広島協奏曲 VOL.3 もののふの妻 (14) ボランティア
ボランティア
暑い夏の日が、近づいてきた。
12年前の7月に起きた、広島集中豪雨。祖父は見つかっていない。
毎年の様に、日本のどこかで大規模水害が起きている。
被害が大きくならないうちに、避難する人も増えて来た。
起きそうもないところで、被害が発生する事もある。
自衛隊への派遣要請も、最近は早く出る。
最近由里亜は、ニュースで「自衛隊へ派遣要請があり、明日からの捜索活動にあたります。」と聞けば、
【山形さん、、、今年も何処かへ出動しとるんかな、、、】と思う。
見た目より年長に見えて、肥満気味で、背も高く無く、イケメンじゃなくて、真面目で、気も弱そうで、、、、何一つ良いところが見当たらない。
会いたいかと言えば、そうでもない。会いたくないのかと言えば、そんな事は無い。
好きになった訳じゃない。惚れている事もない。そんな気持ちになる前に居なくなった。連絡先も交換していない。
【もういっぺん、会えたらええね、、、会うたら何ゆう訳じゃなぁが、、、ちょっと気になるし、、、それだけなんじゃが、、、
どっかで災害が起きて、ボランティアとか募集するんじゃったら、行ってみようかねぇ、、、不純な動機じゃね、、、言わにゃ分からんし。】
九州北部で長時間にわたる豪雨で河川決壊、土石流発生の大規模水害が起きた。
先ずは消防隊、レスキュー隊が出動。近隣各県からも出動。自衛隊への出動要請あり。
ボランティア募集は、一週間後開始らしい。それでも同県内からの募集。
【行ってみたいのぉ~、、、、あ、お母ちゃん、、、今、九州の博多じゃった。】
母親に電話した。
「お母ちゃん、うち、ボランティアに行く。住所貸して。」
「はあ?何言ようるん、あんた、、、被災地に行くんね?貸しちゃってもええが、、、」
住民票は移していないが、母親と同居中。という事にして、被災地の役場へ行った。
高校の体育館と、少子化で生徒数減少の為使用しなくなった旧校舎の教室が、避難場所になっている。
救援物資の受け付けと仕分け、近隣避難場所への物資輸送の調整を行った。
近くに自衛隊も来ている。中学校の体育館で、寝泊りしているらしい。床の上に服を着たまま、横になるだけ。
【布団とか毛布とか使おても、バチは当たらんじゃろうに、、、】といつも思う。
東京に居た頃の事を思い出した。
通勤で毎朝使う駅のまわりに張られたビラの数々。
『日本に人殺しの練習をする集団は要らない。』、『憲法違反。税金の無駄。存在だけで罪。』
見るたびに、嫌な気持ちになっていた。
時々、駅前でチラシを配り、演説をしている代議士と呼ばれる人と、高齢の男女の集団。
【人に感謝する事、、、忘れちゃイケんようねぇ、、、いざとなったら、頼るくせに、、、】
いつも思っていた。
さすがに被災地ではそんな人たちはおらんよね、、、と思っていたら、、、、居た。
壊れかけた家に、『自衛隊、お断り』の手書きの文字の紙。
そんな家にも、自衛隊の人たちは分け隔てなく、救助の手を差し伸べる。
誰かに何を言われても、職務を遂行するプロフェッショナルな組織。
避難所となっている体育館や校舎のトイレだけでは足りない為、仮設トイレが増設されている。
由里亜、休憩時間として貰った合間に、【そう言えば山形さん、トイレ掃除、しとっちゃったよな~】と思いだしながら、その仮設トイレへ赴いた。
そこに着くと、トイレの一つのドアが空き、自衛隊員のお尻が見えている。
由里亜、そこに近づく。お尻の主が足音に気が付き、顔を由里亜に向けた。
小太りで背のあまり高くない、丸い顔の人がそこに居た。
「あっ!山形さんっ」思わず声が出た。
「あ、はい。山形です、、、、あ、ご利用になられますか?直ぐ、移動します。」
「いえ、違います、、、あの、、、高城です。201X年、広島でお会いした、、、高城由里亜です。」興奮気味だった。
「え、高城さん?、、、え~っと、、、、あ、高校生だった、、、高城さん?、、、思い出しました。あ~、、、そうですか、、、お久しぶりです。どうも。」
「そうです。高校生だった高城です。山形さん、、、お元気でしたか、、、、お変わりなられない様で、、、、」
「いえ、変わりました。」山形は笑いながらそう言うと、ヘルメットを脱いだ。
おでこに汗で張り付いた、細い髪の毛。少し上を見ると、、、、寂しくなった頭の毛。
「あと数年で、完全撤退です。不本意ながら、、、」山形は、ヘルメットを小脇に抱え、右手で敬礼のポーズをした。顔は、笑っている。
「いえ、すんません。そういう意味じゃなかったんですけど、、、、すんません、、、、グ、グフフ、、、キャハ、キャハハハハ。」
もしかすると会えるかもしれないとは考えていたものの、偶然の再会だった。
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