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ジム民俗学

こんにちは。あなたの人生のエキストラ、よくいる佐藤です。大胸筋の名前は右之助と権左です。

この記事はゆる民俗学ラジオ・ゆる音楽学ラジオの非公式アドベントカレンダー掲載の記事です。
前の記事はおぼかたともゆきさんで「12/8甥っ子爆誕」
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はじめに

突然だが、あなたの周りには何人のマッチョがいるだろうか?
おそらく大抵の人は0〜3人程度におさまると思われる。

日本のフィットネス参加率はおよそ3%と言われており、その中でもマッチョと呼ばれるような人間は2割にも満たないだろう。

一方、ジムという特殊集落においては日常では見かけない数のマッチョを確認できる。

今回の話はゆる民俗学ラジオを毎週視聴する私がマッチョの習俗を学ぶべくとある集落にてフィールドワークを行った(フェイク)インタビューの記録である。


第1マッチョA氏の話

私「デカいですね」
私は屈強な体に紐のような民族衣装(一般社会でいうタンクトップ)がよく似合うA氏に初めましての挨拶をした

A「はは、ありがとう!お兄さん見ない顔だね」
私「今月からこちらに来ました、佐藤といいます。実はマッチョ達の習俗が知りたくて色々質問させていただいているんです」

A「そうなんだ、変わってるね!まあ僕で答えられることならなんでも聞いてよ!」
A氏は日焼けした肌に真っ白な歯を見せてニコリと笑った

私「では早速伺いたいんですが、マッチョの皆さんは普段どんな食事をされているんですか?過去の報告ではゲンリョー期とゾーリョー期があると聞いたのですが…」

A「食生活か、やっぱりタンパク質にはこだわるね、毎日体重1kgあたり2〜3g摂れるようにプロテインはもちろん、肉や卵、魚をたくさん食べているよ。
減量期は僕の場合4ヶ月くらいなんだけどだいたい3000kcal/日から初めて体重と見た目の変化を見ながら調整していくね。去年の終盤は1日2000kcal切ったからしんどかったよ…増量期は3大栄養素のバランスに気をつけつつ、ストレスがたまらないように好きなだけ食べてるね」
A氏は饒舌に答える。

私「プロテインはやはりマッチョに必要なんですね、皆さん真っ先にプロテインを挙げると聞いています」

A「必ずしも必須ではないけどね、肉や魚で必要量摂るのは大変だしお金もかかる。コスパの面ではプロテインが最高だよ」

私「キロカロリーというのは皆さんどうやって導き出すのでしょう?ゲンリョー期の前になると分かるものなんですか?」

A「うん、カロリーは減量期が始まるときの自分の除脂肪体重とだいたいの活動量から判断するね、最近はアプリなんかで簡単に出せるからオススメだよ!」

私「なるほどなるほど。マッチョ達も現代技術にキャッチアップしているわけですね……。
現代技術というと、筋肉を増やすための薬なんかもあるんでしょうか?」
私がそう言うとA氏は眉をしかめた。

A「そりゃあるだろうけど君、それを僕に聞くのは失礼だよ。僕はナチュラルなんだ。薬についての質問をされるのは不愉快だね」
A氏はタオルを肩にかけて踵を返し、ケーブルジャングルの向こうへと消えていった……。

ケーブルジャングル


第2マッチョB氏の話

私「腕が丸太みたいですね」
B「ハッハッハ、お兄さんうまいこと言うねえ、私みたいなジジイはね、これだけが生き甲斐ですから、若い人には負けられませんよ」
私の初めましての挨拶にB氏はスラスラと答えた。シワの多い顔とは対照的に、捲り上げたTシャツからのぞく筋肉は隆々としている。

私「私佐藤と申します、マッチョな方に色々質問させて頂いているんですが、よろしいですか?」

B「そりゃあなんでも答えますよ、なんせハタチから始めてこの道50年だから、その辺の若い人とはね、年季が違いますよ、なんでも聞いてください」

私「ではぜひ昔のことを伺いたいんですが、こちら(の集落)はいつ頃成立したんでしょうか?」

B「そりゃあもう35年は前になるね、私がここに来た時にオープン5周年だったからね、あの頃は今みたいにいいマシンなんて無くてね、ダンベルとバーベルで頑張っていましたよ、マシンなんかケーブルとか、簡単なものしかなかったんじゃ無いかなあ、なんにせよ情報も少ないもんだから、毎日みんなでああでもないこうでもないとか言いながら必死にやってましたよ、ああいうのも楽しかったね」

