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広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (15)

 なんじゃこりゃ

3月、春分の日。お見合い相手と会う。
45歳。小太りの放射線技師。安芸高田市の病院勤務。身長は雅恵と同じくらい。雅恵の履く靴により、雅恵より低くなる。
「イヒヒヒヒっ」自分で言った事に、続けて時々笑う声が、雅恵は受け付けられなかった。
話している最後の方で、その放射線技師は、、、
「自分、風俗が趣味です。婿養子になった際には、風俗通いは認めてください。イヒヒヒヒっ」
【……あり得へん、、、ダメだこりゃ、、、】
速攻、遠慮の申し出を行う。仲人の方へは正直に風俗通いの件を伝えた。
『それぐらい、我慢せにゃ来ては無いよぉ~、、、婿養子でもええゆう人はほんまっ、おらんのんじゃけぇ』と言われた。
「はい、すみません、、、また、お願いします。」
【好かんもんは好かんのっ!】

5月下旬、二人目の人と会う。
26歳。年下である。タクシーの運転手と朝夕の小学校のスクールバスの運転をしている人。
歯並びが悪い。口が閉じる事が出来ていない。自分の意見がはっきりしない。「ま、どっちでも良いっす」ばっかり言う。
雅恵より身長が低い。「気にしてないっすよ。」
【うちの方が気にするし、、、】
漢字が読めない。自分の携帯画面を見せ「この字、なんて読むんすか」「まひ」「気になってる曲、この字だったもんすから、、、」
【……今、要る?そのワード、、、こりゃ、無いわ。】
相手から、気に入ったのでお付き合いしたいとの申し出があったと連絡が来た。
「ごめんなさい。年齢が、、、」
「自分の好みを言いよったら、纏まる話も纏まらん様になるよ。も~、、、」と仲人の人に言われた。

雅恵がお見合いをしている事は、村上には話していない。母親が亡くなり、父親の農作業の補助や家事をする為に頻繁に帰っていたし、村上も雅恵の事を詮索はしない。


そんな折、村上は新しい夏用の下着を買いにフジグラン尾道へ来た。
必要なものを買い、帰ろうとした時、行竹明子と会った。
「あ、ゴンちゃんっ!ひさしぶりじゃねえ~」
「おお~、明子さん。久しぶり。」
「雅恵と 上手いしこ、いきょおる(上手く行ってる)?」
「ああ、仲良うしてもろうとるで。」
「ふ~ん、、、えかったねぇ、、、へでもウカウカしょうると、誰かに取られるよ、雅恵。」
「いや~、ウカウカはしょうらんが、、、そうよのお~、ハッキリせにゃいけんようの~」村上、照れ臭そうに、苦笑い。
【やっぱり、、、見合いの話はゴンちゃんには言えとらんよねぇ、、、言うたら、ゴンちゃんは身を引きそうなタイプかも知れんねぇ~、、、】
「ちょっと、マクドでお茶しょっ。」明子は、雅恵と村上の今の状況を察した。そして村上の腕を掴み、半ば強引にファーストフード店へ入る。

「あんねぇ~、雅恵の事、どこまで聞いとる?」
「どこまでゆうて?」
「一人娘じゃ言うのは聞いとる?」
「うん、聞いた、、、実家は今、お祖母さんとお父さんがおるゆうて、、、」
「そのお父さん、婿養子さんなんよ。聞いとる?」
「いや、聞いとらん、、、初耳じゃ、、、」
「雅恵んとこ、3代続いて婿取りなんよ。お祖母さん、お母さん、雅恵と。」明子、村上に【察してよ。】とでも言いたげに話した。
「はあ~、マーちゃんも婿取りさんかぁ~、、、あ、そうなんか、、、一人娘じゃもんの~、、、」
村上は、分かっているのかいないのか、動じていない。
「ゴンちゃんは長男なん?」明子、動じていない村上の本心を聞き出したくて聞いた。
「いや、三男坊よ。男三人のいっちゃん下。」
「うわ~、丁度ええがあ~。考えてくれてんない?雅恵の婿さん。毛利へ婿入り。」明子、勢いで頼んでみた。
「う~ん、、、そうかあ、、、うん、考えてみるわ、わし。……マーちゃんが一番ええ思う事、選んじゃりたいしの~」
それにしても、村上は動じていない。淡々としている。
「よっしゃ!頼んだ。ゴンちゃん!、、、ええ男じゃ~」
明子は多少の不安はあるものの、今の村上の動じない姿勢に頼もしさを感じ、【ゴンちゃんに任せておけば、大丈夫かも知れんね、、、】と安心した。
「調子ええのお~、、、ガハハハ」
「キャハハハっ」

