破水から始まった入院
今住んでいる場所は私にとって結婚してからの新しい街で、産休に入ったら里帰り出産をする予定だった。
なので先生から言われた病院候補の中で、地名が含まれた名前の病院しか頭に入ってこなかった。とりあえず頷いた。
「紹介状を書きますので、週明けすぐに行ってください。」
プロポーズを受けたのは私が世界で一番好きな場所、豊島美術館。
静かで厳かで、美しさに救われる場所。
検診で何もなかったら、妊娠している神秘をより感じたくて、身体を浄化させたくて、もう当分、もしかしたら何年も行けなくなるだろうからと日帰り旅行を計画していた。
とりあえず帰って安静にと言われた帰り道にまずは旅行のキャンセルの手続きをした。
安産祈願を両親と神社に行くつもりだったのも無理になったと連絡。
上司にも欠勤の連絡。
年末年始で1週間くらいお休みをいただくし、レシピをメモして自分のノートにまとめようと大量に写真を撮ったところだった。
お腹がもっと大きくなったら動きにくいだろうしとコロナで会えなかった友達と順番に会っていたところだった。
大きな病院への紹介状をもらった帰り道、これは入院?かな…と
心の隅でずっと予感が、たしかにあった。
胸騒ぎと言うよりも静かで、急にやってきた未来に対する覚悟だった。
月曜日、紹介された病院へ。
徒歩15分の距離をタクシーで行った。
コロナで入れるのは自分だけだったので、夫にはロビーで待ってもらう。
結果次第で夫には帰ってもらって、家から入院グッズを持ってきてもらうつもりだった。
たしかに予感はあったけど、確信はなかったので、ほんの少しの衣類だけをまとめていた。土日で夫に家事や家電の使い方を教えていた。
「こちらの検査では破水は陰性ですが、羊水が少ないのは少ないです。
もっと詳しく検査しましょう。入院してください。」
通されたのはMFICU、母体胎児集中治療室だった。
やったー個室だーと思った。
それくらい、実感が湧かずにいいところばかりを見ようとしていた。
コロナ禍で面会は登録者1人、週1、15分。
荷物の受け渡しもその時だけ。
電話とLINEで何とか伝えて、数日暮らしていけるくらいの荷物を持ってきてもらった。
人生で初めての入院。何が必要で便利か、何もわからなかった。
なんで金曜日すぐに緊急搬送にならなかったのか。
大きな病院に行って入院になった月曜日、自分の体が、赤ちゃんがどうなっていて、どういう未来が考えられるのか。だいたいわかった。
4人の産婦人科の先生にこれから毎日交代でじっくり診てもらうことになる。