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パリ五輪ボルダー&リード女子決勝B1課題に思うこと

パリオリンピックに関連して、メディアの変な報道が気になったので、ボルダーに触れてみる。

簡潔に書くと、本人が「技術とパワーが足りなかった。身長のせいにはしない」と言っているものを、外部から「あんたの身長じゃ届かない」「諦めて、もっと届くようにしてもらえ、抗議しろ」と言っているに等しく、一流選手に掛ける言葉ではなく、本人の気持ちを無視して本人の努力を貶める邪悪な意見ということ、そしてそれを報道する意味とは?ということである。

以下、詳細に記していこうと思う。

なお、ボルダーは齧った程度であり、恥ずかしくて段級を語れない程度、リードや岩場は未経験の初心者である。正確性は、紹介ネット情報やご友人の経験者との会話などで補完してほしい。

基礎知識

ボルダリング?ボルダー?

諸外国ではボルダーという呼称が一般的であり、IFSC(国際スポーツクライミング連盟)でもボルダーの呼称が用いられている。それに合わせて国内団体のJMSCAも、2023/02/10に名称変更することとなった。

記事を書いたきっかけ

パリオリンピック決勝ボルダーB1課題が森秋彩氏落としではないかというネットの声を取り上げる記事が出て、それにつられて煽り系Youtuberが騒ぎ出し、さらにはTVまでもがその論調で報じるようになっているので、それに対する私見をまとようと思ったのがきっかけ。

15日、ついに「CAS(スポーツ仲裁裁判所)に申し出るのはいかがでしょうか」という話まで出ているようだ。そういうのは本人の意向を確認してからにしてほしい。まあ本人の意向を確認するということ自体が失礼ではある。「あんたの身長じゃ届かない」「諦めて、もっと届くようにしてもらえ、抗議しろ」と言っているも等しいのだから。

記事

必要最小限の知識:得点システム

以下を押さえておけば、記事やネットの声を理解するうえで必要な、得点システムの理解には足りる。

  • ボルダーとリードそれぞれ100点満点の合計を競う。

  • ボルダーは、4課題それぞれ25点の合計を競う。ゴール到達(完登)で25点。途中に2か所あるゾーン到達で、5点あるいは10点。何度も試行(アテンプト)できるが、二度目以降は試行のたびに0.1点の減点が掛かる。

  • リードは、一発勝負で到達度合いを競う。

問題とされる観点

ボルダーの第1課題(B1)。ジャンプしてスタートホールドを掴む課題(地ジャン)となっている。このスタート位置がやや高く、身長の低い森秋彩氏はジャンプしても届かず、スタートホールドを掴むことができなかった。そのため、B1の点数は0点で競技が進むこととなった。

結局、ボルダーの成績は39.0(7位)となった。

その後、リードでほぼ完登、ゴールに手をかけるところまで登り、満点に近い96.1点の圧倒的強さを見せるも、ボルダーと総合で4位となり、メダルを逃した。

この結果を受けて、B1は森秋彩氏を狙い撃ちするために設けられた課題だとか、低身長差別だとか、チームは抗議しろとか、様々な意見を見るようになった。

以降、これについて掘り下げていく。

競技結果のまとめ

先に競技結果をまとめておく。競技結果はTVerのスポーツクライミングサイトの結果数値を用い、英語版Wikipediaから身長を拝借した。

パリオリンピック ボルダー&リード女子 成績(+身長)

身長

総合成績のところに記した身長を抜粋して、高い順に並べた。
カッコ内は総合順位。

身長

173cm オシアナ・マッケンジー(7)
ーーーーー
165cm ジェシカ・ピルツ(3)
164cm ヤンヤ・ガンブレット(1)、オレアーヌ・ベルトヌ(8)
163cm 徐采鉉(6)
160cm エリン・マクニース(5)
ーーーーー
158cm ブルック・ラバトゥ(2)
154cm 森秋彩(4)

