アメリカで始めたC向けスタートアップがSnapから出資を受ける
こんにちは、さっそ(@satorusasozaki)です。
世界中の人に使われるプロダクトを作りたい!と日本の大学を卒業後カリフォルニア・サンフランシスコに渡米し、押入れに住んで生活費を抑えたりしながらプロダクト開発していたのですが全然うまくいかない時間が長く続いていました。
そんな中去年、SnapchatやZenlyを運営する米SNS大手のSnapが選ぶスタートアップ10社に日本人として初めて採択されました。出資を受け、3ヶ月のプログラムに取り組む中で、社長のエバン・スピーゲル含め、創業からSnapchatを築き上げたメンバーにアドバイスをもらいながら開発に励みました。
教わったことをひたすら実行し続けたところ、最初は閑古鳥すらいなかったようなところから、毎月2万人以上が174ヶ国から利用するサービスに成長しました。
今日はその過程を以下の3点を中心に振り返りを書いてみたいと思います。
事業以外に乗り越えないといけないハードル多すぎ(アメリカあるある)
Snapとの出会いと3ヶ月のプログラム内容
その後プロダクトがどう変化していったか?
アメリカ発で会社を始めてみる、C向けサービスを始めてみるってどんな感じ?というのを知ってもらって、少しでも多くの人のお役に立てれば嬉しいです。
事業以外のハードシングス多すぎ問題
今年で会社を始めて4年が経ったのですが最初はとにかく、ビザ、高すぎる家賃、治安、コネクション作りなど、事業やプロダクトに直接関係ないハードシングスの嵐でした。順を追って書いていこうと思います。
英語
渡米当初は英語が全く話せなかったので、毎日小さいノートを持ち歩き、筆談していました。
イタリア料理屋さんで食事をしていた時「フォークください」と言ったら赤ワインが出てきたこともありました。
驚きと恥ずかしさで何も言えず、苦手なお酒を飲んだせいで真っ赤になった顔になりながらスプーンでスパゲティを食べる羽目になり、ツルツル滑って食べにくいパスタを口に運びながら「英語、頑張ろう」と心に誓いました。
色々試した中で最も英語力が伸びたのは、1年間住み込みで現地ネイティブの人と会社をやったことでした。
その人のマンションの一室をオフィスにして僕は一角で寝るという生活をしていたのですが、毎回英語力のせいで議論に負けるのが悔しすぎて、夜中にその日理解できなかったフレーズ、言いたいけど言えなかった文章を調べて全部暗記していました。
詳細はこちらにまとめていますのでよければご覧ください。サンフランシスコで創業したスタートアップを解散した話
好きなユーチューバーのCasey NeistatのVlogを毎日書き起こすというのもやっていました。Vlogは日常会話の宝庫なので、シチュエーション毎で使える英語フレーズをたくさん仕入れることができ、10分のVlogを書き起こすのに1時間かかる時もありましたが数年続けた結果、日常会話が飛躍的に伸びました。
高すぎる家賃
とにかく家賃が高いサンフランシスコ。1ルームマンションの家賃が平均で30万というのが普通。
もちろんそんなところに住む余裕なんてないので、友人のマンションについているちょうど布団一枚分が入る広さクローゼットに住まわせてもらっていました。
友人には毎朝4時に寝言で絶叫する習慣があり、ビックリして目が覚めてしまうのでドアを閉めて寝てたら、今度はクローゼット内で酸素が薄くなってしまい酸欠で「ハッ」となって起きるというような日々を過ごしていました。
もちろんオフィス家賃も高いので一番治安の悪い場所に小さいオフィスを借りました。
入居当日に外を歩いていたら刃渡り30cmぐらいあるナイフを振り回してる人がいて、「侍の血が騒ぐぜ...」なんてことにはならず、とんでもないところに来てしまったと身の危険を感じました。
