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広島協奏曲 VOL.1 竜宮城からのお持ち帰り (16)

  (16) 大航海

10月、むかわり(一周忌)の法要。
健太も呼ばれた。親戚の前で紹介された。
「お~、あんたかっ?港の中心で愛を叫んどったんはっ!」おじさんがニコニコしながら、健太を眺める。
「え~っ、誰か聞いとったん?」幸恵、口をおさえて恥ずかしがる。
「フェリーに乗っとる新ちゃんがのぉ、よ~聞こえたでぇ~ちゅうてよったで(良く聞こえたよと言っていた)。」
「あ~、、、恥ずかしいわあ~」幸恵、顔を赤くする。
健太、微妙な笑み。

法事も終わり、夕方の片づけの最中、台所での会話。
「お母ちゃん、今日は健太さんとこ泊って、明日東京へ帰るけんっ!」
「そうかあ~。気ィつけて帰りいや。」
健太は縁側で、兄と兄嫁と談笑中。
「来年には、こっち帰ろうか思ようるけぇ~、、、健太さんとこになるけど。」
「そうかっ!来年には一緒になるんかっ!、、、3年の法事が親戚披露か?」
「披露は今日、したがね、、、」
「今日は顔見せじゃけぇ、、、結婚の報告よぉ~」
「そうなりゃ、ええけどねっ!」
「なるなるっ!、、、離しちゃいけんよっ」
「うん、、、、でへへへへっ。」

健太のアパートへ向かう車の中。
「来年にはこっち帰るけん。うちも住まわして、健太さんとこ。」
「ええよ。、、、狭いかもしれんけぇ、新しいとこ探そうか?」
「ううん、探すんはお店を探したい。三原市内で。」
「うん、分かった。物件、わしも当たっとく。写真、メールで送ってみょーか?。帰ってから一緒に探すか?」
「う~ん、分からん。おいおい考える。」
「うん。」

「ねえ、健太さん。これからよろしゅうお願いしますね。」
「こっちこそ、よろしゅうお願いします。幸恵さん。」
「えへへへへっ、いっぱいスキスキしょうねっ。いっぱい喧嘩もしょうね。」
「喧嘩は無理よぉ~。わし、負けるけぇ~、、、」
「それで、ええんよねっ!勝とう思うたらイケんっ!」
「そりゃそうでしたねぇ~。」
「あんねぇ~、、、一つ、これゆうたら堪《こら》えんもんがある、、、ゆうたら別れるけぇ。」
「何?」
「前の仕事の事、、、あんな仕事しょったけえとか、喧嘩した時、ゆうたら堪《こら》えんっ!」
「……そりゃ、心配要らん。……絶対に言わん。言う訳無いがねぇ~、、、」
「……ホンマ?」
「うん、、、、幸恵さんに出会えたのはおこぜさんのお陰。竜宮城に居ってくれたけぇじゃ、、、
 ……おこぜさんはもうおらん、、、目の前にゃ幸恵さんがおる、、、感謝しか無あでぇ。感謝しか。わし、、、。」
「……」
「竜宮城から持って帰ったのは、玉手箱じゃのうて、乙姫様じゃった。女神様じゃった、、、、、、大事にします。」
「……グ、、、ガハハ、、、ガハハハハハ、、、もうっ!」幸恵の嬉しそうな、恥ずかしそうな顔。
幸恵、助手席から健太の左肩から腕にかけてバシバシと叩く。
「イっ、痛いがねぇ~、、、」健太の嬉しそうな、痛そうな顔。

古代、地中海辺りで航海していた帆船には、女性が乗っていたらしい。
男ばっかりの船の中に、女性が一人。さぞかし危ないだろうと思いきや、秩序は保たれていたそうだ。
抜け駆けすれば、命が無いからか?女性も同様か?
日本の古代、大木を刳り抜いた刳り舟で大海原を渡る時、一番大切なのは天候の予測。
海が時化れば、命は無い。嵐が来るのが前もって判れば、出航しない。

「秩序を守る。」は変化を見る、気付く。最悪に成りはしないかと心配し、トラブルにならない様に行動すれば、秩序は守れる。
「天候の変化を予測する。」も変化を見る。天候の変化を経験から読む。肌や体調から風や空気の変化に気付く。
そう、女がパートナーの浮気に気付くのも、ちょっとした変化、理由や言い訳の増加、見ていない時の笑み、時々気にする携帯画面から。
女は、風や雨を見て、潮待ち、天候待ちの男たちを宥《なだ》め、出航可能となれば、檄を飛ばし、男たちを見送り、帰りを待つ。また会える事を祈りながら。
男たちは、ここだと思う時に最大の力を出し、命懸けで女の期待に応えようとする。

男にとって女とは、崇《あが》め奉《たてまつ》る神である。


いつの時代からか、男が神の如くふるまう様になったが、それはお釈迦様の手の平の中の孫悟空だと言う事を、忘れてはならない。



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