写真にしている人もいたので載せておく。

私見いろいろ

ネットで見た意見に対して、思うところをいろいろまとめた。

以下、⑤とはゾーン5点獲得やそのホールド、⑩とはゾーン10点獲得やそのホールドを表すこととした。

第1課題のスタートホールドは届かなかったのか

第1課題のスタートホールドは届かなかったのか。
おそらくここに、経験者と未経験者の認識相違があると思う。

フジテレビの放送(どの番組?)、以下のポストの右側を見てほしい。静止画を見ると、右手の第一関節(DIP)くらいまでは届いている。

これは経験者の間では、届いてはいるが保持できていないという判断になると思う。未経験者だと、あの程度の掛かりでは保持できるわけがないと思うかもしれないが、それは、実力者の指の強度を知らない意見だと思う。

そこまで届いているなら、ジャンプ技術でカバーできる範囲だったと考える。ジャンプ技術であと1cm稼ぐことができれば、確実に保持できていたと思う。ただ、競技の制限時間内にジャンプ精度を調整しきれなかっただけに思う。

そのため、本人や競技者や競技関係者の間では、届いていたが保持できなかったという認識だと思う。

だからこそ本人も「技術とパワーが足りなかった。身長のせいにはしない」(朝日新聞10日)と言っているのだと思う。

これを、画面越しに見ていただけの者、そのホールドの持ち感を知らない者が、届かなかった結果だけを見て、どうあっても届かない課題だったと断じでいるだけではないだろうか。さらには「身長のせいにはしない」とは謙遜の言葉だとか、黙っていることが日本の美徳とするのは良くないとか、本人の見解を理解しようともしない身勝手な意見だと思う。

森秋彩氏を狙い撃ちした課題なのか

狙い撃ちについて。

ブルック・ラバトゥ氏は、課題1を一度でスタートホールドを保持できたわけではない。当日の内容を動画で確認できてはいないが、スタートホールド保持後はそのままゴールまで行っていたと思う。点数が24.7点なので、スタートジャンプを試行錯誤の末、4回目のアテンプトでやっとスタートホールドを保持でき、そのままゴールできたという展開だったと思う。

森秋彩氏の指が掛かる高さということを見ても、ブルック・ラバトゥ氏が試行錯誤の上でやっと登っていることを見ても、森秋彩氏を狙い撃ちしたということがまったくの妄想や陰謀論だということが分かる。

この説明で分からない人に説明する。

ブルック・ラバトゥ氏がやっと登れたということの意味。仮に登れなければ、24.7点が失われ、合計得点は131.3点。森秋彩氏を下回るため、森秋彩氏は3位浮上である。狙い撃ちのつもりでやったはずがメダル獲得させてしまう、そんな危険がある。

狙い撃つつもりなら、こんなところに仕込まないだろう。森秋彩氏が稼げるリードの下層部に、低身長に不利な要素を仕込む。こちらのほうが確実である。

もっとも、こちらのほうが経験者相手には意図が見え見えであり、これまた現実的でないと思う。

あるいは、リードの難易度を下げて全員がある程度の点数を得られるようにし、圧倒的大差での挽回の芽を摘む。こちらのほうが意図が分かりにくく、しかも効果は確実である。だが現実には、そのようなことはなかった。
2024/08/19追記:追記

第1課題のスタートホールドを掴むには

前の項に、ジャンプ技術でカバーできる範囲と記した。

ネットのコメントを見ると、届くかどうかを決定する要素が、身長、手の長さ、ジャンプ脚力くらいしか考えていない意見が目立つ。ボルダーのジャンプ技術はそれに留まらない。

このあたりの解説は、尾川智子氏のものが分かりやすいと思う。

左手のホールドは左右に長いので、もう少し右を持つこともできた。

これに加えて、実況中継の平山ユージ氏も、左から右に流すようにジャンプする方がいいとか、踏み足の位置を微調整しているとコメントしていたと思う。
2024/08/19訂正:野口昭代氏→平山ユージ氏

