くらい経った頃でしょうか、私の竿がクイっと引かれる手ごたえがありました。
 「何かかかったみたい。」「おっ、すげえ、、巻いて巻いて。」
 私が生まれて初めて釣った魚は、ヤズ だと教わりました。ブリの小さい頃の呼び方だそうです。
 お昼前まで釣りを続けました。私が最初の一匹だけで、翼君はかんぱち、ヒラマサと言うのを5匹釣っていました。
 「青木さんの釣ったヤズ、どうします?、持って帰られますか?」
 「う~ん、一人で食べるんも胸焼けしそうじゃし、、、」
 「料理屋さんで捌いて貰おて昼飯ってのは、、、どうすか?」
 「料理屋さん、知っとるん?」
 「温泉津の旅館が並んどるとこに、お寿司屋さんがあって、ようそこで食べせて貰おとるんですよ。で、今釣ったこれを差し入れたりして、、、」

 お昼ご飯は話のお寿司屋さんへ行きました。
 私の釣ったヤズをみて、「おお、ええヤズじゃのぉ、小振りじゃが締まっとりそうな、、、ブリの子供だけに、、、、ガハハハ。」と、お店のご主人は一人でボケていらっしゃいました。
 牛肉の鉄板焼きワサビ添え、マイタケやキス、野菜の天婦羅、タコやアサリと分葱のからしみそ和え、茶わん蒸し、魚のあらの潮汁。そこに釣ったヤズのお造り。
 昨日の夜の「肉まんで我慢」は、この昼食の為に有ったのだと思ったら、感動モノでした。

 「また行きましょう。アジとかタイ狙いなら、瀬戸内海でサビキ釣りやフカセ釣りが良いかもしんないすね。」
 「うん、また教えてください。」
 「あ、そうだ、、、主任さんはやめてください。新谷とか翼とか呼び捨てでもいいんで。」
 「じゃあ、、、、翼君で。」
 「わしは雪さん、、で良いすか」
 「うん、ええよ。」
 すこ~し距離が縮まった気がしました。いえ、かなり縮まってきています。
 でも、こうやって釣りに連れてってくれるって事は、お嫁さんはいないって事で、、、、単身赴任でエンジョイ中なら分かりませんが。

 翼君の事は何も知りません。別に知らなくても良いかと思う時も有ります。
 でもどうしてるんだろう、何考えてんだろうと妄想するときがたまにあります。
 翼君も成年男子、幾つ下か知りませんが欲求もあるでしょう。もしかするとBLだから私とも友達の感覚なのかと、思考がどっか飛んでしまう事も有ります。
 30過ぎの女、欲求は通販で購入したグッズと携帯動画で、たまにですが、、、します。続ける時は2週間毎晩の時も有り、しない時は二月しない事も有ります。
 男はそうはいかないと聞きました。週一は必ずして、毎日、毎晩、毎朝って事もある。って小耳にはさみました。

 アラサーのちびデブブス女、大学時代の援助交際と20代後半のセフレ、世の女性の多くにある様な恋人同士の束縛し合いと依存し合いは、ついぞ経験できませんでした。
 翼君にはそれを求めようとは考えていません。
 でも結婚願望はあります。
 子供が欲しいです。あの時、あのまま産んでいれば、、、と今でも考えます。
 生まれてこなかったお腹の子の代わりに、翼君が現れた。と、夢見るヒロインになるには、こんな私では役不足です。
 答えなんて出さずに生きてみたい。と思う事も有ります。
 それこそマッチングサイトで出会い、大丈夫だと言いながら生で中出しして貰い、妊娠して、、、東京の明日美の所で産み育て、保育所辺りから地元へ戻る。
 そんな小説みたいなシナリオを頭で描く夜も、あります。
 親もいなくなった独り者。好きに生きて良いんだよ。処分しちゃえばいいじゃん、なんもかんも。
 そんな勇気もない私の行く末は、どうなるんでしょうか。
 その時はそんな事を一人で考え、お酒を飲んで寝ていました。
 明日は仕事だ。週末は何処行こう。日帰り車中キャンプか、道の駅巡りか、神社仏閣の御朱印ラリーか(やった事無いけど)、と自分を、妄想から現実に引き戻す日々でした。