7月、雅恵、3人目のお見合い。今回は相手に希望により、広島市内のR・R・ホテルで会った。
地方公務員、県の職員、土木課と紹介された。31歳、背の高さは180はある。好青年だとは思う。
まわりから見ると申し分ない様に言われる。雅恵も【もしかしたら、、、】が頭をよぎる。
「婿養子と言っても、毛利さんの家には入りません。」
「戸籍上の姓を毛利にはします。加山の姓のままで行けるところは加山で通します。」
「生活上、人生のリスクは、こちら側にあると考えます。」
「結婚の期間は3年とします。計画的に離婚とします。」
「その間に子供が出来れば、そちらで引き取り育ててください。親権は要求しません。子供が出来なくても、致し方無しとお考えください。」」
「……はあ、、、」
【この人にとって、結婚って何なん?、、、嫁さんを貰う場合は、どう言うん?、、、分からんわぁ~。】その言葉に嫌悪感すら感じた。
仲人の人には、速攻で伝えた。
「あの人って、ああいう人なん?、、、うち、無理じゃ、、、」
「う~ん、、、やっぱりのぉ~、、、でも、雅恵さん、もうおらんど。もう知らんけぇね。」

11月終わりの土曜日、母の三回忌。親戚からは誰も来なかった。祖母と父と雅恵、それに妙心寺さん。
「もうみんな、年じゃけえねえ~。法事より自分の身体が大事なんよ。」お寺さん(妙心寺さん)が先に帰られた後に、雅恵。
「じゃけど、子供らが代わりに来りゃ済む話じゃろうがっ。ホンマ、薄情なもんよの~。」祖母、仕出しのパックをつまみながら、酒を飲みながらの愚痴。
「そう言う時代になったんよ。変わりょうるんよ。親戚努しんせきづとめも本人の意思が尊重されるんかね。」雅恵も仕出しをつまむ。
「変わるなぁええが、変わらず続けにゃイケん事は続けてくれにゃ、、、のう、雅恵。分かっとるんか?」
「ハイ、ハイ。もうええじゃろう、見合いは。あんなんしかおらんのんじゃけぇ。」
「何ようるんじゃ。邦夫さんは、4人目じゃったろうが、、、ありゃ、3人目じゃったかの?、、、まあ、ええ人に会えるまで続けるんでっ!ええか?」
「あ~あ、面倒くさ~。」コップのビールを一気に飲む雅恵。「グェップっ」
「それとも、雅恵っ!自分でこれじゃ言うのを連れて帰って見いやっ!見ちゃるけぇ。」
「……はあ~、、、、」溜息の様な返事で、席を立ち台所へと逃げる雅恵。
「お父ちゃん、カップ麺でも食う?」お酒をちびりちびりと飲んでいる邦夫に、雅恵は台所から声を掛けた。
「おお、食う、食う。良えのう。お義母さんもどうです?」「ああ、貰おう。」「雅恵、3つじゃ~。」「分かった。」

12月に入れば、実家のあたりには雪がちらつき始める。
母が亡くなって丸2年。そろそろ答えを出したい雅恵。
【どういう風に言おうかねぇ、、、ゴンちゃん、、、嫁に貰うてくれてかねぇ、、、時代も、家も、自分も変えて行きたいけぇねえ、、、】


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