それら全部を試して届いたかは、今となっては分からない。とはいえ、先に紹介されているTVの静止画を見る限り、踏み足の位置調整で掴めた可能性は非常に高いと思う。逆に、ぎりぎりだったからこそ、ジャンプ時に大きな調整を行わず、最終的に届かない結果になってしまったような気がする。

それにもかかわらず、画面越しに見ていただけの者、そのホールドの持ち感を知らない者が、どうあっても届かない課題だったと断ずるのは疑問である。

どうあっても届かない課題だったと断じている人は、「あんたの身長ではその課題には届かない」と言っているも等しい。それを理由に抗議しろと言っている人は「あんたの身長ではその課題には届かない」「届かない課題を作った相手に抗議しろ」と言っているに等しい。一流選手にこのようなことを言う人の気持ちが理解できない。

また、課題のルートを作ったセッターを責めることが、結果的に選手をも傷つけていることに思い至らない、そのような人の気持ちが理解できない。

このあたり、放送する際に経験者を呼んでコメントを求めてほしいところ。しかし、先に示したフジテレビやモーニングショー(10日、13日)では経験者を呼んでいなかったようだ。丁寧な解説よりも煽りを是とするメディア、いつもの風景ということのようだ。

スタートに対する考え方(1)

スタートに対する考え方。
おそらくここに、もうひとつの、経験者と未経験者の理解相違があると思う。

スタートホールドは持てる位置に配置すべきとする意見がある。これには、ボルダーにおけるスタートが何かということの考えが浸透していない点に理由があるように思う。

なお、試行(アテンプト)の開始とスタートは本来は別であるが、そこはぼかして説明する。詳しくはこの節の最後に記す。

ボルダーにおけるスタートとは、身体すべてが地上から離れた時点を指す。第1課題のようなジャンプ課題の場合、地面からのジャンプ時点あるいはジャンプ台となるホールドを踏むために後足が地面から離れる時点がスタートとなる。

つまり、ジャンプ後にスタートホールドを掴むというのは、ジャンプ技術+保持技術が要求されるクライミング技術であり、この技術を初手から要求する課題ということである。掴んでからスタートでなく、掴む前からすでにスタートしているのである。掴む時点ではすでに、クライミング技術を試されている状態にある。

吊り輪などのように、ぶら下がるところまでは担保されており、ぶら下がってからがスタート……というわけではないという話である。

経験者は、初手からジャンプ技術+保持技術が要求される課題と捉えている。未経験者には、吊り輪などと同様、スタートホールドを保持するところまでは担保されて然るべきと捉えられてしまっている。

どこを競技の開始点と捉えるか、そこの理解が経験者と未経験者で食い違ってしまっている。経験者にはあまりにも当たり前すぎて、未経験者がそう捉えると思っていなかった。

おそらくこの点、ボルダーにおけるスタートとは何か、これが未経験者に浸透していないことが理由にあるように思う。

こちらも、尾川智子氏が解説していたので紹介しておく。

この理解相違がなぜ生まれるのか。

ジャンプせずに手が届く位置にスタートホールドがある場合ですら、そのスタートホールドを保持し、体勢を保つことが難しい、そんなことが普通にある。おそらく5級や4級あたりまでやったことのある人だと、この経験があると思う。だからこそ、スタートホールドを保持し、体勢を保つことも競技の一部なのだという理解があるのだと思う。

スタートホールドの保持ができないというのは、なにもジャンプスタート課題に限らない普通のことである。経験者にはこの感覚がある。

この感覚があるかないかで、スタートに対する考え方が変わるように思う。未経験者にはこの感覚がないと思う。だから「なぜスタートホールドを持った状態からスタートさせないのだ」といった意見が出るのだと思う。

そして、経験者にとってはあまりにも当たり前すぎて、未経験者がどう捉えるかということに気づいていなかったように思う。

いや、森秋彩氏がスタートで届かないことなど普通にあることだし。

スタートに対する考え方(2)

