あるYoutube動画で取り上げられていた交通違反について、調べたことをまとめた。
なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。
場所
動画で取り上げられていた場所は、愛媛県、道後公園付近。
道後公園の北側には、公園に沿って県道187号線が走っている。この道路を公園沿いに南西方向に進行すると、公園の北西あたりで、県道188号線に出る。県道188号線に出る交差点の手前、伊予銀行道後支店と道後公園のあいだ付近にある横断歩道が、Youtube動画で取り上げられていた交通違反の場所。
StreetViewで横断歩道を車両側からみると、一時停止標識と横断歩道標識が併設されている。
これら標識の併設の扱いを、この記事ではまとめている。
法的義務
横断歩行者も交差車両もいない場合
今回の交差点には信号が設置されていないため、交通整理が行われていない交差点と扱われる。そして、一時停止標識が設けられている。そのため、横断歩行者や交差車両の有無にかかわらず、法43条前段に基づく一時停止義務を負う。
法43条後段は、交差車両が存在する場合の規定のため、ここでは省く。
横断歩行者がいる場合
前記のとおり、横断歩行者の有無にかかわらず一時停止義務を負う。横断歩行者がいる場合はこれに加えて、法38条1項後段に基づき、横断歩行者に対する通行を妨げない義務を負う。以降では通行妨害禁止義務と記す。
当該横断歩道には自転車横断帯は併設されていない。そのため、法38条の効力は自転車には及ばない。しかしながら、次に記す理由によって自転車に対する進行妨害禁止義務を負う。
交差車両がいる場合(交差道路が優先道路以外)
前記のとおり、法43条前段の規定に伴い、交差車両の有無にかかわらず一時停止義務を負う。加えて、法43条後段で、交差道路を通行する車両等に対する進行妨害が禁止されている。以降では、進行妨害禁止義務と記す。
この法の建付けは、横断歩行者がいる場合に似ている。
横断歩行者に対して
法38条後段=一時停止義務+通行妨害禁止義務
交差道路の車両に対して
法43条=一時停止義務+進行妨害禁止義務
ここでいう、進行妨害をしてはいけない交差道路の車両には、自転車も含まれる。そのため、自転車に対する進行妨害禁止義務をも負う。
交差車両がいる場合(交差道路が優先道路)
今回の交差点は交差道路が優先道路となっている。
この場合、法規制は交差道路が優先道路でない場合と類似する。しかし、適用法令は法43条後段ではなく、法36条2項となる。法43条後段の「第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか」とは、「法36条2項に該当する場合は法36条2項が適用され、これに該当しない場合であっても」という意味になる。
交差道路が優先道路でない場合とは、法の建付けがやや異なる様相となる。
交差道路が優先道路でない場合、一時停止義務も進行妨害禁止義務も法43条に含まれる。
交差道路が優先道路の場合、一時停止義務と進行妨害禁止義務は条項が異なる。
交差道路が優先道路でない
法43条前段=一時停止義務
法43条後段=進行妨害禁止義務
交差道路が優先
法43条前段=一時停止義務
法36条2項=進行妨害禁止義務
これが罰則にどのように影響するか。
罰則、反則金の扱い
横断歩行者も交差車両もいない場合
横断歩行者の有無にかかわらず一時停止の義務を負う。そのため、一時停止不履行があれば法43条前段違反となる。
罰則は、以下の部分に関わる。過失の場合は刑が罰金に限定される。
反則金制度では、以下の部分が該当する。
横断歩行者がいる場合
横断歩行者の有無にかかわらず一時停止の義務を負う。そのため、一時停止不履行があれば法43条前段違反となる。また、横断歩行者がいる状況での一時不停止は、法38条1項後段にも違反する。単一の行為、一時停止義務の不作為が二つの罪に該当するため、一方のみが成立する。
一時停止を履行していても、横断歩行者の横断を妨害したとなると、法38条1項後段違反となる。例えば、一時停止し、一人目を横断させた後、二人目を横断させず進行した場合など。
一時停止を不履行のうえ、さらに横断歩行者の横断を妨害した場合はどうなるか。一時停止不履行で法43条前段違反と法38条1項後段違反、横断歩行者妨害で法38条1項後段違反となる。
法43条前段=一時停止義務
法38条後段=一時停止義務、通行妨害禁止義務
つまり、一方の罪が他方の罪を完全に包含する関係になっている。両者の罰則には差がないため、加重処罰規定の関係でもない。このような場合、他方を包含する関係にある、法38条後段違反と処理されるのが自然に思う。