私「そうなんですね、マッチョの皆さん達で今のこの場所を築き上げたわけですね。
今の若い世代のマッチョ達との交流もあるんでしょうか?」

B「いやよくぞ聞いてくれましたよ、毎回挨拶してくれる若い人もいるけどね、最近はみんなワイヤレスイヤホンだのヘッドホンだのつけて鏡しか見てない。人と人との交流があってこそのジムでしょうに。このままじゃみんな独りよがりない身体にしかなりませんよ、ええ、大変心配です」

私「そうなんですね……。そうすると断絶してしまう文化なんかもありそうですね。」

B「そうだねえ、昔はお互いのトレーニングを見ながらああでもないこうでもないと言い合ったもんです、そうやってね、お互いがより高みに行けるようにアドバイスし合ったもんですよ、楽しかったなァ」

私「あれ、さっきその話されて……
B「やっぱり最近の若い方はインターネットで知識が手に入るから、良い体してる人は増えたけどね、ジムにいる間はスマホ見たりイヤホンで音楽聴いたりで人の話は聞きやしない、いや挨拶してくれる若い方もいるんだけどね……

その後B氏の話は40分続いた。集落の管理人(ジムスタッフ)が止めるまであまり新しい情報を得ることはできなかったため、上記以降の会話は割愛する。

アドバイスし合う往年のマッチョ達


第3マッチョC氏の話

私「めちゃくちゃ強いですね…」
大きなプレートが左右に4枚ずつ付いているバーベルの横で休憩中のC氏に初めましての挨拶をした。腰に巻いた分厚い革ベルトが鈍く光っている。

C「それほどでもないですよ…自分一応リフターなので」
マッチョはビルダー、リフター、趣味トレーニーの3種類に大別されるそうだが、C氏はリフターのようだ。リフターは人口が少ないので話が聞けるのは僥倖だ。ちなみにA氏はビルダーでB氏は趣味トレーニーと思われる。

私「リフターの方は少数派だと伺いますが元からこちら(の集落)にいらっしゃるんですか?」
C「ええ、まあそうです。自分はボディメイクより重り挙げる方が楽しかったんで」

私「ビルダーの方が比較的多い場所かなと感じるんですが、衝突することなどはありませんか?」

C「まあ、衝突っていうか、休憩長すぎってたまに言われます。でも他のバーベルも空いてるし、なるべくしっかり休んでから次のセット行きたいんですよ」

私「なるほど、逆にビルダーの方への不満とか、文化の違いを感じる瞬間はありますか?」

C「まあ、自分は他の人あんま気にしないんですけど、鏡の前でポージングしたり腹筋出したりするのはちょっとまあ…どうかと思いますね。気まずいの嫌なんで言わないですけど」

私「お互いに相手の文化も受け入れながら上手く暮らしているわけですね」

C「あの、1回トレーニング戻ってもいいですか?」

私「ええ、大丈夫です。お邪魔してすみません」
C氏は床に置かれたバーベルの前に立つと精神を集中するように目を閉じて大きく息を吸いバーを床から持ち上げた。
1回……2回……3回…ガチャン

私「3回だけなんですね、マッチョの習俗を調べていると8回が頻出する印象なのですが」

C「習俗……?……自分は……1発のMAX更新するのが目的なんで……多くて6回くらいですね……」
息を切らしながら答えてくれた。

私「なるほど、筋トレの内容も信仰対象によって変わってくるわけですね…」

C「信仰?まあ目的ですね」

私「最後に、少数派としてこちら(の集落)に望むことなどはありますか?」

C「あの……自分別に少数派としての自覚とか無いんでその感じやめてもらっていいですか?まあジムへの要望でいえばデッドリフト用のプラットフォームがあると嬉しいなってくらいですね」