外から聞こえてくる怖い人の怒号が聞こえてくるオフィスで伸びないプロダクトを見て悶々としていました。
就労ビザ
通称投資家・起業家ビザと言われるE2ビザ、簡単にいうと「外貨を使ってアメリカを良くしようとしてる外国人」向けビザの取得を狙っていました。
時は2019年、トランプ元大統領が「メキシコとの国境に壁をブッ立てる!代金は向こうに払わせる!」と高らかに叫んでいる真っ只中で、移民排斥運動のピークでした。
当然ビザ取得のハードルもすごく上がってしまい、審査基準が2倍ぐらい厳しくなっていました。しかも一度却下されると再申請のハードルも上がります。
自分の面接の数日前に申請した友人が審査に落ちたというやばいニュースが届く中、約300ページに渡る書類を移民弁護士の先生と準備して提出し、いざ面接へ。
「E2ビザはとにかく面接での印象が大事、スーツを着て行った方がいい」とのキヨさんからのアドバイスを受け、スーツなんか持ってたっけ…と思いながら成人式で使ったものをタンスの奥から引っ張り出してきて、印象オールインで臨みました。
出てきた面接官がまさかの友人を落とした方で震え上がるも、今後10年分の印象の良さ全てを使い果たす勢いでどんな質問にも笑顔の回答を心がけました。
その結果、準備開始から約1年半かかって期間最長の5年分のE2ビザを取得することができました。キヨさん、カズサくん、移民弁護士の李先生はじめ本当にたくさんの人に助けてもらい取得することができました。本当にありがとうございます。
コネクション作り
でも、やっぱり難しかったのがコネクション作り。
化け物級に優秀な人が世界中から集まってきてるシリコンバレーで、偉業を成し遂げたわけでも、ハーバードなどの有名大を出たわけでも、ソニーのような世界的に有名な企業に勤めていたわけでもない(そもそも会社に勤めたことがない)。
だから新しい人に出会っても「お前誰?」状態。まさにヤンキー界でいうところの「お前どこ中や!」という感じで知り合いも増えないし、情報も集まっていかないので、せっかく渡米してる意味が全然ない。
誰にも相手にしてもらえず、プロダクトもうまくいかず、自分の実力不足を毎日これでもかと言うほどリマインドされる日々が続きました。
しかし、大変なことがあればるほど
「これで大きなプロダクトを作らなければ、本当にアメリカに来てる意味がない」
と決意は固まる一方で、こんだけやっているんだから小さく収まっていては割に合わないという気分でした。
「お前どこ中?」への答え
そんな僕みたいな移民にとっておきなのが、シードアクセラレーター。コネクションはないが気合だけはあるという起業家に必要なリソースを提供してくれる楽園のような場所です。有名なのはY Combinatorで年間500社ぐらい大量に出資するのが特徴です。
いろんなアクセラレーターがある中で、特に思いを馳せていたのがSnap社のYellowアクセラレーターでした。
Snapといえば、10代・20代に絶大な人気を10年以上誇るメッセージアプリで、若干32歳のエバン・スピーゲルが築き上げたNASDAQ上場の10兆円企業(2021年当時)。
SnapのYellowは、そのエバンが「有望なC向けスタートアップをもっと応援したい!」という優しさ全開の理由で2018年に始めたプログラムでした。
SnapやAirbnbなどの会社が世界中の人の生活を変えていくのに感化されて渡米を決めたので、それをゼロから作った人から出資やサポートをしてもらえるなんて夢のような話だなと片思いしていました。
しかし、まさかの1年に10社のみの採択という超狭き門。
やるからには全力でサポートしたいという理由だそうです。
一方こちらはユーザー数も数十人足らずで、応募しても無駄か…と半ば諦めモードでした。
希望の光が差し込む
そんな中、GFRファンド筒井さんから1通のメッセージが来ました。