前項で、スタートに対する経験者と未経験者の理解相違を記した。この点を補足する。

ジャンプせずに手が届く位置にスタートホールドがある場合ですら、そのスタートホールドを保持し、体勢を保つことが難しい……。そんなことがあるのかというのを例示していく。

ネット公開されたものを題材に補足する。いずれも「スタートすらできない」ものたちである。

◆ジャンプせずとも届く範囲にスタートホールドがある場合

やりたいことは、橙を左右持って、右足を下の橙に乗せて、左足を地面から浮かせた時点でスタート……だが、左足を浮かせると手が剥がされそうで、スタートすらできそうにない図。

1級相当の基本的な保持力に加えて、いかに体重を右足に分散させるか、いかに持ちやすい場所を選ぶか、その体勢を保つ体幹力、いろいろなクライミング技術が要求される。

◆駆け上がりながらスタートホールドを保持する場合

やりたいことは、下の橙に駆け上がりつつ、上とやや右にある橙を両手で押し広げるように持ち、そこで体勢維持……したいが、うまくタイミングや持ち場所を掴めず、壁からはじき返される図。

ジャンプつまり飛び上がるほどの脚力は要求されないが、駆け上がり、伸び上がる際の力加減や方向などといったジャンプ様の技術は要求されている。それに加えて、どの場所を持つのが最適かを事前に観察する技術、タイミングよく手で押さえて保持する技術、持ち感次第で持つ場所を微調整する技術、いろいろなクライミング技術が要求される。

ジャンプすれば容易に届く範囲にスタートホールドがある場合(岩場)

室内ジムでちょうどよい題材がなかったので、岩場のものを拝借する。核心という言葉はその課題の最大の難所を指す。下のポストは、低身長にとっては、スタートホールドの保持に最大の難所があるも等しいと言っていることになる。

長身長だと、ジャンプ後の手の接地面で得られる摩擦、岩の上に乗せた体重による負荷の減少、少しでも持ちやすい場所を選ぶ選択肢の広さ、有利となる要素はありそうだが、低身長だとそれらは得られない。

◆そして第1課題を考える

ふたつ上に、ジャンプと呼べるほどの脚力は要求されないが、力加減や方向などといった別方向のジャンプ様の技術が要求されるケースを示した。

これをもう少し強化した課題、ジャンプ脚力がある程度MAX近くまで要求され、加えて、踏み足の位置やジャンプの方向などといったジャンプ技術が要求され、それに加えて通常程度の保持力が要求される、初手からそういう課題だったというだけである。

そして、踏み足の位置やジャンプの方向などといったジャンプ技術、この微調整を時間内に行いきれなかっただけである。

◆補足:アテンプトとスタート

ぼかして記していた、アテンプトとスタートの違いについて。

登りの試みはアテンプトと呼ばれる。その開始は、身体すべてが地面から離れた時点となる。離れた時点で、アテンプト開始となる。

スタートは、スタートホールドの保持を意味する。アテンプト開始後、スタートホールドを保持したうえ、体勢が保持できたことを以って、スタート成立と扱われる。

スタートホールドを保持し切れずに落下した場合、アテンプトはすでに開始しているので、スタート失敗と扱われる。

吊り輪などのように、吊り輪にぶら下がるところまでが担保されており、ぶら下がってからが競技開始……というわけではない。

このスタートホールドの保持が担保されていないという考え。ほかに近いものがないかといえば、あん馬の考えが近いかもしれない。

あん馬に手を掛けた時点がアテンプト開始に相当する。あん馬に手を掛け、乗ろうとしたが乗り損ねて着地した。これが、アテンプトは開始したが、スタートできなかったという状況に近いと思う。

あん馬の高さは固定化されているとか、落下した場合に減点どまりか0点かとか、こういった違いはあるとしても。

クライミング文化:オブザベ

ボルダーやリードには、オベザベーション(オブザベ)という時間が設けられている。これは、課題に登る前に、どのような課題であるかを観察(observation)することをいう。

