女神 (38) 雄介-2
雄介-2
「それからさ、大学4年になって涼子は教職員目指して、俺は一般企業が面白そうと思えて、、、、それぞれ恋人も出来たり、、、、離れていたんだよ。
そんな時、雄大君を引き取りたいって言う里親の話が来て、、、、、
俺たち素直に、、、それで良いんだ。って、、、、、酷いよな、、、、迎えに行くって言っといて、、、、、、里子になれそうだって聞いたら、、、、、
その方が良いんだ、、、その方が雄大に取って、それが一番良いんだ。って、、、、、無責任極まりない事、、、、、、、、、、考えちゃったんだ。
だから、、、、雄大君には本当に申し訳ないと思ってる。ず~っと思ってた。今でも思ってる。許してくれ。」
雄介の真っ赤な目から零れ落ちる涙。自分自身を責める涙。涼子も流れる涙を拭おうともせず俯いたきり。
「許すも許さないも無いです。感謝しています。この世に産んでくれた事。榊のお父さん、お母さんに合わせて貰えた事。その時その時で出来た事が今、繋がっています。一番良い場所に繋がっています。」
雄大は笑っている。笑ってはいても涙が零れている。鼻水も落ちている。
「それから涼子は小学校の教員になって、俺は商社に入社して、離れ離れになってそれぞれの道を歩くのかなあって、思ってたんだよな。
10年経って、学君が結婚するってなって、、、結婚式で再会したんだ。学君の嫁さん、俺のいとこでさ。ハハハ、、、世の中って狭いよなって思った。
披露宴の後、久々に飲んで、、、帰りに二人きりになって、、、雄大君元気かなって俺、、、、言っちゃったんだ。
そしたら涼子、その場にしゃがみ込んで泣いて、泣いて、、、泣き叫んで、、、、手が付けられなくなって、、、、、落ち着かせようとハグして、公園で話し込んだんだ。」
「そうだったよね。本当に無神経で、傷口を平気で掻き毟る様な人って一瞬、思っちゃったの、、、そん時は、、、
でもね、、、人の事言えないんだ。私って、、、、忘れようとしてたし、考えない様にしてたし、彼氏が出来ても結婚とか考えなかったし、結婚する気も無かったし、、、、
でも、30を過ぎて一人が寂しくなって、、、結婚したいなあ、、、こどもも欲しいなあ、、、、なんて都合の良い事ばっかりだったんだよね。
雄大の事、始めから無かった事にしたいって、、、思い始めてたんだね。それを雄介が引きずり出したの。心の底から、、、
自分の都合の良さって言うか、冷たい心って言うか、、、段々と自分で自分が嫌いになって行ったの。」
「みんな都合が良い生き物なんだ、人間って、、、悲しいよな。」
雄大、掛ける言葉が見つからない。こうあるべきだって言う人もいるが、、、なかなかそうはいかないと思っているが故に。
「その時さ、もう一度腹が決まったんだ。涼子と一緒になるってね。そしていつか雄大君に会いに行って、許して貰おうってね。」
「うん、、、でも、、、、私、何も無かった事にしてやり直したい、、、昔の事は死ぬまで隠しておきたいって、、、、だから雄介のプロポーズ、断ったの。断り続けたの。」
「で俺、名古屋に移動願い出して、関連会社へ出向って形で移ったんだ。涼子、名古屋で教師してたから、、、」
「うん、しつこかった、、、今だったらストーカーで捕まえて貰えたのにね、、、、でもね、雄介からの一言で私も決めたの。」
「うん、、、、俺なら全ての事、引き受けられるぞ。黙っている事に苦しまなくても済むぞ。俺、、、全部背負うぞ。、、、ってね。」
「ウグ、、、パパ、カッコいい、、、」のぞみが涙と鼻水だらけの顔で、雄介を称えた。雄大、雄介、涼子の顔に笑顔が零れた。
「涼子と一緒になって、暫くしてのぞみが出来て、、、俺に別会社への転属の話が出て、、、、涼子も教師を辞めて、宇都宮に移ったんだ。
雄大君の近況とかは、なかなか教えて貰えなくてね、、、、裁判所に頼もうか、どうすれば良いかゆっくり考えようと思って、、、20年近く過ぎちまった、、、、
すまん、、、本当にすまん、、、心のどっかに、このままで良いかって、、、、思っちゃったんだな、、、、」
「渡部のお父さん、お母さん、、、、これで良かったんです。いえ、これが良かったんですよ。俺、、そう思います。
みんな、、、こうしなくちゃいけないって考えるより、今はこうしようって言う道を選んで、、、先延ばしかもしれないけど、それが良かった様な気がします。
俺も、心のままに生きてこれたから、、、こうしなくちゃいけないって考えずにこうしたいって思って来たから、、、、そう思います。」
「実のお父さんは?」杏樹が、聞きにくい事の口火を切ってくれた。
「お母さんの弟。叔父さんにあたる人。」
「う、うっそ~。」「えっ、やっぱり、、、」「……」香奈、唯奈、香織の反応。
「とは言っても、子連れ再婚同士で、血は繋がっていないからいいんだけど、、、
宇都宮を訪ねた2回目の時、その叔父さん、いや渡嘉敷のお父さんに会った。その前に、小牧を訪ねた時、遠くから見かけていたから、知ってたんだけどね、、、
俺とそっくりなんだ、、、瓜二つなんだ。まるで双子の様な、、、いや、お父さんの息子さんを入れると、三つ子だな。ハハハ、サルが3匹ってな感じ。」
「同じ家に暮らしてて、自然に恋愛感情が芽生えたって事?」と 杏樹。
「ううん、、、お父さん、学さんが中学の頃はグレていて、お母さんその時高校生で、、、ある時、お母さんが学校帰りが遅くなった時、襲われたんだって、、、お父さん達とは違うグループの中学生に、、、
泥だらけで、血を流してて、泣いて帰って来たお母さんを見てお父さん、1人で金属バット持って殴りこみに行ったそうなんだ。
1人じゃボコボコニされるよね、、、骨折やらで入院して、、、お母さん付き添って看病して、、、警察沙汰にはしなかったそうで、、、まだ、そういう時代だったのかな?
お母さんもお父さんも、それぞれ申し訳なくって、、、お父さん、、、、退院しても喧嘩ばっかりしてて、、、特に襲ったグループの人たちを追いかけまわしてたらしい、、、
お母さん、気に病んじゃって、、、お願い、喧嘩は止めて、何でもするからって、、、お父さんもお母さんの事、好きだったらしく、、、自然とそういう仲になって、、、
お母さん、大学進学の後夏休み前に妊娠が分かって、それで渡部さんに、、、」
「渡嘉敷のお父さんって言うか、お祖父さんて言うかその人たちは?」と香奈。
「お祖父さんって人、ダムとかの建設現場へ行きっぱなしの職人さんで、、、お祖母さん、スナックの雇われママで、、、
その頃の渡嘉敷の家はお母さんが仕切ってたみたい。お祖母さんとお母さん、遠慮しあいこっていうか、仲があまり良く無いらしくって、、、」
「お母さん、1人で抱えちゃったんだ。しょうがないよね。」と 杏樹。
「渡嘉敷のお父さん、俺の目の前で正座して両手を着いて謝るんだ。『すまん。辛い思いをさせた。』って。
俺が『辛く無かったです。良い人たちと会わせて貰いましたから。』っ言ったら、、、お父さん、号泣で、、、」