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住んでみたい家 #5 コルゲートハウス

今回紹介するのはコルゲートハウスです。建築設備設計、プラントエンジニアとして知られる川合健二氏が設計、制作したセルフビルドの自邸です。水路や骨材ビンなどに使用される鉄製のコルゲートパイプでできていることから『コルゲートハウス』や『鉄の家』と呼ばれることが多いです。コルゲートハウスは数ある住宅建築の中でも特に衝撃を受けた家でした。以前、ダイマクション・ハウスの記事では好きな家は思想やコンセプトが明確にあり、それがデザインに反映されているものであると書きました。コルゲートハウスは川合氏の思想を非常に良く表現したデザインで一つ一つすべてのパーツに意味がある、そんなデザインを感じられる家です。

建築ではなく寝築

コルゲートハウスには基礎が無く地盤にコルゲートパイプを置いた状態です。これだけでは安定しないので周囲に砂利を入れ地震が起きた場合は振動を吸収する構造になっています。

川合氏は「建っているから倒れる、ならば最初から寝かせて置けばよい」と語っており「建築」ではなく「寝築(しんちく)」という言葉でコルゲートハウスを表しました。地震の多い日本において地盤を始めから動的なもとのして捉えて建築の基本的な要素である基礎を排除、地盤と家の構造体切り離すことで地震に対処する発想は興味深いものがあります。建築物と地盤の構造的絶縁は現代の免震構造の考え方にも似ていますね。

コルゲートパイプという部材選びににも合理的な理由があります。川合氏は当初コンクリート製の家を構想しましたがコンクリートは自重が重すぎるために支えるための鉄筋が必要でした。それでは材料の無駄が多いと考えコンクリートから鉄のみを取り出して家を作れないかと発想、少ない鉄で大面積を確保するため薄くしてのばすし強度を持たせるために波打たせる、強度のある構造的な形状は円である、そうした部材を一から設計するのは労力がかかりすぎるので既成品から探すという思考プロセスを経てコルゲートパイプという部材が選定されています。常識を外して自身で合理的、論理的な発想をして実践していくところに川合氏の非凡さが伺えます。

独自の造形美学

コルゲートハウスの妻側には六角形のハニカムのような意匠がありその外観をより個性的なものにしています。この六角形の構造にも意味がありハニカム構造による強度の確保と放熱板の機能を持っています。

妻側を六角形の構造で埋めるアイデアは着物の柄から着想されました。楕円形の中に窓を作ろうとした場合、一般的な窓の形状は四角形ですが楕円形の中に四角形を配置するとバランスが取れないと感じたそうです。二年ほど考え着物の矢がすりや亀の甲の模様を見て、人が着て曲線的になる着物と六角形の柄の組み合わせが良いのではないかと考えに至ります。そうして生まれたハニカムの構造はよく見られる垂直水平を基調とした建物とは違った独特の存在感があります。

素材、設計、デザインの細部に至るまで考え抜かれたコルゲートハウスは私にとって本当にクールで刺激的な存在の家です。

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