このオブザベの様子、おそらく他の競技では見られないだろう光景がある(他の競技を見ていないから詳しくは知らない)。

この選手の距離感が分かるだろうか。

森秋彩氏の隣にいるのが徐采鉉氏、その隣にいるのがブルック・ラバトゥ氏。これから登ろうとする壁の攻略方法を、競い合っている、いわばライバル同士の選手と話し合っている光景。写真では話し合っているか分かりにくいところ、当日の放送では双眼鏡片手に親しげに話し合っていた記憶がある。

前回の東京五輪のものなら記事がある。

「みんなで仲間を応援」
……
会場の青海アーバンスポーツパークでは、伝統競技にありがちな熾烈(しれつ)なライバル争いとは違う、競技者たちの仲間意識がはっきりと見て取れた

「アウトドアのクライミングから来ていることだと思う。友人と登る時、問題を解決するために力を合わせる。それが競技にも持ち込まれている」と、男子で銀メダルを獲得したナサニエル・コールマン(アメリカ)は話した。

「僕たちはみんなで仲間を応援する。(ほかの選手が)登るのを見ている間、どれだけ大変か分かるし、うまくいく時にどれだけ最高な気分か知っているから、うまくいってもらいたい」

岩場のクライミングでは、そのルートを攻略するときに、お互いにどのように攻略するか、もう少しこうするのがいいのではないか、そういった話が行われる。この和気あいあい感が、他の競技とは異なるのではないかと思う。

この文化を知っていれば、あの選手を落とすために課題を作る人(ルートセッター)に働きかけて森秋彩氏を落とす、といったことは考えられない。

低身長がメリットとなった課題

第1課題で、森秋彩氏が届かなかったという話が元の話題である。ボルダーで低身長はやはりデメリットなのだろうか、という話である。

ボルダーは、身長が高い方が有利となる面は確かに多くあるが、必ずしもそうとは言い切れない。それは、第3課題で顕著だったと思う。

第3課題の成績を記してみる。

完登組
 ヤンヤ・ガンブレット(164cm) 25.0
 ブルック・ラバトゥ(158cm) 24.9
 森 秋彩154cm) 24.8
ーーーーー
⑤組
 ジェシカ・ピルツ(165cm) 5.0
 徐 采鉉(163cm) 4.8
 オシアナ・マッケンジー(173cm) 4.9
ーーーーー
0点組
 オレアーヌ・ベルトヌ(164cm) 0.0
 エリン・マクニース(160cm) 0.0

絶対女王ヤンヤは別格としても、他に完登しているのは身長160cm未満の選手2人。それ以上の身長を持つ選手は、ゾーン⑤を獲得するのがやっとである。中には、課題1で完登していながら課題3で0点となっている選手も2人いる。

課題3は長身長に不利な課題となっていた。その点をもう少し詳しく説明する。

課題3の問題のホールドは、以下のようになっている。

上の写真で伸ばしている右手のホールドが⑩である。つまり、写真の状態まで辿り着いた選手は完登組の3人だけということである。

そして、写真内の足場にしているホールドが、長身長に不利なムーブを要求される部分である。足場となっている部分を越えないと、⑩を得られない。

足場の部分には、3つのホールドが見える。左から、黒、白、白とある。黒が⑤で、これを手で掴めばゾーン⑤獲得である。

写真の右下方向から登ると、以下のように体勢が推移する。
1 [黒   ][白   ][白=右手]
2 [黒   ][白=左手][白=右手]
3 [黒=左足][白=左手][白=右手]

続けて右手を黒に持っていくと、下図の右の体勢になる。この段階でゾーン⑤獲得となる。この手足が窮屈な状態で、⑤に手を延ばすことができたのは8人中6人。ゾーン⑤獲得のあと、ここから頭と足を反転させて、下図の左の体勢を作り、手を持ち替えて、前記、日刊スポーツの写真の体勢に移る。

