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君の耳には、僕はなれない 2

 パンケーキ 一目惚れ

 本屋で車雑誌を立ち読みした後、駐車場へ向かう将太。
モール内の、とあるお店の前で立っている女の子が居た。さっきのゲーセンの女の子だ。
手にはさっきのぬいぐるみの入った大きな袋と、GUと書かれた袋を持っていた。
【なんだ?、お店の前に突っ立って。入れば良いのに。】
近づくと、そのお店は『幸福のパンケーキ屋』だった。
【去年、お袋と妹を連れてきたとこだ。……あっ、どう注文して良いか判んないのか。店員さんが言う事、聞こえないから、、、】
更に近づき、女の子の方を”ポンっ”と叩く。
ビクっッとして振り返る少女。”あっ!”と言う目をして、すぐに表情が緩んだのが判った。
将太は右手の人差し指で店の方を差し、前後に動かし、うん、うんと頷いてみせた。
女の子の左手の肘の辺りをを掴むと、入口まで進み中に入る。
「いらっしゃいませ!。お名前をお書きの上、しばらくお待ちください!」と店員の声。
将太が紙に”アラカワ 、 2 ”と書き、待合の椅子に座る。女の子は入口に入ったすぐの所で周りをキョロキョロしながら立っている。
将太はようやく女の子と目が合ったところで手招きをして、隣の椅子を手でポンポンと叩き、大きく頷いた。
女の子はキョロキョロしながら、椅子に座った。
将太は携帯を取出し、メモ帳へ入力した、”ここ、はじめて”を見せた。
女の子はうんと頷く。
”おれ、まえにきた”
”おすすめ フルーツ チョコもいい”
”おかん いもうと つれてきた”
と立て続けに入力し、見せた。
女の子は困ったような、申し訳ない様な上目遣い(多分そんな雰囲気)で将太を見た。
そして、おもむろにバッグから携帯を取出し、何か入力後、将太に見せた。
”ライントークで話しませんか”
「あ~。その手があったか!」将太は思わず声を出して言った。
それぞれ、QRコード画面を呼び出し、友達登録。
「アラカワ様、2名様、お待たせしました。ご案内します~。」店員が呼び出しに来た。
促され、奥のテーブルに着く。水の入ったグラスとメニューが置かれた。
「ご注文がお決まりになられましたら、お呼びください」と一礼して去る。

”なまえきいていい”
”新川愛美 まなみです”
”おれは 荒川将太 しょうた”初めて漢字登場。
”年齢 いくつですか”
”31”
”若く見えます”
”ガキにみえるか”意地悪そうに将太が顔を作る。
”ごめんなさい そうゆうのではないです”怒らせたのではないかと不安な愛美。
”うそ ごめん ありがとう”将太、すぐに精一杯の笑顔。

しばしメニューを見た後、女の子はフルーツ盛り合わせの写真を指差した。
将太は頷き、店員を「すいません~!」と手を挙げて呼んだ。
「チョコとフルーツ盛り合わせを一つずつ。」将太が伝える。
「お飲み物は何になさいますか?」と聞かれ、将太は女の子にメニューのドリンク欄を指さして見せた。
女の子はそこまで考えていなかったらしく、目でメニューを追う。
暫くして、コーラの辺りを指さした。
「じゃ、コーラ二つ。」
「畏まりました。パンケーキのフルーツ盛り合わせとチョコ、一つずつ。あとコーラですね」
「ハイ。」将太が返事をする。

”先ほどはありがとうございました このぬいぐるみ”愛美、まずはお礼から。
”おやすいごようで おうえんのおれい”
”将太さん ゲーセン よく行かれますか”愛美からライントークで聞いてきた
”たまに”
”景品 部屋に沢山ありそうですね”
”ない リサイクルショップ わたしてる”
”勿体無いですね”
”そうか”
”私は部屋に飾ってます”
”いっぱい へやじゅう”
”いえ 5個くらいです あまり行かないので”
”なんで”
”お小遣い 少ないし”
”ばいとは”
”アルバイト 出来ないので”
【あっ、そうか】将太、悪い話の流れに シマッタと思った。
”ごめん わるいこときいた”

飲み物が運ばれてきた。コーラ二つ。
女の子はそのコーラと将太の顔とを交互に幾度となく見ている。
「あれっ、コーラじゃ無かったの?」将太が声にして聞いた。
マスク越しに口が動いたのを見て女の子が首を横に振った。
将太はライントークで、
”コーラじゃなかった?”
”良いです コーラで  ”
(あれ、間違えたか。)メニューを確認すると”コーラ”のすぐ上に”カルピス”。
”カルピスだった?”
女の子は首を二、三回横に振った後、縦に一回。
”ごめん。もういちどたのんでみる”
店員を呼ぼうとして顔を横に向けた時、将太の右手を女の子が握って来た。
何かと思い女の子を見ると再度、首を二、三回横に振った後、縦に一回。そして微笑む。目だけ見ても判る位に。

”だいがくせい”
”いえ、高校卒業したところです”
”しんがく”
”就職です”
”どこへ”
”工業団地のアストラです”
”なにつくってる”
”医療機器だそうです”
”そこでなにするの”
”まだわかりません”
(そりゃそうだ。まだ行ってねぇよ)将太、苦笑い。
”荒川さんは何されてるんですか” 
”じどうしゃのせいび こくどうぞいのトミタ”
”もう長いんですか”
”11ねん  たんだいそつぎょうしてずっと”
”給料 たくさんもらってますか”
”うん けっこう ざんぎょうもおおいけど”
”いくら位か聞いていいですか”
”30まんくらい きみは”
”手取りで 12万て聞きました 半分ですね”
”そんなもんかな”

「お待たせいたしました。チョコのお客様は?」パンケーキが運ばれてきた。将太は手を軽く上げ、チョコパンケーキを置いて貰う
「こちらがフルーツ盛り合わせでございます。以上でお揃いでしょうか」将太が頷き、店員は一礼して下がって行った。

”さ たべよう”
”はい。”

マスクを外し、フォークとナイフを持つ愛美を見て、将太は息を飲んだ。固まった。
【……可愛い。……誰かに似てる。……あっ!、貴島明日香だっ!化粧っけの無い貴島明日香だっ!】
毎朝、朝の情報番組で見るお天気キャスターである。
何年か前のハロウィン仮装の貴島明日香を見て以来、将太は毎日欠かさず見る様にしている。
愛美が凝視している将太に気付き、上目遣いで首を傾げた。
【……可愛い。可愛すぎる、、、。】
我に返り、自分のパンケーキをナイフで切り、フォークで口まで運ぶ。
マスクにパンケーキとフォークが刺さった。パンケーキの切れ端がテーブルに落ちた。
何が起こったのか、理解できるまで暫く時間が掛かった。
それを見て愛美が下を向き、必死に笑いを堪えている。
将太も声が出ない様に笑い始めた。二人して肩で笑っている。ひとしきり笑った後、将太はマスクを外す。
愛美がテーブルにある紙ナプキンで落ちたパンケーキを包み、テーブルの端へ置いた。
将太は、顔の前で手の平を立てて”ごめん”のつもりのポーズ。
愛美は笑顔でコクリ。
【……可愛い。可愛すぎる、、、。】一目ぼれした様だ。




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