Write More, Think Less
記事を書きたい。書きたいという思いはある。
そう思うとネタが浮かぶ。頭の中で練ってゆく。練ると自然と全体が見える。
全体が見えて、大体網羅できて、まあなかなか面白そうな記事ができそうだ、と思う。
この次が一番大変なのだ。普段自分が考えていることを、そのまま再現してみようと思う。
対比列伝その1(何も調べずに書いてます)
頭の中に浮かんだ「面白そうな記事」を形にするためには下調べが必要になる。概要を説明する事実を固める必要があるためだ。
今自分は、「ツインギターがいるバンドのセカンドギターの成長」の話をしようと思っている。真っ先に念頭に置いたのはAngraのラファエル・ビッテンコートとDragonforceのサム・トットマンだ。
ラファエルはファースト「Angels Cry」で演奏が収録されないという憂き目に遭い、さらにバンドの支柱だったボーカル、アンドレ・マトスらが一気に脱退。リードギターのキコ・ルーレイロとふたり取り残されてしまう。そこからバンドを再始動させて物語は続いてゆくわけだが、このふたりの決意が「Running Alone」という曲に表現されている。
しかし今や、キコはMegadethのギタリスト。キコを失ったAngraはどうなったか……といえば、ラファエルがしっかりやっているのだ。彼はいつのまにかセカンドボーカルにもなった。キコほど弾けないかもしれない、それでも、今や彼はAngraの要になったのだ。
サムに関してはそこまで劇的ではない。彼は超国際派バンド・Dragonforceのセカンドギターとして、イケメンこと香港出身ハーマン・リの隣で、今でもバカみたいに速いギターを弾いている。
彼を語るなら「Through The Wire」事件は欠かせない。アメリカのテレビでライブパフォーマンスをしたところ、泥酔したサムが演奏中にコケてチューニングが狂い、まるでダイヤルアップかのような異音ギターソロを生放送してしまったのだ。もともとあった謎の音響の悪さと全体に漂うチープ感があいまって、ネット民からずっとネタにされていた。
Dragonforceはインターネット経由で結成されたバンドで、ファーストアルバム「Valley Of The Damned」の強烈さは全メタラーに衝撃を与えた。速いなんてもんじゃない。ときにドラムが追いついていないことも明らかなほど突っ走った演奏、妙に仰々しい歌詞と南アフリカ出身・ZPの超ハイトーンボーカル、そして異様な長尺ギターソロ。2000年代前半のメロディックスピードメタルといえばSonata Arcticaだが、たぶんDragonforceとは一緒にされたくないだろう。何かがダサい、やり過ぎの上にやり過ぎを重ねる、金ちゃんの仮装大賞のようなメタルだった。
……ここまでの記事は、何も調べず、一気に書いた。しかし、この中にどれだけの間違いがあるだろうか? 記事を思うままに書けば書くほど、調べることは難しくなる。
ときには、調べているうちにYouTubeの音源探しが楽しくなって、執筆そっちのけで見てしまったりもする。まあ、うまくいかないわけだ。それを繰り返すと、時間がかかることが目に見えているから、書きたいけど書けない、という状態に陥る。
やっぱり、テキストを書くなら、正しいことを書きたいのだ。10年経っても参照されるような正しい記事、読むとそのアーティストを聴きたくなる記事、「この記事を読んでファンになりました」とアーティストを紹介してくれる人が増えるような記事を書いてみたいのだ。
対比列伝その2(何も調べずに書いてます)
ここからもう少し対比列伝を書き進めたい。
ラファエルはリードギタリストになった。サムは今でもセカンドギター、それでもオンリーワンのギタリストになった。
Fair Warningのセカンドギター、アンディ・マレツェクはLast Autumn's Dreamのリードギターで開花した。Helloweenのセカンドギターは……そもそもヴァイカートなのか? というところから語っていくと面白くなるだろう。
当然、Helloweenの創設者にしてギターボーカル、カイ・ハンセンの後任であるローランド・グラポウの話もできる。グラポウは自分のバンド・Masterplanで、Helloweenのカバーアルバム「Pumpkings」をリリースした。自分がいた時代の、自分が作った曲で、ツインギター楽曲をシングルで演奏することまでやっている。当てつけ感がものすごい。旧メンバー再結成に呼ばれないのもよく分かる。
日本の話をしてみよう。Unlucky Morpheusのセカンドギター、仁耶は絵に描いたような丁寧なプレイでリーダー兼リードギターの紫煉を支える。あんきも楽曲、この二人がギターソロでずっと両手タッピングをしているイメージが強い。ツインギターの両手タッピングは魔術的なものを感じる。が、紫煉が腱鞘炎に苦しんでいる間はパートチェンジしたり、ヴァイオリンのJillにソロを任せたり、バンド全体としてソロパートを組み替えていたことが印象に残る。紫煉はデスヴォイスを学び、圧倒的ボーカル・Fukiの影でセカンドボーカルとして立つようにもなった。そんな多彩なリードギターの後ろで、彼は、何を思って弾くのだろうか……。
……上の段落も、何も調べずに書いた。
そして、ここまで思い浮かべたところで、表を作る。
ここから調べました(逡巡)
あとから調べてみたら、ラファエルは今でもセカンドギターらしい。キコのパートは、新メンバーのマルセロ・バルボーザ(元ALMAH……Angraの二代目ボーカル、エドゥ・ファラスキのバンドだ)が引き継いでいる。
自分の頭の中では「ラファエルはキコの後を継いでリードギターとして大活躍している!」という図を思い浮かべていたが、やはり調べると少し違うのだ。
……で、違ったときに、それを埋める追加調査が必要になってくる。これが記事を書くことの難しさ。最初に考えたとおりには行かない。
本当は「今もセカンドギターか」「バンドに残ったか」のYes / Noの4パターンを網羅したい。
つまり、バンドに残ってリードギターに昇格した事例と、バンドに残らず、別のバンドのセカンドギターになった事例を網羅したい。それも有名どころで、自分がある程度知っていて、語れる程度の知識がある事例を書きたい。
……というわけで、考えてみる。
リードギターへの昇格はなかなか例がなさそうだ。もしかすると「リードギター」とか「セカンドギター」(リズムギター)というのは演奏するフレーズの種類だけの問題であり、担当の問題ではないのかもしれない。
となると、そもそも問題の設定自体に間違いがありそうだ。
「バンドに残らずセカンドギターになった」という事例は、ツインギター->ツインギターのバンド移籍がありうる、という前提だ。この考えはちょっと面白いかもしれない。……と思ってまたGoogleをたどりまくる。答えが見つかるまで時間がかかる。
しかし問題の設定自体に間違いがあるかどうかは、ある程度書き進めないと分からない。調べれば分かることだが、書く前に調べる、ということを徹底しなければ、その問題は回避できない。
書く前に調べることは、今自分が仕事としているシステム開発なら当たり前だろうが、仕事でやっているそのスタンスを自分の文章に適用しようとすると、ますます筆が重くなる。
そして、ついには執筆が止まってしまうのだ。
何も調べずに書く勇気(Write More, Think Less)
というわけで、事実をベースにして書くことは、とても根気がいることだ。
そして同時に、いつのまにか自分が書いているものは、そういうものばかりになっていた、ということでもある。
大学のレポートのようにテキストを書くのが、身に染みついてしまったのかもしれない、と思う。もっと断片的、叙情的でもよい。