阿武町誤振込金引出事件 刑事裁判
裁判の判決が28日に予定されている。
争点は電子計算機使用詐欺罪に該当するか。
この電子計算機使用詐欺罪を中心としたまとめ。
法の専門家ではない素人の推測としてほしい。
法の専門家の見解は、28日に裁判所で発表される。
条文
条文構成の解釈
補充規定を表す説明
前条(刑246条2項)(2項詐欺罪)に規定するもののほか、
行為
人の事務処理に使用する電子計算機に((虚偽の情報)若しくは(不正な指令))を与えて(財産権の(得喪若しくは変更)に係る不実の電磁的記録)を作り、
又は(財産権の(得喪若しくは変更)に係る虚偽の電磁的記録)を人の事務処理の用に供して、
結果
財産上不法の利益を得、
又は他人にこれを得させた
罰則
十年以下の懲役に処する。
争点となるのは犯罪行為の有無。
行為の部分を掘り下げる。掘り下げには以下の書籍を使用した。
『新コンメンタール刑法第2版』P.468-469
『基本刑法II各論』第11講-5-(2)-イ-i)
財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録
この電磁的記録とは「預金残高を記録した銀行の元帳ファイル」「金銭的利益に相当する記録がなされたプリペイドカードの磁気部分」などを指す。
「銀行キャッシュカード」は、カード自体に財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録が含まれているわけではないため、本条の電磁的記録にはあたらない。また、今回の事件の出金はいずれもオンラインのため、その意味でもこのあたりの観点は影響しない。
前段の行為から犯罪要素を取り除いた「人の事務処理に使用する電子計算機に情報を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録を作り」とは、ATMでの入出金やオンライン送金のような行為を指す。
後段の行為から犯罪要素を取り除いた「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録を人の事務処理の用に供して」とは、プリペイドカードを利用して有償サービスを享受するような行為を指す。
今回の行為は前段の行為に類するため、以降は前段の行為に限定する。
不正な指令
指令とはプログラムによる指示を指す。つまり、プログラムの改変等によって、本来与えられるべきでない指示を与えるような場合を指す。今回の行為がこれにあたらないことは明白。
虚偽の情報
金融機関職員が架空の入金データを自己の口座に入力する場合や、無断で他人の預金を自己の口座に付け替えるような場合を指す。
虚偽とはどのような場合を指すか。書籍では以下のように説明されている。
これに対する解釈の掘り下げはここでは保留する。
不実の電磁的記録
不実とはどのようなものをあらわすか。書籍では以下のように説明されている。
これに対する解釈の掘り下げはここでは保留する。
争点
上に挙げた中で「虚偽の情報」「不実の電磁的記録」あたりが争点と考える。ネット記事では「虚偽の情報」で争っているように見える。
関連しそうな判例には、大きく3つものがある。
注意すべきは、誤振込による債権取得の可否と、取得した債権を行使することの可否は論点が異なるということ。
とくに①の裁判要旨に記されているのは債権取得を是とする判決。債権行使を是としたとは言えない。
今回の争点は債権行使が正当な権利と言えるか。正当な権利といえない場合は、権利があるかのように虚偽の情報を与えたと言えそう。
私見
単に誤振込というだけで引き出しや送金の権利がないとは言えない。ただし、その引き出しや送金が犯罪を構成するような用途の場合、その引き出しや送金に正当な権利があるとは言えない。
今回の事件、送金したお金を賭博に使用している。今回の裁判の罪名に含まれていないとはいえ、賭博は刑法犯。刑法犯を犯す原資として引き出したもの。②に示される「著しく正義に反するような特段の事情」と言えそうであり、それを引き出すのは「権利の濫用に当たる」に相当するのではないか。
引き出しの権利はない、権利がないにもかかわらず権利があるとして虚偽の情報を与えたという判断になるのではというのが、素人ながらの推測。
罪数
『基本刑法II各論』では時間的接着で包括一罪を判断するという説明に留めている。
『新コンメンタール刑法』では、同日の場合に包括一罪、別日の場合に併合罪という判例を挙げている。
求刑は懲役4年6月。法定刑よりも短いため、包括一罪か併合罪かは量刑に影響するものではない。今回のオンライン送金日は複数日にまたがっている。どのように判定されるかは興味あるが、そこまで報道はされないだろう。
罪数に「そこまで報道はされないだろう」と書いた。
判決で重要なのは、その被告人が有罪になったか、どの程度の罰を受けたかではなく、どのような根拠のもとにそのような判決となったか。
馬鹿なことをしでかした人を馬鹿にし、娯楽がごとく見るなら、量刑の重さだけでいいだろう。個人的にはそんなくだらないことには興味ない。現行法で適正に裁かれればそれでよく、仮に無罪になってもいい、現行法が追い付いていないなら法改正で対応すればいいという考え。
罪数までなくていいが、どのような根拠でその結果となったか。このあたりの情報がどこまで報道されるのかも注目部分。ただ、東京都の公金絡みの問題を考えても、既存メディアに期待できないと雑感。
せめて裁判例検索で公開されることを願う。