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広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (14)

  実家

引継ぎも終り、富田は東京へ帰って行った。
木村新所長は神戸営業所から来た60過ぎの紳士。実家が福山で暫く空き家になっていたその家に帰って来たそうだ。関西弁で良く冗談や下ネタを言う。都会ではその下ネタは”セクハラ”だと言われると、一人で憤慨している。
富田の前任者だった板垣所長が今、神戸営業所の所長をしている。

村上の方はと言えば、新人が2名入ったらしく仕事も余裕が出てきて、長距離の仕事が週1回になり、良く雅恵のアパートに泊まりに来るようになった。


4月、5月のゴールデンウイーク、雅恵は実家に帰省している。
丁度その時期、県北では田植えの最盛期で、父親は多忙を極めており、食事の支度や苗運び等の為の帰省となった。
今までは母親が担っていたが昨年末他界し、祖母も足腰が弱い為、雅恵が今年から行う事になった。
祖母は雅恵の見合い相手を探すべく、あちこちに電話しているが溜息ばかりついている。
早ければ、母親の初盆が過ぎた秋頃に見合いさせたいらしい。
どうも祖母の言う条件が厳しい様だ。
”婿養子に来てくれる次男、三男”
”市役所や銀行、農協などの職員や、教師、病院勤務の看護士や技師。が希望”
”当面は現在の仕事を続けても良いが、近い将来に農業をする事。林業もある。”
”性格は大人しく、喧嘩をしない人” など。
【……そんなやつ、おらんわっ!。天然記念物かっ。】雅恵は呆れ果てて祖母の電話を聞いている。

春が過ぎ、夏が来た。毛利恵美子(母)の初盆。
親戚から送られた盆提灯が仏間に、昔からある物、新しく送られてきた物が所狭しと飾られている。
妙心寺の住職が、忙しい中をお参りに来てくれた。手土産の贈答用ビールとお布施を渡し、深々とお辞儀をし御見送りした。
祖母、父と雅恵に向かい、
「あちこち、電話しょーるが、ええ話にはなっとらん。まあ~、気長にいくけぇ~。雅恵、ええのっ!」
秋の見合いは無さそうだ。雅恵はホッとした。

9月終わりから稲刈りが始まる。その後、大豆の収穫、麦の植え付けと11月終わり頃まで父は忙しい。
週に2,3日の建設会社の日雇いも行かなくてはならない。人材不足で辞めるに辞められない。
足腰の弱くなった祖母の代わりに、雅恵が週末には食事の支度や、掃除、洗濯、農作業の補助をする為、帰る頻度が増えた。
雅恵が居ない時は、父邦夫が家事をしている。マメな男で良かった。
村上の仕事上、土日は関係なく尾道に帰る日に雅恵のアパートにやって来る為、ダブルブッキングはたまにある程度。
11月の終わり、母の一周忌法要が行われた。来て下さった親戚は、やはり少なかった。

12月に入り、ようやく実家も落ち着いた。

雅恵の誕生日、12月24日。初めて好きな人とのクリスマスイブ。

今年のクリスマスプレゼント。村上からは赤い小さなルビーが着いたネックレス。
雅恵から村上へは、お出掛け用のジャケット。
「なかなかいけんねぇ~。大阪やら神戸。」
「ほうじゃのぉ~。ワシの方が ゆうになった思うたら、まーちゃんが忙しゅうなっとるしのぉ~」
「去年のプレゼント、覚えとる?あれ、どうしたん?店まで入ったん?どんな顔してゆうたん?なんじゃゆうて頼んだん?」
「あ~、、、あれか、、、ひどお恥ずかしかったわ、、、。ガハハハッ。」
「ほんまなら、うちが見て選んで納得して買うもんよ~あぁゆうなぁ~。」
「そうは思うた。なかなか帰れそうになかったけぇ、焦ったわ。実はあの店、同じプロレスしょった人の店なんよ。」
「えっ!、、、元プロレスラーの?男の人がしょってん?」
「いや、おなごじゃ。別嬪さんの背の高い人でのぉ~。やっぱし足のサイズが大きゅうて、夢じゃったそうなぁ。あの店。」
「へえ~、ゴンちゃんの元カノさん?」
「ちゃうちゃう!迫ろうもんなら、エルボーが飛んでくるわ!ハハハハハ」
「女の人もおる団体じゃったんじゃねえ~。何人かと付きおうたりしたん?」
「いや、仲間内では付き合わん。付きおうちゃ~イケんし、抜け駆けすりゃ喧嘩の元じゃし、本気だしゃ~死人も出るかもしれんけぇ、、、
 みんな、決まりは守りょった。……外じゃ、絶対、喧嘩しちゃいけんし、手を出しちゃ即、刑務所行きじゃけぇ。」
「刑務所行き?」
「おお、ボクシングも空手もプロレスも、存在自体が凶器みたいなもんじゃしのぉ~」
「へえ~、大変なんじゃねぇ~。」

年末年始、それぞれの実家に戻り家族と過ごす。
【来年の年末年始は、ゴンちゃんと一緒に過ごせりゃあ、ええねぇ~、、、向うへ行こうか、、、こっちに来て貰おうか、、、来て貰う方が楽じゃねえ~。】
村上と、今年には一緒になれれば良いなと、一人妄想しながらほくそ笑む雅恵。そこへ、、
「雅恵、3月にゃ うて貰えるそうなけぇ、写真、取りに行ってきんさい!」お見合い話が着たと、突然の祖母からの指示。
「え~、、、面倒臭ぁ~、、、」と言いながらも、何回かはお見合いをした上で、嫁に行くと言わないと、祖母は納得しないだろうなと思う雅恵。
それに、嫁に行くと言っても、村上が一緒になろうと言ってくれないと、叶わない夢になる。
【……うちから言った方がえかろうかねぇ~、、、ゴンちゃんからゆうてくれるの待った方がええかねぇ~】
「……はぁ~、、、」さっきまでの嬉しい妄想から、一気に不安になる。最近どうも、感情の揺れ動きが激しくなってきている気がする。

「……はぁ~、、、」 三次みよしの写真屋へ出向く。「お見合い写真を、、、」と頼む。
色々と羽織ってみて、色合いを見る。赤基調の派手な物、黄色やオレンジの若く見えそうな物。青や紫の落ち着いた物。
だんだんと気分が高まり、結構楽しんできている自分に笑う。
もうすぐ30になる雅恵。赤や黄色、オレンジは「やっぱ、、、ちょっとね、、、」で、青や紫系統の物にした。
立ち姿、椅子に座った物を色紙2枚の写真にして貰う。来週にでも取りに来ると伝えた。携帯にもデータを転送して貰った。
【ゴンちゃんには、内緒にしとかんといけんねえ、、、ん、わざと見せて焦らすのも手よねぇ、、、ゴンちゃん、焦るタイプかねぇ、、、諦めたりして、、、そりゃイケんっ!やっぱり、黙っとこっ!】
「……はぁ~、、、」


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