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私が悪女?昭和な言い方ね。今ならなんて言うの?【渡部香澄】4

『日曜日の夕方は、手を繋いで一緒に歩いて下さい。』アナザーストーリー

未来予想図(旅立ち)

秀と明菜の離婚から2年。秀と樹里亜の半年に一回の親子デート。もちろん香澄も一緒。
「香澄、、、俺、冴子に怒られたよ。
 香澄の事、良い所見つけて愛そうとすれば良かったって。 
 許せないとこは流して、分かってやれば良かったって。夫婦ってそういうもんだってさ、、、
 そうだよなって思った。今更だけど、すまなかった、俺が悪かった。」
「あの時、一緒に居た子よね?。そう、、、そんな事言って、秀を叱ってくれたんだ、、、良い子ね。良い奥さんになると思うわ。」
「ああ~、もう一度付き合おうかと思ってる。まだ、縁りが戻った訳じゃないんだ。」
「へえ~、、秀にしては慎重なのね。そうゆう所あったんだ。ちょっと意外。」
「香澄の事、樹里亜の事が気掛かりでさ、、、樹里亜の事考えたら、やり直さないと駄目かなとも思ってた。」
「え~、、、それは無理よ~。また一緒に暮らしたら、罪悪感ばっかしの意識で、今度こそ本当に死んじゃうかもしれないじゃない、、、フフフフフ・」
「香澄、あの時は本気じゃなかったのか?、、、今更責める訳じゃないけど。」
「うん、、秀を取り戻すには、あんな事でもしないと無理だと思ったの。ずるいよね、私って、、、一緒になってからでもず~とっ、心の隅に引っ掛かってたの。」
「そう言う所まで分かってやれば良かったんだな、俺は。」
「秀にはそう言うの求められないわ。秀は真っすぐな人だから。私なら大丈夫よ。樹里亜と一緒に生きて行くから、、、でもね、
 樹里亜の父親は一生ものだから、よろしくねっ」
「うん、分かってる。」
「それとね、冴子さんと付き合うならお金は要るでしょ。養育費、15万で良いわ。私も株のトレーダー始めたから、そこそこ収入が出始めたの。」
「良いのか?助かる。でも大丈夫か?株って損する時は大きいって聞いたことあるが。」
「毎日取引する訳じゃないの。優待特典や配当金が目的だから、、、それにマンションは父の物だから、私の物と同じだし。」
「やっぱり、香澄は凄いな、、、俺なんかよりたくましいや。」
「今頃気付いたの?フフフ。私なら大丈夫。やりたい事するから、、、強がりじゃないわよ。私は私で生きて行くから、心配しないで。」
香澄の顔が清々しくなっていた。秀は今、冴子の事で頭が一杯で、香澄の心の中までは見通せない。

それから1年後、秀と冴子は結婚した。
その報告を受けた香澄は、秀と冴子を訪ねた。冴子と樹里亜の顔合わせが目的。
冴子には昔の事への申し訳なさが少しと、いずれ最後の願いを聞いて貰えるかどうかの見定めが、香澄の目的だった。
冴子は香澄の申し訳なさそうな振る舞いに恐縮し、樹里亜のはきはきとした態度に押されぎみだった。
「ねえ、ママ。パパの奥さんて京《みやこ》のおばちゃんに似てるね。」樹里亜が嬉しそうな顔で香澄に報告した。
「そうね、優しそうな人ね。」
いつも人の事を気にかけて、何か出来ないかと考えている雰囲気が実家に居る加納京(みやこ)に似ている事が、香澄には安心材料になった。
【冴子さんには裏が無い。大丈夫。樹里亜の事、頼めるわ。】

秀と香澄の離婚から5年。樹里亜も6歳になっていた。
冴子に男の子、秀太郎が生まれた。香澄と樹里亜がお祝いに来てくれて、弟だよと言うと樹里亜は満面の笑みで赤ちゃんへ話しかけてくれた。
半年後、乳児健診で病院へ行った冴子は、会計を待つ待合所で香澄を見かけた。
「あれっ、香澄さん、、、どうされたんですか?」椅子に座っている香澄の横に立ち、話しかけた。
「あ~、冴子さん、お子さん、秀太郎君、順調?」香澄は立ち上がり、冴子が前抱っこしている子供を覗きこみ、笑顔で聞いた。
「順調です。夜泣きもあまりないし、、、それより香澄さん、、、御病気ですか?」
「……うん、、、ちょっとね、、、そうだ、来週にでも訪ねても良い?秀君、いえご主人の非番の時にでも。」
「はい、構いませんけど、、、」
「丁度、計算が出来た様だわ。じゃ、また連絡するわ。お願いね。」と言って、香澄は会計を済ませ、手を振って去って行った。