筒井さんは、先日Nikeにグループ入りしたRTFKTやVRChatなど、今最もアツい会社に出資しているGFRファンドの代表パートナーをやられていて、その傍ら米国で挑戦する日本人起業家への支援もしてくださっている優しさの化身のような方です。
そんな筒井さんから、
「Yellowの代表の人紹介できるけど興味ある?」
とメッセージが。そんなラッキーなことある?!とひっくり返りそうになりましたが、ぜひお願いしますと即答し、代表のMikeとZoomで話しました。超ナイスガイで、「応募頑張ってや〜」と応援してくれました。
その後すぐに背水の陣で猛準備を始めました。
書類審査
1次選考は書類審査だったので応募用紙に渾身の内容を記入しました。結構時間もかけて自信があったのですが、文章が得意なネイティブの友人に見てもらったところ、
「文法もぐちゃぐちゃ、グッとくるものもないし、ロボットが書いたみたい」
と一刀両断されてしまいました。書いては紙に印刷して添削してまた書いて、というのを50回ぐらい繰り返し、締め切りギリギリに提出しました。
推薦枠があったので、筒井さんとmixiの笠原さんにお願いしたところ、二つ返事で快諾していただきました。(すごい人ほど優しいというのは真実)
文字数ギリギリに書いたとのことで確認すると残り2文字の本当に枠いっぱいのレコメンデーションレターが。投資先でもないのにこんなに時間を割いていただいてくれるなんて…と感激しました。
1次面接
書類選考に合格し、面接へ。何を聞かれるか本当に未知数だったので、ひたすら卒業生に連絡してみました。何通か優しい方々から返信をもらうことができ、アドバイスを元に回答を練習しました。
面接練習を、またしても筒井さんに付き合っていただきました。土曜日の朝、オレンジのスポーツウェアを着て来られたので「あぁ、お子さんとのテニスの時間を削って僕なんかの相談に乗ってくれてるのか…」と勝手にまた感激していました。
最終面接
そして1次面接の合格通知とともに最終面接の案内が。今回はSnap本体からもエグゼクティブレベルの人が何人か来るとのこと。
できることは全部やった後だったので、エバンがレポーターに質問攻めにされているインタビュー動画を何度も見て気持ちを高めていきました。若干30歳でどんな質問にも動じず堂々と答える姿には大きく勇気をもらいました。
当日の面接は6対1で、Snapの偉い人から矢継ぎ早に質問され、緊張のプルプルを隠しながらエバンになった気持ちで回答し続けました。
終わった後は少しの間放心状態でしたが、たくさんの人に助けてもらって全力を尽くせたので、無理でも仕方ない、と清々しかったです。
そして2週間後、晴れて合格通知をもらいました。
10社に選んでくれた理由は?と代表に聞いてみたところ、以下の3点が主な理由でした。
さっそが今取り組んでる「孤独」は今後、人類最大の課題の一つになる
日本独自のソリューションが米国でワークする可能性は大いにある
アントワーヌなど、適切な人物を巻き込む力がある
アントワーヌとの出会い
アントワーヌって誰や?って感じだと思いますが、彼は日本でも人気の位置情報SNSのZenlyの創業者で、2017年に400億円超でSnapにグループ入りしました。買収されてからも独立を保ったまま運営されており、Snapとしても非常に稀な事例です。
位置情報が来る、と信じて4年間粛々と開発し続けた後、一気に人気を博したプロダクトで、信じ続けるその忍耐力とプロダクトセンスを以前から超絶リスペクトしていました。
世界中で使われるサービスを作りたかったので、世界中で使われているサービスを実際に作ったことのある人にアドバイスをもらおうと思い、このようなメールをダメ元で送ってみました。
どうせスパムフォルダ行きして返事なんてくるわけがな…、返信が!
