女神 (12) 性同一性障碍
性同一性障碍
それからしばらくして、、、
ある日の夕方の教室、良太の机の横に二人の男子。岡田と谷口だ。
「おい!、お前、なよなよしてんじぇねえよっ。」
「おかまかっ?お前は。」
「男なら、ビシッとせいやっ!」
「いっつも、女子とばっかり喋ってて、俺達の事、変な目で見やがってっ。」
良太はぎゅっと口を閉じて、下を向いている。
雄大がゴミ捨てに行っていた間に始まったらしい。
「お前らっ!、何やってんだっ!」雄大が、俯く良太を見て、思わず大きな声になる。
「うるせえ!、お前には関係ないわっ!」岡田が雄大に向かって怒鳴った。
「良太は俺の親友だっ。関係ない事は無いわい!」
「へっ、お前もこいつのケツ、掘ったんか?気持ち悪っ!」と谷口が言った。
「……なっ、、、何い~、、、、てめぇーっ!。許さんっ!。」谷口の一言で、雄大は切れた。
雄大は谷口に飛び掛かる。谷口が倒れ、その上に馬乗りになる雄大。谷口の襟を両手で掴み、
「良太に謝れっ!……良太は、良太は、、、クラスの女子の誰よりも、女の子らしい女の子だっ!。」
「えっ、」「どういう事?」「私より女の子?」クラスの女子がざわつく。
「てめえらが人間のクズだからだっ!。良太が嫌がるのはクズだからだっ!。
てめえらっ!、良太が人気があるからって、ヤキモチ焼いてるだけじゃねぇーか!。」
雄大が右手で拳を作り、頭の上に振り上げたその時、騒ぎに気が付いた教師がクラスに来た。
「おい!。お前ら、何やってる!」少し、怒気を含んだ声。
「……プロレスごっこですっ!。すいませんっ!。」雄大が、教師に向かって叫んだ。
雄大の鬼気迫る顔と声。教師は雄大をじっとす据えた後、「騒ぐな!、とっと帰れ!」とだけ言い残して去って行く。
雄大が谷口の襟を掴んでいた力を緩めると、雄大を突き放した。
岡田と谷口が鞄を持ち、逃げる様に教室を出て行った。
「……すまん。良太。……約束、破っちまった、、、。」雄大が良太の前に立ち、深々と頭を下げた。
口をつぐんで、キッと睨む良太。しかし、次の瞬間、微笑んだ。
「良いよっ雄大。……ありがと、、、助けてくれて、、、」椅子から立ち上がった時、傍に居た珠美が良太の手を掴んだ。
「行くよっ!、良太。さっ、雄大も。連いておいでっ!」そう言って、珠美は良太を引っ張ったまま教室を出た。
「お、お、おい。珠美、どこ行くの?、、、」雄大が先を行く珠美に聞いた。
「良いからっ!黙って連いてきなさいっ!」
職員室の扉の前に来た。引き戸をコンコンと叩き、「2年の 副島です。入ります!」引き戸を開け、入室する。良太の腕は引っ張ったままで。
「佐伯先生いますか?」と言いながら、佐伯の机のところまで行った。
「何?、どうしたの?」佐伯は20代後半の女性教師、2年生の担任である。
「佐伯先生、相談があります。……ここではちょっと、、、場所、ありますか?」珠美が佐伯に場所の提供を頼む。
「分かったわ、、、、こっち、いらっしゃい。」と職員室から廊下に出る。3人、後に従う。
音楽室に来た。引き戸を開け、蛍光灯のスイッチを入れる。誰も居ない。佐伯は公民と音楽2教科の掛け持ちをしている。
ピアノの近くまで来て、佐伯が振り返る。
「ここなら、話せる?。副島さん。…で、何かしら、、、。」
「はい。ありがとうございます。……関口君の事です。」珠美が良太の背中に手を回し、良太を一歩前に押し出した。
「関口君がどうしたの?」
「……性同一性障碍って、知ってますか?」珠美、いきなりのストレート。
「うん。知ってるわよ。……関口君が、それだと、、、。で、どうなの?関口君。」
「……はい。」良太、弱弱しく返事をした後、頷く。
「そう。……判ったわ。……じゃ、こうしたらどうかな?」
「へっ?。……先生、いきなりですか?」珠美が驚いた様に聞き返す。
「まずは制服。卒業まで男子生徒用の学生服で良いかしら?。女子用のセーラー服が良い?」
「……学生服で、、、」と良太。
「トイレは職員室の横のお客様用の多目的トイレを使いなさい。」「……はい。」
「体育の授業は、嫌な種目の時は見学としなさい。水泳とかね、柔道とかね。あ、体操服は男子用でいいのかな?、女子用にする?
着替えは多目的トイレを使いなさい。脱いだ服を入れる籠と、着替え用の台を準備するわ。」
「……はい。でも男子用のままで、、、すみません。ありがとうございます。でも、どうして、、、」
「入学した頃からそうじゃないかと思ってたのよ。で、担任になった今年から、校長先生と教頭先生、体育の矢神先生と相談してたの。」
「……佐伯先生、凄いっ!。判ってたんですか?」
「まあね~。関口君目立つからね。頭も良いし、背は高いし、いい男だし、、、もとい、可愛い子だし、、、。うふっ。
でも、性同一性障碍って言葉は使いたくないの。障碍ってとこ、嫌いだから、、、何か無いかしらねぇ~?」
「……ジェンダーって駄目ですか?」珠美が提案。
「う~ん。……性別かぁ~。フリーでもないし、、、ノンでもないし、、、トランスはまだしてないし、、、あやふやのままでいいかなぁ~」
雄大は、なにがなんだか判らないまま、立っている。みんな、凄い建設的な話をしている。【なんか、スゲー、、、】
「取り合えず、ジェンダーって言う事にしようか。ちょっと調べとくわ。」
良太の顔が、明るく微笑んでいる様に見えた。嬉しそうだ。雄大はホッとした。
「先生、ありがとうございます。」良太が頭を下げた。頭を上げて佐伯先生の顔を見て、ニッコリとした。
「そう、その笑顔よ、関口君。関口君の笑顔は全てを解決する魔法を持ってるわっ。」佐伯も良太のファンらしい。
【そうだよなぁ。良太は持ってるよな。魔法。】雄大、納得。
次の日からも、昨日までと変わらない学校生活が続いた。担任の佐伯からの発表も、特に無かった。
女子生徒の大半は、良太の事を薄々気付いていた様だ。男子は驚いたそぶりを見せず、平静を装っているだけなのかも知れない。
強いてあげれば、女子の間だけであるが良太の奪い合いが増えたくらいだ。
恋バナや歌、ダンスの話。アイドルグループや映画、アニメの話。運動クラブの男子で誰が好みかの話。などなど。
【良かった。良太の居場所は確保出来た、、、。あの二人も女子に嫌われたくないからか、良太に優しくなってきたし、、、大丈夫だ。】
後で聞いた話、良太を 揶揄 うと雄大にボコられる。とクラスみんなの認識になったらしい。
そう言えば野球部の巧から良太は告られていた。
付き合って欲しい。卒業までマネージャーを辞めないで欲しい。高校も行くところ一緒が良いな。と言われたらしい。
良太は『マネージャーは辞めない。巧君は野球が出来る所へ行って、、、、遠くからでも応援するから。』と、、、結局、断ったらしい。