翌週、秀の非番の日、樹里亜と一緒に香澄が訪ねて来た。
樹里亜はベビーベッドに寝てる秀太郎をつついたり、眺めては笑って遊んでくれている。そのそばには冴子の母が居る。
「秀、冴子さん、、、私、来月入院するの。樹里亜を預かって欲しいの。」
「入院って、何処がお悪いんですか?」冴子が心配そうに聞く。
「元々私、子宮がんがあって、高校の時に片方を摘出したのね。秀には黙ってたけど、、、」
「えっ、そうなのか?知らなかった、、、言ってくれたらよかったのに、、、」と秀。
「お薬貰って飲んでたから、普通の事は出来てたの。樹里亜も授かる事が出来たし、酷くならないかなって思ってたら、、、」
「さ、さ、再発したんですか?」冴子がショックを受けた様に香澄に尋ねる。
「転移したみたい、、、3か月前に定期検診に行ったら、検査の数値が異常になり始めているって主治医の先生がおっしゃって、、、
 紹介状書いて貰って、総合病院へ行ったの。そう、秀太郎君が産まれた病院。精密検査したら、、、おなかの画像が、ほとんど緑色に光ってたの。」
「えっ、、、でも治るんですよね?治療すれば大丈夫ですよね?」冴子、 うろたえる
「どうかしら、、、手術しようにも広がりすぎてるって言ってたし、抗がん剤か放射線治療かもしれないけど、おなか全部に放射線は無理みたいだし、、、」
「か、香澄、、、樹里亜の事は安心して任せてくれ。それより樹里亜にはお前が必要だ。」
「ううん、秀と、、、パパと冴子さんが居れば樹里亜の事、安心して任せられるから、、、多分、私、戻ってこられない、、、」
「香澄さん、、、ゥグっ、、、そんなこと言わないでください、、、必ず戻るって言ってください、、、」冴子、泣き始めてしまった。
「うん、そうね。必ず戻るから、頑張るから、、、その間、樹里亜の事、よろしくね。」香澄の無理をした笑いが痛々しい。

そうして、樹里亜は秀と冴子の家に来た。
毎週の様に冴子は樹里亜を連れて香澄を見舞った。
日に日に衰えて行く香澄。最初はベッドから起き上がっていたが最近は寝たまま、二人を迎える。
「群馬の父も、京(みやこ)さんと一緒に良く来るのよ。明菜も良く来るし、、、元気、貰ってるわ。」と弱弱しく話す香澄。
樹里亜が「咽喉乾いたし、おやつ食べてくる。」と言って同じ階の面会室へ行った。その時、香澄が冴子に向かって、、、
「冴子さん、、、あの時は本当にごめんなさい。許して下さい。」と言う。冴子は香澄の手を握り、
「許すも許さないもありません。後から私が取っちゃった訳だったし。」
「ううん、私、ズルイことしちゃったから、、、それにあれからすぐ結婚して、あなたの所へ戻れない様にしちゃったし、、、」
「戻ってくるなんて思ってませんでした。秀は香澄さんの事、ずっと守らないとって思ってましたから。」
「冴子さん、、、あなた本当に良い人ね。私みたいな悪い女と張り合ったのが申し訳ないわ。ゴメンね。」
「香澄さん、弱気にならないで、、、樹里亜ちゃんも待ってるから、必ず戻ってきて下さい。」
「うん、もうちょっと頑張ってみる。」出来るだけの笑みを浮かべる香澄、
「そうですよ。また来ますから、樹里亜ちゃんと一緒に。今度は秀太郎も秀も一緒に来ますから、、、元気あげますから。」
「うふ、ありがとう。冴子さん」

冴子と樹里亜が帰った病室に一人、香澄は未来予想図の後半を思い描き、予想通りの結末に満足げに END の文字を入れた。
・あの人の子供を授かる。
・秀に愛想を吐《つ》かされるようにする。
・秀と離婚する
・秀へ子供を預ける
・旅立つ
 ---END---

三日後の夜、病院から香澄の容態が急変したとの連絡で駆けつける。秀は待機日で家にいた。
翌朝、香澄、永眠。

「私が悪女?、、、そうね。そうかもしれないわね。でもね、、、私が望む結果で、誰か不幸になったかしら?」

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