女神 (17) 軟禁
軟禁
3月、学校を卒業し就職を待つ雄大に、良太からメールが携帯に届く。
「助けて
高田馬場 光ビル まごころリースファイナンス 事務所」
【……何だっ?、、、良太が、、、良太が、、、危ないっ!】
携帯の検索機能で”まごころリースファイナンス”をググった。
東京都指定広域暴力団 一心会 の文字が目に飛び込む。
【やばいっ!、、、助けなきゃ、、、良太を助けなきゃ、、、】
電車を乗り継ぎ、目的のビルに辿り着く。事務所はビルの6階。エレベーターに乗る。
エレベーターを降りると、すぐ前のガラス戸に”まごころリース&ファイナンス”の文字。ドアノブを引き、開ける。
「……すいませんっ! 杏樹を迎えに来ましたっ!、、、すいませんっ!」敢えて良太と呼ばず杏樹と言った。
杏樹とは良太のお店での源氏名である。
化粧が濃く茶髪の受付の女の人が、訝し気 に俺を一瞥した後、奥の濃い茶色のドアへ向かい、ノックした。
「お客様がおいでです。」
ドアが開き、如何にもと言う風体の若い男が覗いた。振り返りその部屋を一回見た後、手招きをした。俺はちょっとビビりながらも男の方へ向かう。
中に入ると、中央のソファーに良太が居た。
「杏樹っ!、帰ろうっ!迎えに来たっ!」良太は恐怖と寂しさの中に少し安堵の入り混じった表情をしていたが、雄大の顔を見て助けを求める顔になった。
「誰だっ!てめえ~。」「何の用事だぁ!」「、、、まあまあ、要件を聞こうじゃねえか、、、」そんな言葉が響いていた。
「あんちゃん。何しに来た?」室内には3人のやくざ風の男。一番年長と思われる男が雄大に聞いてきた。
「……すいませんっ! 杏樹を返してください、、、。お願いします。お願いします。」雄大、頭を深々と下げて頼んだ。
「はい、そうですかって帰す訳にゃいかねえんだよ、あんちゃん。……別にこいつをどうこうしねえから安心しろ。
兄貴が帰ってくれば、話が付くから待ってろっ!」
「でも、、、杏樹は今日、お店が、、、俺が代わりになりますから、、、」
「バカか、てめえ~。おめえが居ても話になんねえよっ!」
「……すみません。お願いします。この通りです。……お願いします、杏樹を返してください。この通りです。」
雄大、突然その場に正座し、頭を床に着けながら懇願した。何度も、何度も。
「……雄大、、、」杏樹が今にも泣きそうな声で、ソファーから立ち上がり、駆け寄ろうとした。
「おめえは座ってろっ!」男の一人が良太の両肩を押し、ソファーへ倒れ込ませた。
「あっ、杏樹は、、、杏樹だけは、、、お願いします。乱暴にしないでください、、、。お願いします。」雄大、頭を床に着けて更に懇願。
「おうおう、ヒロインを助けに来たヒーローだねぇ~。あんちゃん、カッコいいねぇ~」一人が雄大の頭を靴で踏みつける。
「ヒーローならヒーローらしく、かかって来んかいっ!」一人が大声を出しながら、雄大の脇腹を蹴って来た。
”ドスッ ”と言う鈍い音と「ゥ、、、グゥ~、、、」と言う雄大のうめき声。
「あぁ~雄大っ!、、、止めてくださいっ!」良太が叫ぶ。
その時、ドアの向こうで「お疲れ様でした!」「お帰りなさいませ!」の声がした。
ドアが開いて、大柄な中年の男性が入って来た。落ち着いた雰囲気の紳士。左頬に真っ直ぐな傷。
「あれっ、騒がしいねぇ~。何かあったの?」落ち着き払った声。
「おやっ、杏樹ちゃんじゃないの、、、。どうしたの?こんな所に来ちゃって、、、」
「お帰りなさいませっ!兄貴っ!」部屋の中に居た若い男達3人の挨拶。
「……あれ、この人は?だあれ?何で座ってんの?.」
「……柳東さんっ、お願いです。帰して下さい、、、あたしと雄大を、、、」良太が兄貴と呼ばれる人に、頼んだ。涙目になりながら。
「……う~ん、、、どういう事かな~?、、、説明してくれるかな?悠一君。」
「はい。兄貴が杏樹さんを是非とも引き抜きたいと仰っていたもんですから、今日、お越し頂きました。」
「あ~、その話ね、、、でもさあ、あの話は決着したのよ。店ごと買い取る事で、、、今、話を着けてきた所なのよ、、、
はあ~、早合点したのね~、、、悠一君は。待てって言ってなかったっけ?」
「す、す、すんませんっ!……早い方が良いと思いまして、、、」
「言ってたよね~。お店と話してくるって、、、。それにさあ、この娘、まだ未成年だしさ、犯罪だよ、連れてきちゃうと。判る?未成年者略取。」
柳東さんと呼ばれる大柄な男が、悠一と呼ばれる男に近づきながら言う。
”ゴンっ”と言う鈍い音。その後”バタっ”と言う音。「う~ん、、、」悠一と呼ばれる男が顔を抑えて床に 蹲 った。
「杏樹ちゃん、ゴメンねぇ、迷惑かけちゃったなぁ、、、あんちゃん、立って。送っていくからさぁ。」
雄大が立ち上がり、良太が雄大に駆け寄る。部屋を出ていく柳東さんの後を二人して付いて行く。