TVerでも公開されていたので、それも示しておく。この動画では、頭と足を反転させるところからゴールまでが動画公開されている。窮屈な中で、左右それぞれ2本指だけで体重を支えつつ、持ち替えしながら、うまく頭と足を反転している様子が分かると思う。

頭と足を反転させるこの動きをする際に、スペースが窮屈なため、長身長には不利に、低身長には有利に働く。

その結果は前記のとおり、身長160cm未満の選手2名は全員完登、身長160cm以上の選手は別格のヤンヤだけが完登したものの、他には完登者は出なかった。それどころか、例の反転エリアを越えた者はいなかった。おそらく身長160cm付近に、有利不利を分ける壁ができているものと思う。

そして、この第3課題を設けてあるからには、森秋彩氏を落とすために第1課題を設けたなどということはないだろう。森秋彩氏を落とすなら、第3課題の窮屈な部分、もう少しホールド間を空けて、長身長でも登りやすくしていたことだろう。

その他の小柄な体のメリット

身長の高低のどちらが有利かというのは、場面によるとしかいえないと思う。総合的には長身長のが有利な点が多いような気がしている。初心者たる当方の感覚では、である。

ただ、具体的場面で小柄な体が有利な場面はいろいろある。

  • 指への負荷は基本、小柄が有利

    • 足が剝がされた場合の、遠心力のきいたときの保持などではとくに

    • 持久力が求められるリードは、とりわけその傾向が強い

  • 前項のように窮屈さを求められるような場合も、小柄が有利

  • 指の大きさは体の大きさとある程度相関するだろう

    • 指が小さいとガバ(カバッと掴める→持ちやすい)になりやすい

    • 指をはめ込む場合(ポケット)に指を入れやすい

その他

セッター、ボルダーとリードの総合でいいのか、ボルダーの競技性、そして、それ以外のボルダー始めたい人向けのコメント、こういったあたりをまとめたかったが、CAS(スポーツ仲裁裁判所)まで出てきたため、ここまでとした。

記事にはまとめられなかったが、共感したコメント、紹介したい写真を一言コメントを添えて載せておく。

このあたりの意見に共感。

上に記した、女子選手の身長比較の男子版。

観客、運営、選手、異なる3種の目線で捉えたもの。
いくら似た体格のセッターに試登させても、選手本人に試登させるわけにはいかない性質上、どうしてもぶっつけ本番になる。これは大変な仕事である。

各選手、すべての登りを、手の細部まで分かる形で見たい。特に核心の手とか。とても分かる。

第3課題、手の持ち替えから⑩獲得まで。

決勝リード最上層。
最後、ヒールもあるかとは確かに思った。

設定はおそらくダブルダイノでの終了点取り。秋彩ちゃんであれば左ヒールを使って右手で取りに行くこともあり得たが、その右手はしっかり悪くされて封じられていた。

【パリ五輪現地レポート】世界を惹きつけた森秋彩のクライミング

そりゃ悔しいし、もちろん対策はする。それが上達に繋がる。
スタートが遠いから近づけてなんて言うわけがない。

両手とも届いていたという感覚。

本人の意向を尊重するということ。

この記事の冒頭に記したこと。選手に失礼じゃないかという点。

個人的には、これはあると思う。だいたい、件の話題の放送時に専門家を呼ばないところからして、そういう話だと思う。

ボルダーとリードという、性質の異なるものを混ぜて考えるから惑わされる。ボルダー限定で見比べれば、より鮮明になる。

もうひとつ、ボルダーとリードを軸に図にするのもわかりやすい。森秋彩氏がリード特化型ということがよく分かる。原点に貼りついているヤンヤ氏は別格としても、ほかに軸に貼りついている選手は、ボルダー特化型、リード特化型、どちらを見ても森秋彩氏くらい。

記事本題からかなり外れるが、ヤンヤ氏の不調は深刻なものではなさそう。

最後に

ほんわか画像で締めくくる。


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