しかもめっちゃ長文で超参考になる内容!こんな何処の馬の骨かもわからない人間から謎の英語で来た質問に、彼の貴重な時間を使って返事をくれるってなんて優しいんだ…と感謝しました。
これをきっかけに、困ったことがあるときはアントワーヌに相談させてもらっています。
Snap受けるよって伝えた時は、「オレなんの影響力もないけど、いいプログラムって聞いてるから頑張って!」という感じだったのですが、最後に少し推してくれたようでした。スゴい人ほど優しいは真実(2回目)
応募にあたってお世話になった筒井さん、笠原さん、アントワーヌにはこの場を借りてお礼を申し上げます。特に筒井さん、最初から最後まで本当にありがとうございました。
Yellowでの日々
本来だったらこれからみんなでサンタモニカに集合してSnapのオフィスで切磋琢磨する、はずだったのですが、今期はコロナの影響で完全リモートに。Oh Yayというバーチャルオフィスで開催されることになりました。
同じバッチには、クリエイティブ職向けのLinkedIn、Eギフトカードのプラットフォーム、デジタルヘルスアプリなど様々な会社が採択されており、創業者のバックグラウンドも多様で、ロサンゼルスベースが多く、サンフランシスコが一社(弊社)、ニューヨークが一社という構成でした。
内容は、そんなことまでやってくれるの?!って言うぐらい手厚すぎて驚きの連続でした。盛りだくさんすぎたので、ここでは抜粋してご紹介したいと思います。
元Nikeのプロダクトデザイナーがインターンとして入ってくれる
まず最初に、週20時間実際に業務を手伝ってくれるインターンがSnap本社から来てくれました。
しかもその人が、
マサチューセッツ工科大学でMBA取得中の元Nikeプロダクトデザイナー
というどう考えても自分より遥かに優秀な人でした。しかもドミニカ共和国出身。
理論を熟知している彼が、マーケティングやユーザーインタビューなどの業務を手伝ってくれたおかげで、ずっと手探りでやってきた自分達の業務フローがどんどん改善されていきました。ローランド、ありがとう!
豪華すぎるスペシャルゲスト達
毎週スペシャルゲストが来てくれるのですが、そのゲストがとにかく異色で、全然シリコンバレーっぽくない。
Bruno Marsなど世界的アーティストの楽曲を作っていてグラミー賞を受賞した音楽プロデューサーから学ぶヒットソングの作り方
オリンピック選手でもある元NBAプロバスケットボールプレイヤーから学ぶアスリートと起業家のリーダーシップとメンタルヘルス
Marvelでキャラクターデザインを統括してる凄腕デザイナーから学ぶクリエイティビティの発揮方法
特に印象に残っているのが、グラミー賞を受賞したプロデューサーが
「本当に新しいものはウケない。大事なのは、99%の既存と1%の新しさ」
と教えてくれたことでした。
他にも同じようなことを言ってる人はいて、NFXのパートナーのジェームズは、
「最初のバージョンは真似でいい。改善を重ねるうちに嫌でもオリジナリティが出てきて、バージョン10ぐらいでは全く違ったものが出来上がっているんだから。真似から始めよう」
と言っています。
今までなかったものを作りたい!とオリジナリティや新しさを追求してしまいがちだったので、とても良いアドバイスでした。
「ストーリー」機能を発明した凄腕プロダクトデザイナーからのメンタリング
消える写真から始まり縦型動画、ストーリーなど、社員が5,000人以上になっても革新的な機能を生み出し続けるSnap。
その秘密は、エバン・スピーゲル直属の凄腕プロダクトデザイナーチームにあります。超少数精鋭の選りすぐりチームで、新機能の多くはエバン+このプロダクトデザインチームで秘密裏に開発されるそうです。
