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「ハイウェイ・ホーク」第三章 鷹の目(6/6)最終話【創作大賞2024ミステリー小説部門】


 すでに一時間が過ぎた。待つことが苦手な品川だが、我慢に我慢を重ね、やっと待ち人が現れてくれた。
「お勤めご苦労様でした」
 品川が大粒の涙をこぼしながら駆け寄ってきた。
「やめろよ、やくざじゃあるまいし」
 刑務所の門をくぐってきた安井は、微笑みながら品川の頭をひとつ叩いた。
「やっと出て来れたよ。渡辺の家族はどうしてる」
「ちゃんと計画通りやってますよ。渡辺の子供は来年小学校です。安井さんのお陰で、大学まで出してやれそうですよ。あの金、おれも少し使いましたよ」
「おお、好きに使っていいぞ。おれが留守の間、えらく世話をかけたな」
 安井と品川は久しぶりに二人並んで歩きながら話をした。野村が死んでから時間はかかったが、墓を建ててくれていた。あの事件で東洋ハイウェイ・サービスは、公団から締め出しを食らったが、他の業者に本線規制を依頼したところ、事故が多発したことで再び仕事の依頼が来るようになった。川口は名古屋に転勤して、チームリーダーをやっていた。品川は罪を一人でかぶってくれた安井に、何度となく礼を言った。二人はまるで尽きることがないように話しながら歩いていると、真正面から歩み寄って来る一人の男の姿が見えた。

「よぉ、やっと出てきたか」
 谷川がおもむろに声を掛けた。
「何の用だ」
 安井が冷たく答えた。
「消えた一億円だがどこに隠した。川の底を散々さらったが、何も出てこなかったぞ」
「さあ、川に落とした後の行方までおれにはわからん」
「六年前に部下が死んだってなあ。あんたをパクってから聞いたよ。あの現金強殺は復讐ってことだったのか」
「何を言っているのか意味がわからん。もういいだろ。あんたの顔は二度と見たくない」
 安井と品川は谷川の横をすり抜けて行った。
「安井さん、何かやばいんじゃないですか」
 品川が不安そうに言った。
「心配するな。あの金については、もう詮索しないってわざわざ言いに来たのさ。暇なやつだ」
 安井が微笑みながら答えた。

 尾形の運転する車の助手席で、谷川は物思いにふけっていた。車は夕日に向かって高速道路を西へと走っていた。
「谷川さん、本線規制をやってますよ。今まで気にも留めなかったんですけど、あれからどうも気になって。あんな目立たない場所で命を張って働いてる人がいたなんて、思いもしませんでしたよ。世の中、ぼくたちが知らないことってたくさんあるんですね」
「何、言ってやがる。しかし目立たないことでも極めたら、第三者はだれも手出しできないんだよな。それだけあいつらの経験値ってのは、ずば抜けてたってことか。もっと浮かばれる扱いを受けていたら、犯罪なんて起こさなくて済んだものを・・・。世の中、何かおかしいよな」
 刑務所の前で安井を見た時、安井の目が鷹の目でなくなっていたことを、谷川は見逃さなかった。


<完>


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昭真(shoshin)
「通勤電車の詩」を読んでいただきありがとうございます。 サラリーマンの作家活動を応援していただけたらうれしいです。夢に一歩でも近づけるように頑張りたいです。よろしくお願いします。