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「ハイウェイ・ホーク」第一章 発動(6/7)【創作大賞2024ミステリー小説部門】

「水川さん、このような状況です。ホシはサービスエリアとは言え、高速道路から離脱するためには、どこかのインターを通らなければなりません。何とかしてここで確保するつもりですが、もしものことを考えて二号車、三号車はそのまま先のインターで待機させます。その代わりに他の捜査員を応援に寄越してもらえませんか」
 谷川は無線機に声が入らないように、自分の携帯電話を使って水川に連絡を取った。
「わかった。警邏中、巡回中のパトカーをそこに急行させる」
 水川は対策本部にいる部下に、周辺にいるパトカーに対して海塚ICから浪波自動車道上り線に乗り、小泉SAに向かわせるように指示を出した。
「社長に代われ」
 駐車するとすぐに、犯人からの指示があった。
「わかりました」
 東出は携帯電話を三宮に渡した。
「三宮さんだな。金を入れたバッグを持ってトイレの前に立て。携帯電話はつなげたままにしておけ」
 三宮が車から降りると、東出は無線機を使って谷川に犯人からの指示内容を伝えた。
 谷川と尾形は車から降りてトイレに行く振りをして、三宮との距離を縮めた。他の二台のパトカーはすでに先のインターチェンジで待機していたため、彼ら二人だけで対処するしかない。水川も谷川も犯人がサービスエリアで接触してくることは想定できなかった。全くの誤算だった。

 重いバッグを担いだ三宮がトイレの前に立った時、再び犯人から指示があった。
「トイレの横に通路がある。そこを通り抜けて、建物の裏にある駐車場に金を運んで来い」
 サービスエリアには高速道路の利用者だけでなく、外部からの来客者も利用できるように施設の裏にも駐車場が設けられている。高速道路を利用しない客はこの駐車場に車を止めて、トイレ横にある通路を通り抜けてサービスエリア内の施設を利用することができる。三宮がその通路に入って行った。谷川と尾形がその後を追って通路に入ろうと一歩踏み出したその目の前に、一台の軽トラックが猛スピードで歩道に乗り上げ、谷川たちの方に接近してきた。谷川たちはいち早くそれに気づき、倒れながら後方に飛び退いた。谷川が運転席を覗き込むと、東出の姿がそこにあった。谷川は我に返り三宮を追おうとしたが、軽トラックが通路を塞いで前に進むことができない。東出に軽トラックを後退させるように大声で窓ガラス越しに指示したが、東出はあからさまに気が動転してしまっていて操作がままならない状態だった。やむなく谷川と尾形は、軽トラックを飛び越えて通路に走って行った。その先に、駐車場で左肩を右手で押さえて、呆然と立ち尽くしている三宮の姿を視界に捉えた。手には何も持っていない。
「三宮さん、バッグは、バッグはどうしましたか」
「後ろで急ブレークのような音がして、振り返ると背後から誰かに突き飛ばされて・・・。転んだ拍子にバッグを奪われました」
「ホシの姿は、車は見ましたか」
「犯人の後ろ姿しか見てません。男が二人いました。車はシルバーのワンボックスだったように思います。私が起き上がる際に一瞬だけ見えました」
「走り去ったんですか、どこへです」
「ここのサービスエリアは、高速道を走っていない周辺にお住いのお客様もご利用していただけるように、施設の裏に駐車場を設置しております。ですので、ここの駐車場を出ると一般道に出ることができます」
「尾形っ、やられたぁ!」
 三宮から状況を確認するや否や、谷川は大声で叫んだ。それを聞いた尾形は警察官の本能であろうか、闇雲に犯人が逃走したと思われる山道に走って行った。谷川は水川に携帯電話で緊急配備の要請を行ったあと、追跡を開始すべく走り去った尾形に電話をかけ、車に戻るように指示をした。
「谷川さん、ここのSAは大阪府内と言っても、山の中にあります。駐車場を出て山道を5、6キロメートルほど降りていくと府道に出ます。その府道を右に曲がれば和歌山方面に、左に曲がれば大阪方面に行けます。和歌山方面に向かえばさらに山道を走り続けて、和歌山市街に出るまで一本道です。大阪方面に走ったとしても、市街地にでるまでは一本道です。どちらにしても、犯人たちが市街地に出るまでに捕まえてください」
「わかりました」
 谷川は三宮に現場で待機するように指示し、駐車してある覆面パトカーへと走った。軽トラックはすでに後退し、トイレ前の駐車マスにハザードを点灯しながら停車していた。

「まさか、あんた共犯だったのか。話は戻ってから聞かせてもらう。念のためだから、ご容赦ください」
 谷川は運転席で放心状態になっている東出の右手と軽トラックのハンドルを手錠でつないだ。そして谷川は覆面パトカーに飛び乗り、走って戻ってきた尾形を視界に捉えると尾形に向かってパトカーを急発進させた。そして尾形を助手席に乗せると、サイレンと共に猛スピードで走りだした。
「水川さん、申し訳ありません。現金を強奪されました。午後十時五十分、ホシは現金を三宮さんから奪取して、小泉SAから一般道に向けて逃走。どの方面に向かったかはわかりませんが、三宮さんが言うには和歌山方面にも出るにも大阪方面に出るにも一本道とのこと。やつらが市街地に出るまでに押さえてください。ホシは最低男二人。シルバーのワンボックスで逃走。我々も追跡します。それと二号車、三号車、聞こえてるか。ホシは一般道を使って逃走した。緊急配備は、地元の警察が行う。ホシは一般道から再度高速に乗って逃走を図る可能性がある。そのままインターチェンジの入り口に残って、怪しい車をチェックしてくれ」
 谷川は次々と指示を出した。

「谷川さん、我々の車は高速道路の上にあります。下道に降りるには次のインターまで走らなければなりませんよ」
 尾形は運転している谷川に向かって言った。
「わかってる。次のインターまでどれくらいだ」
「制限速度で走って、約十分です」
「十分だと、五分で行く」
 谷川はいら立ちを隠すことができず、尾形に吐き捨てるように言った。発信器のモニターに目をやっていた尾形が、信じられないような言葉を吐いた。

<続く>

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昭真(shoshin)
「通勤電車の詩」を読んでいただきありがとうございます。 サラリーマンの作家活動を応援していただけたらうれしいです。夢に一歩でも近づけるように頑張りたいです。よろしくお願いします。