そのチームの一員である創業初期からSnapの成長を支えたプロダクトデザイナーがメンタリングをしてくれました。
最も印象的だったのは、彼が
「ユーザーの話は聞くな。創業初期はSnapでも聞いていなかった」
と教えてくれたことで、ユーザーと話してコード書くのがアーリーステージのスタートアップの仕事と思ってたのでこれは目から鱗でした。
その真意は、
ということでした。ちょうど、ユーザーからのフィードバックが増えてきていて、どこまで取り入れるべきなのか悩んでいたので、フィードバックとの付き合い方について見直すことができました。
エバン・スピーゲルのマインドセット
プログラムも中盤に差し掛かり、ついに待ちに待ったエバン・スピーゲルとの1 on 1。与えられた時間は各社30分。
緊張でガッチガチのプルップルでしたが、エバン登場と同時にコファウンダーの山崎が感動のあまり泣いてしまうという突発イベントが発生。それにより場の空気も僕の緊張も一気に和みました。
いろんなことを話してくれましたが、特に心に残ったのが以下の2点でした。
「スタートアップの大部分は不確実性とどう付き合うか。不確実性は考え方次第で味方になる。未来を恐れず今を楽しむのが大事」
「たくさんNoと言うこと。本当にやるべきことに集中するために、それ以外のことにはNoと言ってきた。時間は有限だからね」
これまで、Snapが発明した顔フィルターやストーリーなど新機能をことごとくFacebookに真似されたり、デザインの大規模リニューアルについて激しい批判にさらされている最中でも、エバンは常に毅然とした対応でした。
同世代とは思えない振る舞いやそのプロダクトセンス。遠くからずっと尊敬してきた存在だった人が、今目の前にいてアドバイスをしてくれているというのは何とも不思議な感覚でした。
ちなみに、エバンの一番お気に入りのSnapフィルターは、王道の犬のフィルターだそうです。理由は、Snapが始めて出したARフィルターで思い入れがあるからだそうです。
Demo Day
各スタートアップが一社ずつプレゼンを行うプログラムの集大成で、投資家やスタートアップ関係者数百人が見にきます。
去年までは大きな会場を貸し切って開催されていたのですが、今年はリモート。どうなるのやらと思っていたら、大量のごっつい機材がサンフランシスコの自宅まで送られてきました。
圧倒されすぎて写真を撮るのを忘れてしまったのですが、こんな感じ。クローゼットから引っ越しておいてよかったです。
最終プレゼンは練習に練習を重ねました。渾身のプレゼンをネイティブに披露したところ、サービス名のWaffleの発音がAwful(意味:最悪)に聞こえるというヤバすぎる指摘を受け、発音矯正も猛特訓。
当日は質疑応答も含め、全力を出し尽くしました。僕のパートだけですが、ピッチの様子はこちらからの動画でご覧いただけます。
最後はカクテルパーティーで締める
打ち上げは、Zoom越しにカクテルパーティをしました。カクテルを作るキットが送られてきて、プロのバーテンダーからみんなで作り方を教わりながら楽しみました。(テンションが上がったせいで飲めないテキーラを飲んでしまったので写真は撮り忘れました)
人種も国籍も性別も年齢も全然違う起業家同士が集まって切磋琢磨し合った3ヶ月。バックグラウンドは違うけど、世の中を良くしたいと本気で思っている仲間が集まって、マーケティングの具体的な話をしたり、悩み相談をしたり、お互いにバリューを出せそうなところを見つけて助け合ったり。
とっても新鮮で、プロダクト開発やスタートアップ経営だけでなく、コミュニケーションやリーダーシップ面でも多くを学びました。
また、Snapと言った途端たくさんの人が会ってくれるようになり「お前どこ中や?」問題も解決されました。俺はSnap中や!