そう言うとC氏は再び立ち上がりバーベルの前に立った。再び深呼吸しバーを握る様は祈ることとどこか似ていた。彼が欲するプラットフォームはおそらく祭壇のようなものなのだろう。

私に対しては終始無表情な印象ではあったが、重りに対してはは真っ赤な顔に青筋を立てて全身全霊をぶつけている。少数民族である彼もまた、「マッチョ」の一員なのだと痛感した。


デッドリフトonプラットフォーム


その後も私は数多のマッチョに話しかけ、数日にわたるフィールドワークを敢行した。
得られたものを考えれば瑣末なことではあるが、私は「他のお客様のトレーニングを邪魔して回った」として、集落から追放(=出禁)になった。

マッチョへの禁忌語

マッチョ達との会話記録を見返してみると、マッチョに対して不快感を与えてしまう言葉があることが分かった。下記にそれらの言葉と不快感を与える理由を述べる。

何目指してるの?」「鍛えてどうなりたいの?
趣味として鍛えているマッチョには特に嫌がられやすい。しいて言えば人生で最も強く太い筋肉を得ることが目的であるが、上記の質問に馬鹿にされたニュアンスを感じ取る場合が多いため、聞くべきではない。「あなたの趣味には何の意味があるんですか」と逆襲されるケースもある。

薬とか使うの?」「ステロイドやってる?
やっていない場合には非常に失礼とされる質問であり、やっている場合にも正直に答えるケースはほぼ無いため聞くべきではないし、聞いても何も得られない。類似の質問に「プロテインやってる?」があるが、プロテインは栄養補助食品であって薬ではないため「プロテイン何飲んでる?」が望ましい。

脚細くてうらやましい
脚を鍛えているトレーニーにとってはコンプレックスの刺激であり、鍛えていないトレーニーにとってはある種の精神攻撃である。逆に太い人はどんどん褒めた方が良い。

(女性に対して)
デカいですね」「バルク派ですね
ジムに居ると感覚が狂ってしまうが、太いと呼ばれて喜ぶ女性はごく稀である。そもそも女性のビジュアルという繊細な話題に安易に踏み込むべきではない。

(減量中、大会直前のマッチョに対して)
なんか細くなったね
脂肪が落ちると身体は細く見えるもので、マッチョも例外ではない。ただし、皮膚が薄くなることで筋肉はより目立つし、ボディビルにおいても評価される。ここは絞れてきましたねと言うのが正しい。尚、肌が日焼けして痩せたように見えるので病気と思われることもあるようだ。

話しかける際に使える言葉

私のようにむやみやたらに不特定多数のマッチョへ話しかけると集落追放リスクが跳ね上がるが、どうしてもマッチョと仲良くなりたい際は下記の声掛けが有効である。

デカいですね
→タンクトップで筋肉の盛り上がりが見えるマッチョに対して
強いですね
→高重量のトレーニングをしているマッチョに対して
きれいなフォームですね
→安定して洗練された動作でトレーニングしているマッチョに対して
腕か脚か分からないですね
→腕が極太のマッチョに対して
スクワット深いですね
→太ももとふくらはぎがくっつくほど深いスクワットをしているマッチョへ

最後に

今回のフィールドワークを通してマッチョにも様々な信仰、習俗があることが改めて確認された。同じ日本に住む者として、マッチョ達が暮らす環境や彼らの文化を尊重したいものだ。清流にこそ蛍が生きられるように、良いジムにこそマッチョ達は集まるのだから。

おわりに

違うんです、言い訳させてください。
私アドベントカレンダーのノリとか分からなかったんですよ、なんか空いてたからエイヤって名前入れちゃって。

で、ゆる民俗学も音楽学も毎週聞いてるけど私(≒筋肉)と相性良いのは民俗学かなって。

んでせっかくだから筋肉と絡めたいじゃないですか?
でもど素人だから民俗学的にジムや筋肉なんて語れないじゃないですか?
だとしたら嘘つくしかないっすよね?
ってか実際のフィールドワークってどんななんでしょうね?

まあこれでもう5000字オーバーなんですけど、アドベントカレンダーというのを盾に最後まで読んでいただけたなら幸いです。ノリが違うよと思われたらほんっとごめんなさい。正直書いててめっちゃ楽しかったっす。チャオ!

おわり

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