 3ヶ月後に、翼君からキャンプのお誘い。
 有休をまたとるのかと思いきや、木曜日が祭日の水曜休日で連休が取れるとの事でしかも、私自身が前の週の土日が応援の為の休日出勤で代休取得可能。巡り合わせって奴ですね。
 ”行きます。泊りキャンプですか?”と返すと、
 ”泊りで、今度は岩魚釣りの塩焼きなぞいかが”
 【岩魚の塩焼き、、、滅多に食えるもんじゃないじゃん。乗った。】
 と言う事で、今回は一日目の朝に家までお迎えに来てくれると言うので、ワクワクドキドキで待っていました。
 兵庫の奥の方のキャンプ場でした。その近くに、渓流を一部せき止めた釣り堀があり、そこで岩魚を釣る事が出来、その場で焼いて貰えます。
 着いたその日のお昼は、その岩魚とセットになったご飯とお味噌汁。
 夜は、翼君が持参したお肉とソーセージ、野菜でバーベキュー。手際が凄く良いので感心しました。さすがです。
 片付けた後、もう一度お酒タイム。翼君の釣りやキャンプの話を聞きながら、割と楽しい時間が過ぎます。

 「そう言えば翼君って独身だよね。彼女とかおらんのん?、、」
 「おらんですよ。」
 「作らんのん?」
 「うん、不得意で、、、」
 「何が不得意なん?」
 「マメに連絡したり、イベントとか記念日とか、何が地雷か分からんし、、、雪さんもそう言うとこあるでしょ。」
 「無くはないけど、うちはそう言うのどっちでも良い思うとるんよ。どうでも良いゆう訳でもなく、、、」
 「何かわし、小さい頃落ち着きがのぉて授業中も席立ってどっか行く子じゃったんですよ。
  最近になって、注意欠陥なんちゃらゆうゆうて、おかんが話しょうりました。
  なんか集中できる事ゆうんで、親父と釣りする様になって、それで嵌ったんですわ。
  中学生くらいになって、女の子に興味があっても落ち着きが無い子は嫌われるし、仲良うなっても約束事忘れたり、そのプレッシャーで籠ったり、、、
  わしは縁が無いんじゃ思うて、釣りとキャンプ、それと今の仕事。
  そういや今の仕事って、何かに集中ってゆうよりはあれもこれも同時進行みたいなところが多いんで、性に合っとるかもしれんです。」

 夜は少し片付いていた車の後部に、寝袋が二つ準備してくれてあり、それぞれ入って寝ました。
 さすがはキャンプ場です。トイレがあるのは安心です。
 翌朝は私が朝食を作りました。フレンチトーストです。美味しいって食べて貰えて、満足。
 昼前に出て、道の駅や農産物直売所とかに寄り、中国自動車道を西へと走ります。
 その帰りの車の中、翼君が、
 「雪さんは、結婚されないんですか?、、、
  あん時、救急車を呼んだ時、、、暫く病院に居たんですけど、、、どなたもいらっしゃらなくて、、、、 彼氏さんとか来ないのかな、来たら代わって貰おうって思っとったんです。」
 「……寂しい女じゃ思いました?、、、一人暮らしじゃし、彼氏もおらんし、、、」
 「わしみたいなもんでええなら、どうすか。考えてくれんでしょうか。」
 「えっ、いきなり?、、、、付き合うてみて合う合わん確かめて、許せる許せん決めてからとかじゃないん、普通、、、」
 「あ~、、、すいません。さっき言った様にそう言うの出来んみたいで。」
 「あ~そうじゃった、そう言いよっちゃったねぇ。」
 「考えとって下さい。わしも自分の事話したんは、さっきが初めてじゃし。」
 「うん、考えとく。」
 そんな会話の後、年齢とか出身地、お父さんお母さんの事を初めて聞きました。
 新谷 翼 27歳。実家は広島市内のマンションに両親と妹。

 考えとくと言いながら、答えはもう出ていたと思います。
 何かと翼君の事を考えたり、妄想したりおかずにしたりしていたのですから。
 そうゆう思いって、オーラかなんか出てるんでしょうか?、当事者から見たら、分かるものなのでしょうか。
 よく好きな人を見ると、瞳孔が開くと言います。
 なので、見ている本人は相手が眩しく見えて、相手からは瞳の黒い部分が大きく見えて、可愛いが割増になるそうです。
 目を見られていたのでしょうか。
 翼君には発達障害があるようです。結婚して一緒に暮すと、何かしら支障があるかもしれません。
 働いている所や一緒に釣りやキャンプをしている分には、何の支障も無い様にも思えます。
 何が苦手で、何に不機嫌になるのか当分の間、要経過観察です。

でも、、、既にその先の答えも出ています。翼君を逃すと後がもう無い、二度とこんな事は起きない。そう思いました。

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