プロダクトについて
ここからは、Snapから出資を受けてプログラムに取り組んだ後、プロダクトがどう変わっていったのかを書きたいと思うのですが、その前にプロダクトについてちょっと説明します。
メンタルケアのための交換日記アプリ、Waffleを開発・運営しています。
直接は言いづらいけど、わかって欲しいことを伝える場所となっていて、コミュニケーションツールではあるものの、あえてジャーナルという表現をすることで自分語りが許される空間を作っています。
またコメント機能やいいねなどもなく、限りなくインタラクティブさを排除することで、本音を共有できる心理的安全性を実現しており、「カウンセリングに行くよりも前に、身近な人に自分の気持ちをわかってもらえるだけで救われる人はたくさんいるはず」という仮説を持って取り組んでいます。
ひたすら1次情報ドリブン開発
Snapが終わった後は、学んだことをひたすら実行に移しました。
ー次情報を取りに行く
それを元に開発する
半年間はこの2つのことだけに集中しました。
ユーザーからのフィードバックや利用データなどを1次情報と呼んでいますが、最初の段階ではプロダクト自体よりもこっちの方が全然大事だと思っていたので、いかにその情報集めるかということを考えていました。
まずは利用者が運営側に物申しやすい環境を整えるのが重要だと思い、自分のプライベートの電話番号を実名付きで晒しまくるというのをやりました。
カスタマーサポートっていう得体の知れない存在ではなく、この番号に連絡したらさっそっていう開発者と話せる、と知ってもらえるように工夫したのですが、それが大当たり。じゃんじゃん連絡をもらえるようになりました。
ここをこうしてほしいとか、ここがバグってるとか、こうやって使ってるとか、毎日いろんなユーザーの方からメッセージをもらえるようになりました。ついでに詐欺の電話もじゃんじゃん来るようになりました。
対面や電話などでユーザーインタビューも行っていましたが、毎日ユーザーと何気ないメッセージのやり取りをしている方がわかることもたくさんあるなと感じました。
開発においては、開けてない箱の中身は議論しない、というのを決めていました。健全な議論が大事なのは大前提で、でもやっぱりスタートアップなので、意見や思想ではなく、実際に手を動かすことでしか前進しないというのを忘れたくなかったからです。
とはいえ「とりあえずやってみよう」見切り発車は、全然使われない機能を付けてしまうみたいなスタートアップが死ぬ理由あるあるなので、それを避けるべく、事後対応というのも心がけていました
つまり、「これ今後必要になるかも」でやったことのほとんどが必要にならないので、「本当に必要になってからやる」というのを意識していました。
このようなプロセスを経ながら得たー次情報を元にチーム内で議論して新機能や新施策に繋げるというのをひたすら繰り返していました。
1通のメッセージが
そんな中、インスタDMで一通のメッセージが。
「うちの大学でWaffleが話題になってるから、講演しに来てほしい。」
「コロナで学校がリモートになったせいで学生のメンタルヘルスが危機的状況にあり、友人同士でお互いのメンタルをサポートしたいという学生がWaffleを利用している。デジタルプロダクトとメンタルヘルスについて200人の学生の前で話をしてほしい。」
という内容でした。
しかも、ウェルズリー大学という全米1位の女子大にも選ばれてい超名門大学で、隣にはMITとハーバード大があります。
主体的に人生を良くしていきたいと思っているリテラシーが比較的高めの学生がメンタルケアのために利用し始めているということを知りました。
講演は無事終えることができ、これをきっかけとして東海岸の大学生を中心にユーザーが増えていきました。
アメリカのZ世代とメンタルヘルス
メンタルヘルスというと「うつ病は気合いと根性が足りないせい」「心の弱い人がなる病気」のような偏見がまだ残っていると思います。
でも今のアメリカの若い世代の間では逆に
「メンタルヘルスをケアするのは超クールだし当たり前。ストレスコーピングをうまく行ってより健やかに幸せに生きていきたいし、それがカッコいい」
という価値観が優位になってきています。そして米国国立衛生研究所は、これをエモーショナル・ウェルネスと定義しています。