そして、一時停止義務と通行妨害禁止義務の一方あるいは両方に違反した場合、いずれのケースでも法38条後段違反と処理できる。そのように処理するのが自然にも思う。このように処理するなら、両方に違反するときでも法43条前段が別途成立するわけではないものと思う。
しかし後に示すように、歩行者妨害と自転車妨害の両方が成立する場合を考えると、一時停止義務を法43条前段で必ず処理するのが適切にも感じる。
この部分を確認できる情報は、手持ちの書籍からは見つけられなかった。
罰則は、以下の部分に関わる。
同じ号に含まれて「又は」で並べられたこれらは一方しか成立しない、このように考えるのが正しい解釈なのか。
反則金制度では、以下の部分に関わる。一方だけが成立なら2点、両方成立なら4点となる。果たしてどちらか。
交差車両がいる場合(交差道路が優先道路以外)
交差道路が優先道路でない場合、交差車両の有無にかかわらず一時停止の義務を負う。そのため、一時停止不履行があれば法43条前段違反となる。また、交差車両の進行を妨害したとなると、法43条後段違反となる。
どちらの違反であっても、法43条がカバーすることになる。罰則は前段と後段で分かれていないため、いずれかの違反に伴って包括的に一罪が成立する。
罰則は、以下の部分に関わる。
法43条後段部分には過失規定はない。しかし、故意の認定はかなり緩いようだ。以下は法36条1項(左方優先)における説明のため「左方車両」と記されているところ、そこを読みかえれば法43条後段にも言えるものと思う。
反則金制度では「指定場所一時不停止等」だけが成立する。「等」の一文字が法43条後段を示しているように思う。
交差車両がいる場合(交差道路が優先道路)
交差道路が優先道路の場合、交差車両の有無にかかわらず一時停止の義務を負う。そのため、一時停止不履行があれば法43条前段違反となる。そして、交差車両の進行を妨害したとなると、法36条2項違反となる。
全く別の条項のため、これらの違反は法条競合にはならない。併合罪と処理されることになる。交差道路が優先道路でない場合に比して、罰則や反則金は重く扱われる。
罰則は、以下の部分に関わる。
異なる号に含まれるこれらは併合罪の関係にある、このように考えるのが正しい解釈なのか。
ともあれ、併合罪の関係にあること自体には違いない。反則金制度では「指定場所一時不停止等」「優先道路通行車妨害等」の両者が成立するため、4点となる。
横断歩行者も交差車両もいる場合
横断歩行者がいる場合、横断歩行者に対する違反を法38条後段で包括的にカバーするのが自然ではないかと記した。この前提で話を進める。
横断歩行者以外に、交差車両たとえば自転車もいる場合を考えると、以下のようになる。
横断歩行者に対して……
一時停止義務違反、通行妨害禁止義務違反、どちらも法38条後段違反
優先道路でない交差車両に対して……
一時停止義務違反、進行妨害禁止義務違反、どちらも法43条違反
優先道路の交差車両に対して……
一時停止義務違反は法43条前段違反
進行妨害禁止義務違反は法36条2項違反
横断歩行者に対する一時停止義務違反を法38条後段違反で扱うのは、どうも不自然な気もする。
一時停止義務違反
法43条違反
横断歩行者に対する通行妨害禁止義務違反
法38条後段違反
交差道路が優先道路の場合、交差車両に対する進行妨害禁止義務違反
法36条2項違反
補足:優先道路でない交差車両に対する進行妨害禁止義務違反は法43条後段違反のため、一時停止義務違反の法43条違反でカバーできることにより、罰則の検討には含めなかった。
こちらのが自然な気もする。果たしてどうだろうか。
番外:「通行を妨げる」と「進行妨害」
条文のなかに「通行を妨げる」と「進行妨害」があった。「通行を妨げる」は法38条後段に登場する。「進行妨害」は法36条2項や法43条後段に登場する。これらの違いに触れておく。
一見すると、違いはないように見える。しかし、続く解説から違いを読み解くことができる。
「進行妨害」は、「通行を妨げる」とは意味が異なると明記されている。
進行妨害は、通行順位を定めようとするものであって、相手車両に特別の優先権を与えるものではない。以下の裁判結果を見ると、より鮮明になると思う。以下の裁判は、交差直進事故において、先行順位にある左方車の注意義務を問うものとなっている。
進行妨害を受けた車両であろうとも、その車両を押しのけてまで優先する権利が得られるわけでない。むしろ、接触等の危険が具現化しつつある状況においては、先行順位に関係なく結果発生防止の義務を負う。
他方、歩行者が通行を妨げられた場合に、このような義務は歩行者に課せられていない。歩行者自身の人身リスク回避低減のために避けるだろうと思うところ、歩行者側に何か車両を妨げてはいけないとされる義務は生じない。横断歩道上における横断歩行者の保護は非常に強力に働く。