SNSの普及によって他者との比較を常に強いられる環境、デジタル化の影響でより深まる孤独感、激化する米国内の社会情勢など、強力なストレス要因に晒される中で、自分の心の状態や感じ方に目を向け、ケアしていこうというのはとても自然な流れだと感じています。
突然のダウンロード数5倍
学生ユーザーが増えていく中、ある朝起きたらダウンロード数がいつもの5倍になっていて、何事かと思って飛び起きると友人から連絡が来ていました。
「ストアで特集されてるじゃん!」
US App Storeのトップページで特集されていました。こういうのって、自分から応募して、事前に告知とか来るものだと思ってたので突然で驚いた一方、こんな小さなサービスでもしっかり見てくれているんだとAppleに感動しました。
からの炎上
良かったのは束の間、そんな急激にユーザーが増えたのは今までなかったので、大規模な障害が発生。
通信系のバグで、ユーザーの日記データが全消去された「ように見える」不具合が起き、パニックになったユーザーからクレームが殺到する事態に。アプリストアには、罵倒レビューが大量に投稿され大炎上。
復旧とクレーム対応は1週間ほど続き、一人一人にメッセージを送って謝罪しました。ユーザーとの距離が近かった分、迷惑をかけてしまったという罪悪感に強く苛まれ、再発防止を誓いました。
この事件で、毎日の必需品として使ってくれている利用者がこんなにたくさんいるということを知り、今までのやり方ではいけない、と強く感じるようになりました。
今までのやり方で進化が必要な部分について何週間もかけてチーム内で議論を重ね、開発体制やマインドセットなどをアップデートしました。毎週毎週シビアな議論の連続でしたが、一緒に成長してくれたコファウンダーの山崎には感謝しています。
この時、コファウンダーや創業メンバー選びはその時点での能力値よりも、目まぐるしく変化する状況に合わせて進化していけるか、いかに瞬間最大成長角度を高められるか、という点がはるかに大事だと感じました。
クライアントをもっとサポートしたい!
開発体制がアップデートされ、より安定したサービスを提供できるようになってきた頃に増え始めたのが、認定心理カウンセラーの方々でした。
「月に1回のカウンセリングセッションでは、クライアントが話す内容を忘れてしまったり婉曲して話してしまったりなかなか効率的に行えない。セッションの間のコミュニケーションをWaffleで行うことによってより良いサービスを提供したい」
という理由からでした。その後
心理カウンセラーコミュニティ内で口コミで広まる
カウンセラーが自分のクライアント30~50人と利用する
アプリを気に入ったクライアントがプライベートでも使い始める
という流れが生まれ、ユーザー数の伸びが加速しました。
これにより学生だけでなく大人のユーザーが増え、夫婦関係の改善、子育てや親子関係の構築などに利用し始めるようになり、現在では月間で2万人以上の方に利用していただけるようになりました。
使い方はユーザーが発明する
元々は自分自身、アメリカ生活が長くなる中で日本の友人家族の近況が分かりづらくなってきて、例えば、仲の良かった友人が鬱で仕事を辞めたことを知り、「知っていたら支えてあげられたのに」といったことが嫌で、なんとかしたいと思ったのが始まりでした。
だから最初は一番困ってそうな移民をターゲットにしていました。
ところが蓋を開けてみるとメンタルヘルスへの関心が高い大学生の間で話題になり、心理カウンセラー、夫婦、親子、リモートチームへと広がっていくという全く予想していなかったことが起きました。
よりペインが大きい方に自然と引き寄せられていっていったという実感があり、使い方はユーザーが発明するというのはこういうことなのかなと感じています。
N1のイシューから始めて、一次情報をもとに改善を重ねるフィードバックループを回す中で利用者が増え、ユースケースも増えていくという過程が本当に楽しいです(「N1をイシューを問題を解く」については堀井さんのnoteがすごくわかりやすいです。)
その上、
「Waffleのおかげで落ち込んでいた友人に元気付けの声をかけてあげられた」
「夫婦の離婚の危機を救ってくれた」
「自分の子どもが何を考えてるかやっと理解できた」
「クライアントによりよいサービスを提供できるようになった」
「リモートだけとチームの絆が深まってきた」
というようなお言葉を毎日のようにいただき、本当にやっていて良かったなと日々感じます。
世界観をデザインする楽しさ
使い方はユーザーが発明する。でも、作り手側が世界観をどうデザインするか次第で大きな方向性を決めることができる、ということも学びました。
世界観についてはけんすうさんのnoteがすごくわかりやすいです。
以前、機能はそのままでデザインとキャッチコピーだけ変更して複数アプリを出してみるという実験をしたところ、使われ方も熱量も全く違うという結果になりました。
最もウケが良く熱量高く使ってもらったバージョンが後のWaffleになったのですが、これによって、中身を作り込む前にまずコンセプトと市場が一致しているかというコンセプト・マーケット・フィット(勝手に名付けました)を最小限のコストで確認することができ、大幅に時間を短縮することができました。
この時「世界観のパッケージング・表現方法次第でユーザーの行動を方向付けられる」ことを知り、とてもワクワクしました。
アメリカで始める醍醐味
気がつけば、海外向けのプロモーションなし、対応言語は英語だけにも関わらず、174カ国の人々に利用されるようになっており、「あと20カ国で国連やん!」とチーム全員で沸きました。
たった数万人規模のサービスにも関わらず、アメリカ向けに作っているだけで勝手に海外に広がっていく。
英語のおかげなのか、移民の国のお国柄なのかわからないですが、これこそがこの国でやる醍醐味なのかもしれない!と興奮したのを覚えています。
Snapがくれた自信
これまで自分が取り組んでいる「孤独」という課題ついて疑いを抱いたことは今まで一度もありませんでした。
それでも、今のやり方がベストなのかという点については常に不安で、毎日のように自問自答してしまいます。
先が見えず調子が良くない時「もしかすると今自分は全く意味もない誰の役にも立たないことに取り組んでいるのでは?」と立ち止まってしまうことがありました。
そんな時に「答えは、現場に出てひたすらトライを続けていくことでしか出ない、そのまま走り続けろ」と背中を押してくれたのがSnapでした。貴重な機会を作ってくれたSnapのエバン、アントワーヌ、マイク、アレックスには本当に感謝しています。
時おり「そんなおもちゃ作ってどうするの?」と言われることもありますが、僕やチームのメンバーにとっては、自分たちの作ったものでただただ目の前の人が救われている姿が見えているだけでした。
信じるものの実現に向けてひたすら現場で手を動かし続ける、それが起業家の役割だと思っています。
これから
ここ数年で不安やうつ病を発症する人が急増しています。他者とのコミュニケーションが少なくなったせいで「深い繋がり」を作るのがどんどん難しくなり「孤独」が深刻化したことが大きな原因の一つと言われています。
オンラインカウンセリングや認知行動療法ツールなどが続々と登場していますが、実際に症状が改善されている人はまだまだごくわずかです。
僕たちは、「うん、そうだよね、わかる」と言ってくれる人が身近に一人いるだけで救われる人がたくさんいる、と信じています。
世界中の人々の人間関係のデジタルインフラになり、そうやって救われる人を少しでも増やしたいと思っています。
最後に
縁もゆかりもないアメリカで、世界中で使われるプロダクトを作るだけを夢見て渡米し、会社を作って4年が経ちました。この4年間挑戦し続けられているのは暖かく見守ってサポートしてくださっている投資家の方々のおかげです。
西本さん、テルマさん、行方さん、北尾さん、大湯さん(いつも相談に乗ってもらってありがとうございます!)、平沼さん、堀井さん、金子さん、笠原さん、すがけんさん、亮さん、トミーさん、岩田さん、布田さん、池田さん(グロースのアドバイスすごく勉強になっています!)いつも本当にありがとうございます!
Snap応募の際にお世話になった筒井さん、いつも近くで相談に乗ってもらっているキヨさん、聡くん、ヒロくん、ユースケくん、カズサくん、ライダーにもこの場を借りてお礼をお伝えしたいと思います。
現在日本に一時帰国中ですので、もっと話を聞いてみたいという方、ご連絡ください。資金調達もしていますのでご興味ある方もご連絡いただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
哘崎 悟
@satorusasozaki